◆第31話◆「なんだかなぁ、鍵の裏の使い方があったのか?」
リスティの首根っこを掴んで無理やり立たせたジェイク。
その背中にビィトは思わず声をかける。
「い、行くったって……。帰還の魔法陣の在りかはどうするんだよ?」
ジェイクはさっさと準備を整えているが、ビィトには懸念事項がまだあった。
「は! 鍵がありゃ問題ないさ」
「いや。そうは言うが、魔法陣の場所───誰も知らないんだろ?」
『悪鬼の牙城』は不人気の派生ダンジョンだ。
これまで利用方法はといえば、もっぱら地下の抜け道をつかって、深層へのショートカットするために使う程度。
誰しも、積極的に攻略しようというパーティは存在しなかった。
当然、帰還の魔法陣を探すパーティもいないため、ここは未だに未発見なのだ。
もちろん偶然発見したという話も聞かないし、ボス部屋にもそれらしいものはなかった。
つまり、帰還の魔方陣は分かりやすい位置にはないのだろう。
それを今から探すとなると、ボスを探す以上に厄介なことだと分かる。
だというのに……。
「は───。本当にお前は間抜けだな」
ここにきてジェイクのドヤ顔発動。
ビィトをこれでもかと言わんばかりに見下して「ふふん」と鼻を鳴らす。
「な、なんだよいきなり! 本当のことだろう?!」
魔法陣を一から探そうとするジェイクの方がどうかしている。
「だから、お前は間抜けなんだよ」
「こ、この!」
ジェイクは鍵をリスティに渡すと、
「───お前は知らんし、教えなかったからな。まぁ、見とけ」
そう言うと、
ジェイクとともに、ニヤリと笑ったリスティが水晶状の鍵に魔力を通す。
それくらいならビィトだって帰還の魔法陣の上で使ったことがあるのでできるが、今それをして───……。
「え?」
「わぁ……」
リスティが鍵に魔力を通している。
それだけならビィトにもできなくはないが、今それ以上に驚くことがある。
それは、
「光の……筋?」
「キレー」
ジェイクやリスティはなんでもないようにしているし。
リズも、特に感動しているようには見えない。
だけど、ビィトとエミリィは目を丸くしてその光景を見ていた。
そう。
あの水晶状の帰還の魔方陣の鍵から光の筋が奔り、一直線に伸びているのだ。
「こ、これは……?」
ビィトの驚きに、ジェイクが嘲笑をもって答える。
「ふん。鍵の裏技ってやつさ。まぁ、これが一般的な使い方なのかも知らんがな。こうやって一定の魔力を与えてやると、鍵は魔法陣の位置を示す」
ま、マジか?!
「そんなこと、ギルドも知らないぞ?! ど、どうして───」
もちろんビィトも……。
「だからお前は間抜けだというんだ。……情報は財産だ。秘匿しておくべきものも中にはあるってことさ」
だ、だからって───こんな……。
「誰にでも使えるお手軽な魔法陣なら、深層へのトライももう少し簡単だったろうな? だが、それを教えてやって俺たちに何の得がある?」
冒険者は慈善事業じゃねーぞ?
そう、ジェイクは言い切った。
だけど、
「な、なんで俺に教えてくれなかったんだよ!」
「言えば、ギルドに報告するだろうが」
そ、そりゃあ……。
「今回はやむを得ずだ。できれば報告してほしくはないが……まぁ、仕方ないな」
本気で嫌そうな顔をしているジェイク。
彼からすれば、この情報はダンジョン攻略の上でアドバンテージを得るための重要な情報なのだろう。
それを独占しているがゆえに、「
もっとも他のパーティも知っている可能性も無きにしもあらずだが……。
それはともかく、これは貴重な情報だ。
とはいえ、これをギルドに報告したところで少々の謝礼が貰えるだけ。
それでは大した価値にもならない。
それくらいなら、自分たちだけで情報を囲ってしまおうというジェイクの考えは理解できるところだ。
そう。
情報は秘匿してこそ価値があるのだ。
だけど、
「───報告は…………義務だ」
ビィトは
この情報を知っているだけで助かった冒険者パーティもかなりの数に上るに違いない。
真相を目指す途中で物資が尽きれば帰るしかないのだ。
だが、それすらも困難になれば、今回のビィト達のように一か八かで鍵にかける。
しかし、鍵を回収しても、魔法陣が見つからなければ結局そこで遭難する。
それ以上に、鍵を探して脱出という選択肢すら選ばない可能性すらある。
それは、鍵と魔法陣の両方を見つけることが困難だからだ。
そのために、いくつものパーティが遭難し、「地獄の釜」に消えていったことか……。
「融通の利かん奴だ。まぁいい。好きにしろ───俺は、もう……」
最後は語尾を小さくするジェイク。
何を言わんとしたのか知らないが、察することはできた。
もしかすると、ジェイクはもうダンジョンには………。
………………いや、分からないことは想像しても仕方がないな。
ジェイクとビィトはもう袂を分かった。
この情報をどうするかはビィト次第。
だが、ジェイクの事を考えるなら───……。
「……情報は契約になかったからな。いいさ、忘れる───」
「はッ。好きにしろと言った」
まだ、ジェイク達と完全に切れたわけではない。
縁も、所縁も……。少なくとも───ね。
「そんなことよりも───……こいつは厄介だな」
そう言って顔を歪めるジェイク。
(…………何が厄介なんだ?)
この時のビィトには、ジェイクが何を言わんとしているのかまだ分かっていなかった。
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