ホラー・ミラー

深夜1時。


遊園地の廃墟を慣れた足取りで探索する24歳男性。

ヘッドライト、防塵マスクをつけ、ハンドグリップを付けた撮影スマホを手に、

奥へ奥へと進んでいく。


「あの時とよりもっと廃れたな」


大学生時代、よーちゅぶに挙げた遊園地の廃墟探索動画がバズり、100万再生。

その後も初期の勢いはなくなり、安定した再生数になっても堅実に動画

を作成し続けた。コメント欄の応援コメントを見ては、頬を緩め、やりがいを

知った。


大学卒業後、彼は融通の利きやすい短期のバイトをしながら動画投稿者として活動していた。


メリーゴーランド、コーヒカップ、ジェットコースターなどを

巡り、動画としてはもう完成られるほど撮り溜めはできていた。

定番中の定番は回り切ったはずだったが


「なんかパンチが足りない」


動画として、いまいち絵に欠ける。

それが動画投稿者としての感想だった。

初心に帰って同じところを探索しても、面白くはならないのか。

そう思いつつも、あの場所を取らずに帰ることは選択肢になかった。


奥へ進むたび、だんだんと定番な乗り物からマイナーな物へ変わっていく。


「ようやく戻ってきたか」


鏡の館であった。


鏡の館、数百枚の姿見でできた迷路。鏡と鏡が反射しあい、単純な迷路よりも

幻想的な空間にいるように感じる場所である。


深呼吸。


「よし、行こう」


館に入ると光が鏡に入り込んだ。

鏡は光を反射し、別の鏡へ、別の鏡が別の別の鏡へ。


一つしかなかった像が何重にもなっていく。

自分が動く、何重にも重なった自分も動く。


懐かしさと好奇心が足取りを止めない。

迷路の中間あたりに差し込んだ時、ヘッドライトが消えた。


不意に消えた明りに恐怖がこみ上げたが、動画のネタになるという

喜びが圧倒的だった。


期待一杯で胸をときめかせながら、素早い動作でスマホのライトをつけた。


「何も起こらないか」


鏡は、意気消沈した自分の表情を移していた。


今日の撮影はここまでかな。


出口に向かって体を動かす...動かせない。

鏡に向けた体の向きを変えられない。


鏡の中の自分が笑った。

ゆっくりと体が鏡に引き込まれる。


「うっ、やばい。鏡に...撮影しないと」


引き寄せられるからだでスマホを、床に置いた。


鏡に体が飲み込まれていく。必死に足を地面に着け、抵抗するも、

一気に飲み込まれてしまった。


スマホは動画を取り続けている。


鏡から、笑みを浮かべた同じ姿の人間が出ていくところも。

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