◆第30話◆「なんだかなぁ、相談するぞ(後編)」


 マジかよ…………。


 ギルドからの通信ではクーデターの可能性について言及していたが、まさか……。もう成功裏に終わっているという事?


 ジェイクは旧派閥抗争だと言っていたが、それすらも───。


「まったく興味のない話だったが、今の状況を考えると、俄然かぜん興味が出てきた」

 ジェイクは、薄く───しかし獰猛に笑っている。


 彼の内心は知らねども。

 御国がゴタゴタしているということは、つまり───。


「ひょっとすると、ひょっとするかもしれんな……」

 くくくく、と悪人丸出しの表情で薄く笑うジェイクが実に怖い。


 コイツがこういう表情をするときは大抵ロクなことがない。


 周囲も、そして敵もだ。


 今となっては周知に事実だが、ジェイクの家を始め、ビィトとリスティの家も故郷では貴族だった。


 いや、元貴族といったほうがいいか。


 子供のころまでは普通に貴族として教育を受けていたし、国がゴタゴタしてきた頃もまだ御家は存続していた。


 それが崩れ去ったのが、共和制の樹立だった。

 それはかなり前のことだが……。

 御国で革命がおこり、王が討たれたという。

 それと同時に主だった貴族は捕らえられ、貴族たちの特権も失われた。


 あまり外に興味をもっていないかったビィトだったが、故郷でも民衆が立ち上がり、国王を討ったという話を聞いた。


 その時は驚いたし、とんでもないことになったと思っていたのだが、どこか対岸の火事をみている気分だった。


 しかし、世間は甘くはなかった。


 次々に逮捕されるか、御家を潰されていく貴族たち。財産は没収され、私設軍は解体された。


 そして……。


 それは王都より遠く離れた辺境の地で貴族をしていたジェイクやビィト達の家にも波及し始めた。

 最初はビィトの家だったと思う。

 ついで、ジェイクの家も御取り潰し───そして、ビィトたちは何もかも失った。


 それが始まりだったのだ。

 ジェイクは名声と実績を求めて独立し、再起を図るため元手の掛からない冒険者を始めたし、ビィトもあとから参入した……。


 それが、これまでの簡単な経緯。


 そして今、その根本が崩れようとしている。


 ダンジョン内での苦戦。

 そして、ビィトと袂を分かち───リズを失った今、彼は明らかにダンジョンを探索するには戦力が不足していると痛感しているのだろう。


 そこに沸いてきたクーデターの話と、旧派閥からの攻撃───。


 つまり……。


「王政が戻った……? まさか、ジェイクも復権するのか?!」

「それはついでだ。今地位を取り戻しても資金がないし、敵が誰かもわからん。───だが、落とし前は付ける。必ずな」


 ま、マジかよ……。


 コイツ単身で御国に殴り込みに行く気だ。

 いや、まぁー。リスティも行くんだろうけどさ……。


 さすがに無謀すぎる────……と言いたいところだが、ジェイクなら本当にやりかねないし、やってしまうだろう。


 コイツの火力であれば、接近戦なら無敵に近い。


 本当に単身で乗り込み、敵対派閥のボスの首級をとってしまうかもしれない。


「……お前に協力は求めん。だから、もうこれ以上、関わるな」

「いや、でも───」

何度も言わせるな・・・・・・・・と、何度も言わせるなッ! ダンジョンを出たら、もうそれで仕舞いだ」


 ジェイクは頑なにビィトの参加を認めない。

 それは彼のプライドのこともあるだろうし、お国の事情のこともあるのだろう。


 クーデターの中身も分からない以上、誰が敵で誰が味方がか分からない。

 下手をすれば、ジェイクの御家とビィトの実家が敵対している可能性もある。


 そうなれば最悪だ。


 ジェイクは容赦しないだろうし、ビィトとしても再度戦いになれば次は絶対に勝てないだろう。

 そんなことはゴメン被る。


「わ、わかったよ。でも、ダンジョン脱出までは共闘するんだろ?」

「むろんだ。それが契約だ」


 ジェイクはそれだけ言うと、腰を上げ土埃を払う。


「リスティ、いつまで食ってる! そろそろ行くぞ」

「ふぁ? ふぉぅ?! ふぁっ、ふぁってよ(へ? もう? ま、まってよ)!」


 リスティが慌ててパンを口に詰め込み───。


「うご?! ごほぉほぉぉおお!!」




 詰まらせて悶絶していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る