◆第33話◆「なんだかなぁ、こんな方法が……(中編)」

(「やれ!」だって……?)


 そんなこと……、言われるまでもない!

 狙いを定めてぇぇえ──────『小爆破』!



 ボォォォオン!!



 ビィトの18番オハコとも言える『小爆破』!

 そいつが狙い違わず石壁に炸裂すると、


 パッカァァァァアアン!!


 と小気味よい音を立てて石壁が剥離していった。

 見れば無数の穴によって脆くなった壁が『小爆破』に耐え切れず剥離していったらしい。


「よし、成功だ! ジェイク、次はさらに深く掘るけど……多分、次でいける・・・はずだ」

「わかった。お前はそっちに集中しろ───こっちは、そろそろお客さん・・・・だ!」


 ジェイクが刀を構えて腰を落とす。


「リスティ。まずは俺がやる───この狭い通路なら連中も飽和攻撃できん、だが、一応備えておけ」

「あいあーい」


 地下への通路は狭く曲がりくねっている。

 ゆえに、待ち伏せする側には実に有利なのだ。


「ビィト! こっちは任せておけ!」

「心配なんかしてないよ!」


 そうだ。

 こと戦闘において、ジェイクの心配などするわけがない。


 だから、ビィトはビィトの仕事をする。


「……爆破したばかりなのに、壁が冷え切ってる───地底湖が近いッ!」


 分厚い石のブロックの先───。

 その先───何万、何億リットルもの湖の水がこの先にッ!!


「一気に、いくぞ!」


 高圧縮水矢だと貫通してしまうかもしれない。

 だから、慎重に具合を確かめながら行かないと……。


 ビィトはジェイクの立てる戦闘音を聞きながら、壁の音に耳を澄ませ慎重に穴をあけていく。

 オーガの唸り声に混じってジェイクの裂帛の気合と剣戟と、何かと何かと何かと何かの衝突音が凄まじい───……!


 そこに混じって壁に耳をすませばプチプチとした気泡の弾ける音。

 小爆破により水中に空気が入ったのだろう。

 おそらく、もう数十センチほど先───!


「穴は過少。小爆破で一気に行く! エミリィ、リズ衝撃にそな」


 バキッ……。


「え?」


 み、水?


(まだ、魔法撃ってないぞ?! ど、どうして!)


「ちょ、ちょっと兄さん! 水……水が出てるわよ!」

「なんだと? ビィト、お前───」


 リスティもジェイクも驚いて振り返る。

 ジェイクは振り返りつつも二体、三体とオーガを屠っているのはさすがだが───。


「ま、まずい……! 決壊するッ」


 くそ……タイミングがずれた───!!


「ミスったなビィト!!───ちぃ……! こっちは通れんッ! 予定通り梁にしがみ付けッ」

「ちょ、ちょっとぉぉぉお! リズ手ェ貸しなさいよ!」


 リスティの考えた案。


 牙城の地下通路の先は派生ダンジョン。

 そしてその通路は水密通路になっているため、そこに穴をあけて湖の水を、抜け道から派生ダンジョンに抜いてしまおうという実に破天荒な作戦だった。


 だが、それしか方法もなく実際にやってみたわけだが───……。


「くそ! 急げ───湖側の壁が思ったより脆かったみたいだ!!」


 風化のためか、それともアリゲーターフィッシュに齧られでもしたか、数十センチの厚さを残して壁が崩壊し始める。


 そして、小さな亀裂からビュービューと水が噴き出し、その勢いを増していく。

 水圧のためかその勢いは剃刀のように鋭い。


「兄さん、水圧計算してなかったでしょ!! この間抜け!」

「いいから、早く手を伸ばしてください!」


 リズに言われて慌てて手を伸ばすリスティ。

 そのまま通路の地下の天井部分に引っ張り上げられるが、ジェイクはそうはいかない。


 今だオーガの波状攻撃は続いており、それを凌ぐので精一杯だ。


「くそ! 撤退のタイミングが、ないぞ!」

「す、すまん! 今から援護する!」


 ビィトは壁の破壊を諦めジェイクの元に馳せ参じようとするも、

「いい! それよりも、少しでもいいから時間を稼げ───」


 は?

 時間たって……。


「時間を稼いでどうすんだよ?! もう、限界だぞ!」

「いいから、少しでもいいから時間を稼げ! こっちはなんとかする!」


 なんとかったって……暢気に天井に張り付く暇なんてなさそうだぞ?

 どうするつもり───。


「いいから、時間を稼げ!」


 あぁ、もう!!


「わかった、少しでも時間を稼ぐ!」


 ジェイクがああいうんだ。

 なんとかオーガを足留めする方法があるのだろう。


 なら、ビィトは魔術師としてやれることをやるだけ───!


「とにかく時間か……。破壊しようとしてたのに、応急処置をするとはね」


 壁の亀裂はドンドン深くなり、ついには───……!


「ダメだ!」


 ええい、たかが水だ!

 それならば、一時しのぎくらいこれでいいだろう!!


「───凍らせてやるぁぁぁああ!!」


 『氷塊』!!


 カチンと僅かに凍り付く水流───だが、勢いが激しく一発くらいでどうにもならない。

 ならないけど──────……!


「誰が一発で終わらせるかよぉォぉおお!!」


 水流で流されるなら、流れる傍から凍らせてやるぁぁぁああ!!


 『氷塊』

 氷塊、氷塊!


 氷塊!! 氷塊、氷塊、氷塊!!


 氷氷氷氷氷氷氷氷!!


 塊塊塊!!


 氷塊氷塊氷塊氷塊氷塊氷塊氷塊氷塊氷塊氷塊氷塊氷塊氷塊氷塊氷塊氷塊氷塊氷塊氷塊氷塊氷塊氷塊氷塊氷塊氷塊氷塊氷塊氷塊氷塊氷塊氷塊氷塊氷塊氷塊氷塊氷塊氷塊氷塊氷塊氷塊氷塊氷塊氷塊氷塊氷塊氷塊氷塊氷塊氷塊氷塊氷塊氷塊氷塊氷塊氷塊氷塊氷塊氷塊氷塊氷塊氷塊氷塊氷塊氷塊氷塊氷塊氷塊氷塊氷塊氷塊氷塊氷塊!!


 こおおおおおおおおおおおおおおおおおおおりで凍っちまえぇぇぇええええ!!!



 ビキビキビキビキ……!!



 氷塊が当たった水は凍り付き、しかし、その後ろからさらに水流が───しかし、それも凍らせ、流れて、凍り、凍り付き───流……凍り凍り凍り!!


 そして、凍り付いた!!


 飛び出した水流の形を保ったまま!


「───だけど、こんなの一時しのぎだぞ!? どうするんだジェイク!!」

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