◆第32話◆「なんだかなぁ、とんでもない場所だ!」

「……嘘だろ」


 ビィトが唖然とする。

 それはビィトだけでなく、他のメンバーも同様らしく、五人全員が唖然としている。

 

 それもそのはず。

 パーティの面々は今、煙突を出て城の中でも魔物の気配の薄い区画にいるのだが、そこでビィトたちは驚愕の光景に出くわしたのだ。


 エミリィなんか、驚いて硬直してしまっている。


「ど、どうしよう、お兄ちゃん」


 キュっと不安そうにビィとの服を掴むと、ピッタリと体を寄せる。

 ジェイクもリスティも苦り切った顔だ。


「ったく、とことんまで厭らしいつくりのダンジョンね……」

「チッ───よりにもよってここか……」


 リスティが魔力を通すと、鍵から再び光の筋が伸び、一直線に──────……湖の中ほどを指し示していた。


 ……そこには陸地などない。


「ど、どうするんだ?」

「知るかッ」


 よりにもよって水中。

 しかも、湖のかなり遠い場所だ。


 飛び込んで、潜ってすぐ───……というわけにはいかない。


 もし、仮に行くとするなら、かなりの距離を泳ぎ、そして、潜る必要がある。


 そう。この湖を───だ!


「ぜ、絶対無理だよな?」

 うんうん、とパーティ全員が頷き同意する。


 光の筋の先には黒い魚影が横切り、例のアリゲーターフィッシュが現役で泳いでいらっしゃるのが確認できる始末。


 つまり、

 ノコノコ行けば──────KU・WA・RE・RU。


「私が───……!」


 そこにリズが一歩進み出て、ジェイクの前に立つ。


「ジェイク様。私が物見ものみに参ります」


 決意を秘めた表情のリズ。

 先行して様子を見るというのだが……。


「ダメだ」


 ジェイクはピシャリと言い放つ。


「で、ですが……」


 魔法陣の位置も分からず、闇雲に潜水しても見つかるとは思えない。

 少なくとも、正確な位置くらいは知りたいものだ。


 だからと言って、


「しつこい! ダメなものはダメだ!」

「な、なぜですか?! このままではいずれ……!」


 珍しく食い下がるリズ。

 だが、ジェイクも頑なだった。


 そして、

「お答えください! 私でなければ近づくことも───」

「お前はもう俺のパーティじゃない。忘れたのか?」


「ッ!」


 はっとした表情のリズ。

 口を押え唖然としている。


 それはビィトもそうだ。

 筋は通す男だとは知っているが、こうまで頑なとは……。


 ジェイクはそんな二人を面倒くさそうにしながら、

「ビィト───お前ならどうするんだ?」


 クィっと顎でリズを示す。


 どうって……そりゃぁ───。


「リズ───無理だ。水の中じゃ奴らに勝てないよ」


 当然ビィトだって賛成するはずがない。


 よしんばリズが偵察に成功したとしても、パーティ全員がアリゲーターフィッシュに襲われずに潜水できるかと言われれば、……はなはだ怪しいものだろう。


「何か方法を考えないとな……」

「そうだな……」


 結局、振出しに戻ってしまった。

 だが、せっかく入手した鍵だ。


 魔法陣の位置も分かった。

 ならば、なんとしても───!


「お兄ちゃん……」

 不安そうな顔のエミリィ。

 その頭を撫でつつ、

「水を……なんとかすれば。うーん。潜水したいけど、どうすれば───」


 ビィトも必死で考えを巡らせる。

 ジェイクも苦々しく水面を眺めながら頭を抱えてしまった。


 リズはどこか思い詰めている様子だ。


 そして、

「どーしたのよ? 皆して、うんうん唸っちゃって。考えはまとまったの?」


 一人、我関せずと言った表情のリスティ。

 ボケーと鍵を手にしてのんびり構えていらっしゃる。


「リスティもなんか考えろよ」

 呆れたようにビィトが零すと肩を竦めたリスティが言う。


「うだうだ考えてないで、水全部凍らしちゃえば? そんで、氷をくりぬけば行けるんじゃないの~?」


 無茶言うなよ───上層は凍らせられるけど、どれだけの深さがあるかもわからないんだぞ?


「いくらビィトが規格外のアホでも、そりゃできんだろう」


 ジェイクも疲れたため息をついて、リスティを視界から追い出す。

 時々、我が妹は疲れるのだ……。


 っていうか、アホってオマエなぁ!


「ふ~ん? じゃぁ、燃やしちゃえば? じっくり時間を掛けて蒸発させれば行けるんじゃない?」


 無茶言うなよ!


「だから、湖全部蒸発させられるわけないだろ! 無茶苦茶言うなよ」

「いや、何も蒸発とかじゃなくても、水をなくしちゃえばいいんでしょ?」


 ばっか!

 それができりゃ文句ねー、つーの!


「その方法を考えてるんだろ!」

「いやさ、なにも湖全部じゃなくてもいいんでない?」


 は?


「ほら、こうしてーこうしてー……こうやって、」


 と、炭を使って牙城の壁に案を描いていくリスティ。

 

 その方法は実に破天荒。


 …………破天荒なんだけど。

 な、なるほど。





「んね?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る