○○フレンド Another

天照てんてる

ハルカとレン

「ハルカ」



「なぁに、レン?」



 上目遣いでレンを見上げるハルカ。



「オレは彼氏でもないんだしそういうあざといのやめてよ」



「私はレンが私のことが好きになってくれると嬉しいんだけど……?」



 レンったら、鈍いんだから。


 気付いてよ、あたしのキモチ。



「お前にはしっかりとタツヤという彼氏がいるでしょうが。どうしてこんなことに……」



「だって、足りないから……」



 足りない。あたしの支えは、ひとりじゃ足りない。


 いつからこんなことになったのだろうか。


 どうしてこんな関係になったのだろうか。



 そんなことを考えるのが無益に思える段階へと入ってしまっているのもまた事実。



「はぁ。。。」



 ひとつ大きなため息をつくレン。


 空を見上げれば暗雲立ち込め雨が降ってきている。



「はぁ。。。」



 空を見上げてもう一度大きなため息をつく。



 その空がレンに訴える。


 白と黒とが入り混じったその灰色の雲が自分たちの関係のグレーさを表しているかのように感じてしまった。


 あたしのココロは、曇り空。



 後ろ髪が軽く雨に濡れた。



 いっそ、この雨みたいに、泣けたらいいのに。





「もう、こんなところで何するつもり?」



「何もしないって。」



「本当に?」



「本当だ。ってかなんでちょっと期待のこもった目を向けてきてるんだよ。そういうのはタツヤがいるだろ。」



 ぷくーっと頬を膨らませる。



「今はタツヤじゃなくてレンなの。」



 タツヤとは、昨日ケンカしたばかり。仲直り、できるかな。



 レンの親友。頼っちゃいけない相手。でも……。



───あたしは、弥生ハルカは以前に一度、如月レンを振っているのに。






 こんな場所に。



 校舎裏などという場所ではなくもっと際どい校舎と校舎の間にある入り組んだような際どい場所。普通にしていれば誰も気が付かずにスルーして行くような場所。



 校舎の屋上の端の部分から垂れてくる雨粒を被ったところでレンの頭を冷やしてはくれない。



 逆に、今日の雨は更にこの場所に近づいてくる人をシャットダウンし要塞へと変化させる特異性も持っていた。


 人に見つからないという意味では雨を恵と受け取ることが出来るかもしれない。



「で、何だって?」



「もーーーっ、わかってるくせに」



「えーーーっ」



「レン、私の目を見なさい!」



 頬を抑えてこられて、くるりとレンの顔はハルカの方向へと強制的に向けさせる。



 そこにあるのは当たり前だけどレンの顔。


 出会った当時はあまり印象がなかった。ちょっとカッコイイけどそこら辺にいそうな男の子だなという程度にしか認識していなかっただろうか。



 今となってはまったく変わったその印象。



 確かに超イケメンでは無い。


 けれども彼と一緒に過ごしているうちにそんな印象は変わる。そう、一瞬にして。



 カッコイイと言うよりもオーラのようなものをあたしは感じた。


 というか感じてしまったのだ。



 似た者同士だったからお互いのことがよくわかった。



 あたしはまっすぐにレンを見つめる。

 まっすぐに。まっすぐに。まっすぐに。


 そして、温かいレンの頰から手を離す。寂しさを覚えながら。


 



「見たけど?」



「むふふっ。」



 無理して笑って見せた。



 レンの瞳の中には写る自分が見える。良くも悪くも特徴のない顔をする人間が喜色と悲色と悔色とを混じり合わせてただただそこに居た。



 ただただ見つめあい続けるあたしたち。レンは、いつ目を逸らすだろう……?



 どのくらい、お互い見つめあっていたのだろうか。



「ねぇ、」



 無邪気に笑ってみせる。



「、して?」



 そして、両手を横に広げる。おねだりのサイン。



「タツヤに悪いし……」



「私がいいもん!」



「ハルカの問題じゃなくて俺の良心の呵責の問題なんだが……」



 えいっ! と掛け声をかけて、レンに抱きつく。



 ハグをする。




 別に何も悪いことをしているわけでもない。


 ほかの国では挨拶でキスまでするような国だってある。


 それに比べたらこんなハグなんて全然大したことないじゃないの。そんなふうに自分を諌めることしか出来ない。



 なんて言い訳をしてみたもののやっぱり嬉しさは隠しきれないのかもしれない。



 薄着のこの季節、抱擁しているとほぼダイレクトに彼の温かさを感じてしまう。


 筋肉と脂肪が、ほどよく付いた彼。


 ダメなのに。


 だめなのだ。



 ダメだとわかっていてやるからこそ。


 逆に何かが燃えてしまう。



 しばしして2人は離れる。



「えへへっ、」



「なんだよ」



「レンの成分補給完了!」



 成分補給。照れ隠しの、あたしの台詞。



 そして2人は日陰から日向へと時間をずらして戻っていくのだった。



 最後にあたしが言ったことを思い出す。



「ねぇ、私レンと付き合った方が良かったのかな……」



 どうして振っちゃったんだろう。時間が、戻ればいいのに。

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