その二

 反物をはらりと広げたようなこの世界。

 横に長く伸びるその東端に、桜津国おうつのくにという島国がある。


 神の化身といわれる、五色の龍が棲まう清らかな地。

 それは夜の精によって磨かれた太陽が、日の出の刹那に最も清浄な光で照らす、守られし地であるが故のこと。


 異国からは “龍国りゅうこく” とも呼ばれるこの国にも、人々のささやかな暮らしがあり、それを束ねるおさがいる。


 その昔、雷に撃たれた龍の子を助けた村長むらおさの子が、五色の龍から子々孫々龍の加護を受けることを約束されたという伝説。

 その一族は後に国を束ね、天下泰平に国を治め、民のために五穀豊穣を祈る役割を担うようになった。


 そんな営みを千年続けてきた桜津国で、“つかわし” と呼ばれる赤子が、この日小さな産声を上げた。


 十二年に一度、たった一日だけ艶やかな花を咲かせる、清らなる谷の龍鱗桜りゅうりんざくら

 清々しい朝日を受けて無数の蕾が一斉に開花する刹那、桜津の国内では龍の通力つうりきを授けられし赤子が男女ひとりずつ生まれる。


 祝福の証を右肩に刻んだふたりの赤子は、男はかえで、女は花祝かしくと名づけられ、それぞれの両親の元で大切に育てられた。


 彼らは数え十七の春、桜花京おうかきょうの内裏に召されることになる。


 楓は、“かさね” を染める龍染司りゅうぜんのつかさとして。

 花祝は、“襲” を纏いて邪気を退ける、龍侍司りゅうじのつかさとして。


 龍の通力を持つ者は、力を返すその日まで、龍からの “遣わし” としてみかどを守り、この国の泰平を守るのが運命さだめ


 これもまた、桜津国に千年続く伝統なのである。

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