増えたよな、水泡

 次の日も雨だった。


 ユキの目が青くなっている時間がずいぶん増えていた。髪はもう、ずっと赤いままだ。

「外を歩きたい」とユキが言うので、オレたちは傘を差してミュージアムを出た。

 ユキが傘を持ち、オレはユキの肩を抱いた。

 もたれかかってくる彼女の身体は空のペットボトルくらいの重量しかない。


「増えたよな、水泡」

「そうかな?」


 ぷくぷくと昇る水泡が傘の裏ではじける。

 温度も湿度もない水滴がオレとユキの頭にかかる。


「傘、意味ないかな?」

「そうでもないさ」

「ごめんね」


 たくさん話をした中で、ユキがふいに漏らしたその言葉だけがずっと胸にこびりついていた。

 ユキに謝られたのは初めてのことだった。


「なあ。べつに雨が上がるのを待たなくても、このまま歩いて山頂までいけるんじゃないか?」


 庭園にある池をゆっくりとしたペースで周回しながらオレはそう口にした。

「うん。そうだね」と、ユキも頷いた。


 けれど結局、オレたちが山頂のほうに向かうことはなかった。

 屋根の下で傘を畳みながら「明日も雨、降っててほしいな」とユキは言った。

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