カクヨムアセット職人への道のり

ちびまるフォイ

私が作りましたと言える度胸

カクヨムアセットストアというのをご存知だろうか。


小説を書きたいのにアイデアが思いつかない。

新しいキャラクターが思いつかない。

ファンタジーの知識がないので世界設定が書けない。


そんな利用者の悩みに答えるのが『アセットストア』。


ストアでは別の誰かが書いた設定などが『アセット』として投稿される。


アセットからインスピレーションを受けて書いてもいいし、

なんならアセットそのものを使って書いてもいい。


そんな便利なものが『カクヨムアセットストア』


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「アセットストア、ねぇ」


カクヨムアセットストアのサービス開始から半年。

そんなのは創作力をなくす悪魔の権化だ、などと批判小説を書いた俺だが

今は小説のアイデア不足にあえいでいる。


「……まあ創作のたしになるかもしれないし、覗くだけ覗いてみよう」


覚せい剤に手を出す人のような言葉でアセットストアを覗いた。

そこには網羅できないほど大量のアセットがユーザーの手で投稿されていた。


ストーリーよりもキャラ設定を書くのが好きな人。

キャラよりも世界観の細かい設定を作り込むのが好きな人。


そういったアセットを主に投稿している人、

もしくは人気アセット投稿者をカクヨム内では『職人』などと呼ばれていた。


「これはすごいな……!」


アセット職人の設定を見てみると、どれも独創的で凝っている。

これを使えば誰がどう書いても面白くなる気がする。


そのうち1つのアセットを使って小説を作り上げるのに10分もかからなかった。


「できた! いやぁ、しっかりした土台があると書きやすいなぁ!」


まるで下書きをなぞるように楽に書けた。

産みの苦しみなどと表現される作品作りももう古い。


投稿してから数日に凄まじいほどの高評価がやってきた。


「すげぇ! 歴代で最高レビューじゃないか!」


もはやお礼のコメントが間に合わないほどに高評価が押し寄せる。

小説の土台となったアセットはもちろんだがそれ以上に作品そのものへの評価が多い。


「材料が良くて、料理人の腕がよかったってことだな! わっはっは!」


自画自賛に浸る時間もなく、次の言葉がかけられた。



>次回作、楽しみにしてます!!



「う゛っ……じ、次回作……」


自分でも最高傑作を書き上げた自負が冷めやらぬうちに次回作。

はたして、もう一度これほどの小説がかけるのだろうか。


ふたたびアセットストアを覗いてみる。


「う、うぅーーん……どれもイマイチだなぁ……」


皮肉にも1作目がアセット職人のものを使ってしまったせいで、

目が肥えてしまい何を見てもつまらなく感じてしまう。


もっとこれまでにない設定で。

より個性的かつ魅力的で。

読んだ人が布団の中で空想したくなるような世界観。


そんなのはそうそうない。

あったとしてもアセット職人のものだから、他のユーザーも使用可能。


"あ、これ別の〇〇の作品と同じアセットだね"


など言われたら、ちょっとプライドが傷つく。

問題はないはずなのにパチもん扱いされているような……。


「待てよ。オーダーメイドでアセット作ってもらえないだろうか」


アセット職人に次の小説を書くので設定を考えてほしいと頼むと快く受けてくれた。


「もちろんですよ。大歓迎です。

 作品作りに名前が残せるなんて光栄です!」


「そうなんですか?」


「僕のアセットを使った作品には僕の名前出ませんからね。

 でも、こうして直接作品にかかわらせてもらえるなら、

 制作協力とか原作とか設定とかの肩書がつくのが嬉しいんですよ」


「それじゃ1週間後にまた」


1週間後にアセット職人のもとへ行くと、指定した量の20倍位の設定が用意されていた。


「いやぁ、つい筆がのっちゃってたくさん準備しちゃいました。

 作品に関われると思うとテンション上がっちゃって」


「……」


「どうですか? これまでにないほど凝った設定でしょう?」


「な、なんか……ありきたり……」


「えっ?」


ノリノリのアセット職人には悪いが用意されていたオーダーメイドの設定は

どれも既視感のある設定ばかりだった。


「アセットストアに投稿されていたのはもっと尖った設定だったのに……」


「あれは、誰がどの作品に使われるかわからないんで

 もう"どうなってもいいや!"って感じで書いていましたから」


「うーーん……」


「で、でも! 今の読者の傾向や、アセットの使用頻度も分析して

 こういった設定が今の流行にバッチリなんですよ!」


自分の設定がそのまま作品として作られるのが保証されるや

急に流行を気にしてしまい丸くなってしまう。

学校内の爆笑王がいざカメラの前に出るとスベリ倒すように。


一応、提供してもらったアセットは持ち帰って書き始めるもすぐに手が止まる。


「ああ、ダメだ! 自分でも面白くないとわかっているのに、これ以上書けない!」


こうなったら自分で設定をひねり出すしか無い。

そう思ってからすでに3時間が経過しても何も出てこない。


最近はアセットに頼り切っていたので自分からなにか考えることがなかった。


それだけにゼロからなにか考えるなんてもうできない。


次回作の要望はますます増える。

読者の期待が集まり、期待に答えたい気持ちも湧いてくる。

けれど、けしてアイデアは思いつかない。



「あああ!! いったいどうすればいいんだーー!!」



そのとき、



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーアセットここまで



「あ、ここで切っていいですよ」



「え? これから、自分の投稿した過去作を振り返って

 そこからアイデアを引き出して人気になるっていう展開なのに」


「ええ、だからこそです。

 エンディングまで書き切っちゃうとそれは作品。アセットじゃないんです」


「9割書いてるからアセットとも言えるんですかね」


「言えますよ。完成していない限り作品ではないですから。

 それにアセット利用者によってエンディングは未知数です」


エンディング以外を書き上げた小説をアセットとして投稿する。

それを見て満足そうしている人に訪ねた。


「でも、このアセットを使って書いたとして

 作者には書き上げたっていう喜びはあるんですかね?」


「もちろん。オチ部分は書いてるわけですから」


男は笑って答えた。



「レンジで温めるだけで料理ができるなら、みんな使うでしょう?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

カクヨムアセット職人への道のり ちびまるフォイ @firestorage

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ