3.私、美容に目がなくって

岩盤浴。

床に寝そべり、床からのじんわりとした温かさと空間の適度な暑さが

体を芯から温めてくれる。寝そべりながら温まることで、筋肉の緊張が

弛緩していく。ザ・リラックス、気持ちいい。



「岩盤浴に行かないか」


昼休み、昼食中。

机をがっちんこさせ、お向さんに座る久子にそう切り出した。


「岩盤浴?」

「そう、岩盤浴」

「岩盤浴ってあれでしょ、おじさん達の死体安置所みたいに並んで、

熱と共に汗と臭気をまき散らしていそうな場所」


私は、渋い表情を浮かべた。


「そんなんじゃないし。確かにおじさんの割合は多いけど、においなんて

しないよ」

「...」

「後、最近はほら。サウナーや岩盤浴女子とかって流行ってて、来てるんだって。

時代についてくるのだよ、久子よ」

「それって、あれだよね。メディアの情報が好きで、自分より他人の感想で生きてるって人だよね」

「そんな見方しなくていいのに...もぉー、相変わらず毒舌なんだから」


久子はちょっと他人と違う。人がかわいい動物特集を見ているときに、いきなり爬虫類よりはまだ可愛げがあるわねと話しかけるやつだ。あの時は、びっくりした。


でも私は、久子のそんな他の人とちょっと違うところが好きだ。

だから、こうして誘っている。


「んで、どうどう。行ってみないかね、岩盤浴」

「岩盤浴ね...」

「汗を流すことで肌の保湿に繋がって、美容効果もあるのじゃよ。」

「美容!」


メディア云々いう癖に、美容効果の売り文句に弱い女の子なのだ。

久子は顎に手を置き、口を一文字に結んで悩み始めた。そして、時計の長い針が半周したごろ、硬くふさがっていた口を開いた。


「そうね、でもいま金欠気味で...」

「ふっふっふぅ、その言葉を待っていましたよ」


机に2枚のチケットを取り出した。


「まさか、これは無料券?」

「そう、無料券。無料、無料!」

「あなた!!」

「な、なに?」


荒げた声に、驚きつつも爛々と目を輝かせた久子に問い返した。


「早く行きましょ、岩盤浴。肌は潤いを求めいているのよ。

さぁ、私たちの角質層の渇きを満たしに、オアシスへ」


手早い動作で久子は帰宅の準備を始めた。


「って、ちょっと待って。まだ昼休みだよ~~~」



この後、昼休みいっぱい久子をなだめて、放課後二人で岩盤浴を満喫しました。

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