2.挨拶をするのが苦手なシャイボーイ

今日は朝会があり、委員会の仕事がある僕は普段より早めに教室についた。

誰もいないと思って教室に入ろうとすると大きな声が聞こえ、なんとなく教室

の引き戸に伸ばした手を引っ込めた。


「挨拶って難しいよな」


引き戸のガラスからなかを除いて見ると、中には斎藤と西田がいた。

どうやら、斎藤の悩みに西田が答えているようだった。


「難しいものか。おはよう、こんにちは、こんばんは。ほら簡単だろ」

「そんな突飛に言うやつじゃなくて。もっとこうかしこまったやつだよ」

「かしこまる?名刺でも渡すのか?」

「いや、名刺は渡さないよ。俺マンションに住んでるだけどさ。

他の住人とすれ違うときにあるだろ?そういうときの話だ」


西田は眉間に皺をよせ、少しの間をおいてから口を開いた。


「それが、どう難しんだ?」

「あ……あれだ。マンションってたくさんの人が住んでいるからさ。

色んな人がいるわけで年齢層が幅広いじゃん。それで、挨拶にも

色んな挨拶があってそれをどう使い分けるかがむずかしいんだよ」

「あ、そういうことか。要はおはようなのか、おはようございますか、

どれで挨拶すればいいかわかないと」


斎藤は目を大きく開いて、頬を緩ませ答える。


「そう、それ」

「なら簡単だぞ。一番無難な挨拶をすればいい」

「無難って。小学生から高齢者までいるんだぞ。何を言えばいいんだ」

「おはようございますのような目上の人に合わせた挨拶でいいんだ。

年上の人に対しては普通な挨拶になるし、年下にはお上品そうに感じるだろう」


斎藤は窓からそらを見上げ、数秒後、やがて感動したような表情でまじまじと西田を見た。


「お前……天才か」

「天才ですとも」


含み笑いを浮かべて西田は冗談気に返す。

僕はそんな和やか雰囲気に当てられ、引き戸を引きて彼らに近くに行った。


「おはよう」

「おはようございます、委員長」


斎藤は同じくらい大きな声で挨拶を返したが、西野は声を出さず、頭を上下に少し動かした程度だった。

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