カラン、カラン

歩きながら、缶を蹴る。

缶が進んだ方に足を進め、また缶を蹴る。

缶は僕に蹴られるままに進んでいく。僕もまた缶が進むがままに進んでいく。


「うるさいぞ」


箒を持っていたおじさんが僕を怒鳴りつける。


「人や車にあたったら、どうするんだ」


無視だ。学校でも変な人にはかかわらないようにって言っていたし。

あの後も何か言っていたような気がしていたが、僕は缶を最後に

空に向かって蹴り飛ばし、走って家に帰った。


自販機のちょっと離れたところは、缶が捨ててあることが多い。

今日の獲物は大きい。いつもの350mlの缶ではなく、500mlだ。

500mlの缶は、缶が大きく、蹴りやすい。

缶を蹴る、飛ぶ。楽しい。いつも違い缶を蹴れることにとても

気分が高まる。


僕は気持ちに任せ、缶を思いっきり飛ばした。


缶は放物線を描いて、飛んでいく。

ゆっくりと地球に引き寄せられ、車のミラーにあたった。


車から、ツーブロックのいかつい人が出てきた。

僕の気持ちは、一気に冷えた。体がびくびくして、動けない。

あまたが真っ白になる。


「おい、ガキ」


いかつい人はもうそばまで来ていた。車を親指で指さし、腹の底から低い声を出す。


「なんか言うことないか」


怖かった。何か、何か言わないと。そうだ。謝るんだ、謝んないと。

口が動かない。


「聞いてんのか、ガキ。なんか、いうことねぇのかって聞いてんだよ」

「にぃちゃん、ちょっと」


箒をもったおじさんが割って入ってきた。

おじさんといかつい人が話し合う。

話し声は大きいくなったり、小さくなったり。


心臓のどきどきが落ち着いてきたころ。

いかつい人は、僕をにらめつけるて、車に戻っていった。

罪悪感を、強く感じた。


おじさんはこちらをじっくりと見てから、口を開いた。


「これに懲りたら、缶蹴りなんてやめるんだな」


おじさんがかぶりを反対に向け、ゆっくりと歩く。

これだけは言っておかないと。


「あ、あの」


声を絞りだした。


「ありがとうございます」


おじさんは、長い息を吐いて、こちらを一瞥して去っていった。


今日もまた缶を見つけた。

足が自然に缶の前へとでた。僕は缶を、そっと持ち上げた。

そして、缶を自販機の横のリサイクルボックスに入れた。


カラン、カラン。


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短編集 池の主 @ghuieasa

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