◆第33話◆「なんだかなぁ、こんな方法が……(後編)」
──どうするんだジェイク!!
「充分だ!! お前もさっさと退避しろッ」
ジェイクはそれでいいという。
しかし、本当に一時しのぎ。
水はチョロチョロと隙間から零れ、やがて氷の塊を吹き飛ばし壁を圧壊させることだろう。
崩壊をほんの少し先延ばしにしただけにすぎない───……。
「お兄ちゃん、急いで───!」
く!
「先に行く! ジェイク気をつけろッ」
「誰に、ものを言ってる───こんなのは余裕だぁっぁああ!」
──おらぁぁぁああああ!!
ガガガガガガガガガガガ!!
通路に迫りくるオーガを斬り捨て、次々に膾切りにしていくジェイク。
そして死体がドンドン、ドンドン積み上がっていく。
それをよじ登った地下の天井の梁から眺めるビィト。
それだけでもジェイクの凄まじい火力が分かる。
そして、それ以上に───。
「まさか、ジェイクの奴……」
(大丈夫だよな? ヤケクソになっていないだろうな??)
──おーーーーーらっぁぁぁあああああ!
と蛮声をあげオーガを切り殺し───そして、
「これでどうだぁぁぁあ!!」
「ふんッッッ」と、最後に気合一閃!!
ズバァッァア!! と、積み上がった死体の山を切り裂き、雪崩を起こして通路を一瞬で埋めてしまった。
「ははは! これでそう簡単には掘りだせないだろうッ」
言うが早いか踵を返したジェイクは脱兎のごとく駆け、
「そこをどけ、ビィト!」
リズにもエミリィにも助けを借りることなく、床を蹴り跳躍。
そして、壁を蹴り、反対の壁をまた蹴り───……たった一人であっという間に天井まで上り詰めてしまった。
リズも凄いが、コイツの運動能力も一体どうなっていやがる?
(それにしても死体のダムか……。たしかに、あれじゃ簡単にオーガでも掘り出せないな)
悔しいが、ジェイクの火力は本物で状況判断も適格だ。
「……っと、そろそろか?」
「多分な。……氷だけじゃ、もうもたないはずだ」
水圧は常にかかり続けている。
そして、僅かながら水も噴き出している。
一面を凍らせたとはいえ、氷は変質し───それを補助するビィトはすでに天井に避難している。
すなわち後は───……!
「くるッ!」
全員が梁にしがみ付く。
そしてその瞬間───!
「け、結構ドキドキね」
リスティの強がりが通路に響いたとき。
ピ、キキキキキキキ…………!
────────ドォン!!
まるで爆発でもしたかのように壁が吹き飛び、ビィトが半壊させたブロックが丸々一個欠落して、地下の反対までぶっ飛んで砕け散った。
そして、そのあとを追うように飛び出してきたのは大量の湖水!!
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!
凄まじい勢いで水が噴き出し地下通路を流れ落ち、派生ダンジョンへと流れていく。
「は! いいじゃないか!」
飛沫となった冷水に髪を濡らしながら、ジェイクは獰猛な笑みを浮かべて水流を満足気に眺めている。
たしかにリスティ発案にしては中々どうしていい感じだ。
「
そして、知ってか知らずか、リスティが不満気に目を細める。
……だって、
「それにしても……。派生ダンジョン側が溢れる事ってないのか?」
「さぁな」
そん時はそん時だ、とジェイクは楽観的。
まぁ、地下通路の先の派生ダンジョンもかなり広大だ。
その心配はしなくてもいいだろう。
しかし、流れ込む勢いが激しすぎて、地下への排水が追い付かず徐々に水位が上昇し始めている気がする。
湖丸々一個分の水を巨大な牙城とはいえその一区画の通路に流し込んでいるだけだ。
供給側と排水側が釣り合っていないのだろう。
とはいえ……。
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!
ドザァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!
「こ、これ大丈夫か?!」
「知るか!」
さすがにジェイクもそれに気づいたようだ。
天井の上とは言え、水うの水面よりも低い位置にある地下の通路だ。
おまけに、
「あ、お兄ちゃん!!──あそこ」
「え?」
ドバァァン! と、取り降り巨大な魚影が穴から飛び出してくる。
言わずと知れたアリゲーターフィッシュだろう。
「うわ……でっけぇ」
ビチビチと跳ね回るアリゲーターフィッシュ。
通路の端から端まで覆いそうなサイズの巨大なモンスター魚だ。
「す、凄いね……」
奴らが凄まじい勢いで流れ落ちていき、排水されていくが、その先で次々に通路に引っかかって詰まっている。
それが排水の流れを阻害し徐々に徐々にではあるが流れが鈍り始めて来た。
つまり、言い方は悪いが、金持ちが使っている水洗便所が詰まった時の
(しまった! さすがにアリゲーターフィッシュのことまで計算してないぞ?!)
見る間に水流が滞り始める。
「ぐ……!」
「ま、まずい! このままだと、いくらもしないうちに水没するぞ?」
時間にしてあと数分か?
徐々に上昇する水位。
まったく流れが無くなったわけではないが、水の供給よりも明らかに遅い。
もちろん、いずれは排水されるのだろうが……、このままだと、一時的にはここも冠水する様相を呈してきた。
こ、これは本当にマズイか?!
しかも、
「じ、ジェイク! 通路が───」
リスティが注意を促した方向。
ジェイクがオーガの死体で封鎖した通路が開放されてしまい、次々にオーガが這い出してきた。
「な?!」
あの先にしか行けないというのに!
「…………ほっとけ、連中すぐに溺れるさ!」
「その前に俺たちもヤバいぞ?!」
《グルァァ?!》
《グルァァアアアアアア??》
オーガは這い出してきた順に、次々に水流に飲み込まれていく。
排水の勢いがあるものだから泳げたとしても引きずりこまれているのだろう。
だが、魔の悪いことに連中が更に通路の詰まりを悪くしていく。
ただでさえジェイクの積み上げた死体の山がどんどん流され詰まっていくのだ。
「まずい……」
思ったよりも早く冠水する!!
この様子だと、溺れる。
そして、どのにも進めず、ビィトたちも水に入ったとたん吸い込まれて、緩やかに派生ダンジョン側に流される可能性が高い。
「くそ! どうする?!」
「水がなくなるか、冠水するのが先か───賭けるしかねぇだろ!」
そりゃそうだけど……!
このままではおぼれるのは明白だ、何か他に手は───?!
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