◆第34話◆「なんだかなぁ、空気をつくれ!」

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 ───↓ 本編 ↓────


 何か他に手は───?!


「て、てててて、天井に穴を開けなさいよ! 上階に逃げましょう!? んね?!」

 リスティが名案を思い付いたと言わんばかりにいうが、

「無茶言うな! どれだけ分厚いと思っているんだ?! さっきの壁の厚さ見ただろうが!」


 圧力が一方口からしかかからない地上階ならともかく、地階は土圧から構造を守らなければならないため、地上階よりも遥かに頑丈に作られている。


 それも天井部分となればなおさらだ。


「じゃ、じゃあ、水を堰き止めましょう? に、兄さんの魔法で氷の壁を作って」


 あーもう!


「魔法は万能じゃないんだよ!!」

「じゃあなんとかしなさいよ!!」


 ぎゃーぎゃーぎゃー!


 ゼロ距離に近い場所でリスティがキンキン吼える。

 うんざりしつつも、焦りは募るばかり。


 やはり、排水が追いつていない。

 オーガやアリゲーターフィッシュという遺物が派生ダンジョン側に詰まっているのだろう。


 それでも全く排水できていないわけではないのだが……。


「ちょ……!! あ、足まで水が来てるわよ?!」


 ぐ……!


 凍えるような冷たさの湖水がジワジワと上昇し始めた。

 そのうち体全体が水没するのも時間の問題だ。


 しかも質の悪いことに水流が奥へ奥へと続いているため迂闊に水中に身を投げ出せば派生ダンジョン側に吸い込まれていくだろう。

 あたかも、水洗便所に流れるウ〇コのように。


「もう少しだけ耐えろ。かなりの水量が流れている。時期湖の水位も下がるはずだ」

「それはいつまでなのよ!!」


 リスティは物凄い剣幕でジェイクに食って掛かる。

 冷静なのはリズばかり。


 彼女は油断なく水面と通路を警戒している。

 通路からはオーガどもが性懲りもなく現れては勝手に流されていき、壁に飽けた穴からはアリゲーターフィッシュが流されてくる。


 そして、そのうちに───。


「う、ぐ……。もう、1分ももたないぞ!」


 ジェイクやビィトはまだ身長がある分、梁の上で立てばなんとかなるが、小柄なリズやエミリィは既に足がついていない様子。

 ジェイクがさり気なくリズに手を貸してやり彼女を水面に押し上げているが、どの道すぐに二人とも水没するのは目に見えていた。

 そして、エミリィも溺れそうになっていたのでビィトが軽く抱き上げ何とか水面から顔を出してやっているが───限界だ。


「く……くそ! ここまでか!」


 ジェイクが悔しそうに顔を歪める。


「まだだ! まだ諦めるな!」

「黙ってろ───間抜け」


 くそ、こんな時まで頑なな奴だな……。


「え、エミリィは大丈夫?」

「あっぷ、あぷ……。う、うん」


 気丈に頷くも、青ざめた顔は水の冷たさのせいばかりではないだろう。


「ごめんね……。どうやら、ここまでみたいだ」


 いつもいつもピンチばかりだけど、これは極めつけだ。

 しかも間抜けなことに、自ら仕掛けてからの大失敗。


 チャンと排水量くらい考慮すればこんなことには……。


「ううん……。お兄ちゃんのせいじゃないよ」 

 エミリィはこんな時でもニコリと笑い、ビィトを励まそうとしてくる。


「ありがとう。そう言ってくれるのはエミリィ───がぼぼ!」


 うぐ……!


 遂にビィトの顔の位置まで水が───。


「ぐ!……くそ! おぼれ死ぬなんて───くそ!!」

「あば、あばばばば! く、空気ぃぃぃい!」


 ジェイクももう水没寸前。

 リスティは既に足がついておらずロープにつかまり水流に流される寸前でプカプカと浮いている。


 空気、空気!! と叫ぶ元気はあるらしいが、飯をがっついていた時のように今度は空気に食らいつきそう───……。


「あ!」

「あぁ!」


 ビィトは思いつく。

 エミリィも思いついたらしい。


「なんだ? どうした?!」


 ジェイクが期待に満ちた目でビィト達を見る。

 そして、


「お兄ちゃん、水筒!!」

「うん! 荷物の中!」


 は?


「おい、ビィト!! こんな時に水だと?! そこらにあるから勝手に飲めッ、この間抜け!!」


 口汚く罵るジェイク。

 だが、ビィトは全く気にした風もなく、荷物から皮の水筒やらを取り出しエミリィに渡し、自分も手分けして手元に準備する。

 そして、ジェイクには、


「ジェイク!」


 残されたわずかな空間を使いビールの入った小樽を投げ寄越す。


「ば! こんな時に酒なんざいるか!」

「違うッ! 空気だ!」

「は?………………………ッ! そうか!」


 ジェイクもようやく気付いたらしい。


 エミリィはすぐに作業にうつり、皮の水筒から水をぬいて、目いっぱい空気を入れて紐で体に固定していく。


「そっちも水筒があったら何とか空気を確保しろ」

「───ジェイクさま、私が!」


 リズはすぐさま反応し、ジェイクや自分の持ち物から水筒を取り出し水の代わりに空気をいれていく。


 いくらももつものではないが、数があれば少しは空気が確保できる。 

 それに、幸いにもビィトの荷物の中にはそこそこ密閉できるものがあった。


 ポーションの瓶に、ワイン瓶やビール樽。それにエミリィのジャムや予備の水筒等々!


「足りるか?」

「わからん!」


 手持ちの容器全てを開けて、中身を只の空気に入れ替えた。

 しかし、この状況では高級ポーションよりも、一呼吸分の空気の方が万金にも値する。


 それでも足りるかどうか……!


「───ビィト! お前の氷魔法、確か調整できたな?」


 え?


「あ、あぁ……できるが、がぼ!」


 もう、限界だ!


「ごほっ……! く、ごぼ、空気を含ませた氷を、ガホ! 天井に固定───」


 ガボン!





 ──遂にジェイクも水没し、ビィトも水の中に没する。



 ─── あとがき ───


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