魔王様、復活ですよ!(後)
目の前にいるのは、魔王様ではありませんでした。いや、魔王様の面影というか雰囲気はあります。しかしこれは……どういうことでしょう。まさか、これが魔王様だでもいうのでしょうか?
この……幼女が!?
「ま、ままま魔王様? か、鏡を」
「鏡?」
私はそこらへんに放置されていた鏡片を幼女の前に置きました。
「……な、な、な……なんじゃこりゃぁぁぁぁああぁぁぁぁあぁぁぁぁっ!?」
幼女が絶叫します。
「これが、これが余だというのか!? 性別まで変わっているじゃないか! アモン、貴様まさか、復活の呪文を間違えたか!」
「い、いや……そんなはずは。この書物にかかれた通りの呪文を……」
幼女は私が差し出した書を奪うように手に取りました。
「こ、これは魔王復活の呪文じゃなく、異界召喚の呪文じゃないか!!!」
「……はぃぃ!?」
異界召喚の……呪文?
そんな馬鹿なぁ。
「しかし確かに、ベルゼブブ様はこれであっていると」
「あんの耄碌じいがーっ! じい、じい! どこにいった!」
「べ、ベルゼブブ様は魔王様の魂の欠片を飲み込んでいた、幻魔獣バロゥスを倒すために命を……」
――。
魔王様のこと、頼んだぞぃ!
そういって自爆したベルゼブブ様のにかっとした笑顔は今も頭に残っています。
幼女は項垂れ、ふるふると震える。
「くっ! じいめ。死んでしまっては、怒ることもできぬではないか」
ベルゼブブ様は、先代より魔王様に仕える重鎮。誰よりも魔王様との付き合いが長いお方でした。
幼女もとい魔王様の無念が伝わってきます。ああ、涙が。
「ま、あのじいのことだ。そう簡単には死なぬだろう。前に木っ端みじんにした時なんざ、3日後くらいには再生していたからな。それよりも、この状況だ」
「は、はい」
「異界召喚の呪文によって、どこかの世界の童が召喚され、そこに我が魂が定着してしまったということなのだろうが……しかし、そもそも余の身体はどこに消えたというのだ。ううむ」
魔王様は腕を組んで唸ります。
「勇者の最強の一撃を受けても砕けなかったあの肉体が消滅するとは考えにくい。となると……まさか異界に? 異世界のゲートが開いた時にこの童の身体と入れ替わったか……ううむ。となればもう一度呪文だ! アモン!」
魔王様がびしっと人差し指で私を指し示します。私は息を呑み、言葉を吐き出します。
「……申し訳ございません、魔王様。私の魔力はすでに尽きております。それに私の魔法レベルは低く、仮に成功したとしてもどこの異界へと繋がるかわかりません」
「くっ! こんな時にじいがおれば!」
「はい、ぼっちゃま。お呼びでしょうか」
――!
「じい!」「ベルゼブブ様!?」
振り返ると、そこには何事もなかったかのような涼しげな顔で、白いひげを撫でて、ほっほと笑っているベルゼブブ様がいるではありませんか。なんと!
「いたなら早くこの状況をなんとかせい! 貴様のせいでえらいことになってしまったぞ、耄碌じいが!!」
魔王様はすごみましたが、幼女の姿なのでかわいいばかりです。元の姿であればその眼光で魔物すら射殺す凄みがあるのですが……。
「はてはて、おかしいですな、どこでなにを間違ったのやら。しかし、ふむ、厄介ですのぅ。異世界はそれこそ無限にありますじゃ。その中から魔王様の身体がどこに行ったのかを特定するのは難しいでしょうなぁ」
「むむむ」
「あ、あの、私、魔王様の魂の力というか魔力というかなんというか、そういったものを感知できるので、もし魔王様の身体に力が残っていれば感知できるかもしれません」
「それだ!」
魔王様の顔が輝きます。
「ふむ。しかし、こやつのへっぽこ魔法レベルでは次元を超えてまでは感知できますまいて。そもそもこやつは本来、ただの剣士ですからのぅ。呪文を再現できるかどうかもあやしい……というかアモン、おぬし消えかけてね?」
意識も消えかけております。というかもう喋れません。全てを使い果たしたカスみたいなものです、今の私。
「仕方ないのぅ。わしの魔力をわけてやるわぃ」
「あ」
力がみなぎってきました。消えかけた身体も戻ります。
「といっても、あとは自分で魔力を生成できなければいずれ消えるのぅ。魔法レベル低すぎて、魔素を取り込むこともできんとは厄介の極み」
「力のステータスに極振りしおったからな、こいつ」
魔王様が倒され、世界の闇の要素、通称『魔素』が薄れてしまいました。私たち闇の一族はこの『魔素』をマナの代わりに取り込まないと生きていくことができないのです。薄れた魔素を取り込むには一定以上の魔法レベルが必要だったのですが、私はそれを下回ってしまっていました。普通の闇の一族であれば最低限備え持ったものを私は持っていないのです。闇の一族としては欠陥品、いわゆるポンコツというやつです。いやはやお恥ずかしい。
「これでは勇者、人間どもに復讐し、この世界を取り戻すどころではないな」
「ふむ。闇の一族も弱体化した上、数も半数以下に。さらにその8割ほどは人間たちと共に生活をしている始末ですじゃ」
「人間たちと!? どういうことだそれは!」
「そこらへんの話は後で詳しくお聞かせしますわぃ。ん、まてよ……人間……そうじゃ!!」
ベルゼブブ様はにかっと笑い、私を指さします。
「おぬし、魔法使いにクラスチェンジせよ!」
「へ?」
この時から私のさらなる苦難は始まるのでした。とほほ。
ダンジョンに行こう! るーいん @naruki1981
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