大掃除をしよう
雨ばかりが、降り続いている。
「大掃除をしよう」
次の日、声を取り戻したユキがまず口にしたのがその言葉だった。
営業を終えて久しいこのミュージアムはたしかに清潔とはいえない。
並べられたオルゴールにはほこりが積もっているし、窓ガラスは汚れてくすんでいる。
けれど、どうしてユキがいきなりそんなことを言い出したのかわからなかった。
「掃除の基本は隅々まで、だよ」
そんなわけで、大掃除がはじまった。
ユキはホールに展示されているオルゴールのほこりを落とし、オレは館内を雑巾がけして回った。
最初は文句を言っていたものの、ミュージアムがきれいになっていくにつれてオレの心も洗われていくようで。雨が上がってからの自分にだんだん期待がもてるようになっていった。
「……またかよ」
掃除をしている間、ユキが鳴らしているオルゴールの音がずっときこえていた。
いろいろなオルゴールで様々な曲が再生されていた。中でも「結婚行進曲」のリピート率だけがやたらと高かった。どうやら気に入ったらしい。
「たん、たん、たたんたんたんたん」
リズムに合わせて雑巾をかける。
スニーカーが床を叩いて小気味いい音を鳴らしていく。
玄関を回り、階段の手すりを撫で、レストランの前でポーズを決める。
「……げっ」
視線を感じて振り返ると、ホールからこちらを覗いていたユキがクスクスと笑っていた。
それが、このミュージアムでユキが漏らした最後の笑い声だった。
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