◆第29話◆「なんだかなぁ、脱出するぞ!」

 おーーぼーーえーーーてーーーろぉぉお!


 物凄い声を出して滑り落ちていくリスティ。

 一瞬ではあったが視線が交差し、憤怒の表情で睨み付けられる。


 ………………凄い怖い目付き。


 本当にビィトの妹か?!


 とはいえ、リスティからすれば、煙突まで真っ逆さまの穴に突き落とされた気になっているだろう。


 …………すまん。


 あとでフォローしとかないと、後々が怖い───ぶるり。


「ビィィィィィいいいいト」


 そこにジェイクの声が追いかけてくる。

 振り返れば───ッて!!


「走れッ、飛び込めッッ!───今すぐ!」

「な! ちょっと!───どんだけだよ!」



 ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!


 牙城全体が震えんばかりの数! そして、数!!



「よっぽど怒ってやがるッ! 行け!」

「何やったら、あんなに怒らせるんだよ!」


 憤怒の形相のオーガが無茶苦茶多数。


 希少種も含めて、牙城中の───それこそ一階層や地下階層のほうからも出張ってきていそうな雰囲気だ。


「ボスを仕留めたからに決まってんだろうが!! とっとと、飛べぇぇぇえええ!」


 ラリアット気味にジェイクに首を掴まれると二人してトラップに飛び込む。

「ぐぇ!?」

「しゃべるな! 舌を噛むぞッ──来た!」


 その直後に、オーガスナイパーの放った城の瓦礫が頭のすぐ上を掠めていく。


 ドガァァァアアン!!


 と、その音に着物冷えるものを感じながらジェイクとビィトはトラップの急斜面を、シュァァアアアア!! と滑り落ちていく。


 そして、予定通り、エミリィ達が張ってくれているであろうロープを──────、


「んなッ! 引っ掛かりどこにもないぞ!」

「ジェイク! どこかに捕まれぇぇえ!」


「だから何もねぇっつってんだろうが!!」


 な、ない?!


 嘘だろ?!

 ここにロープを貼ってあるはずじゃ!?


 だが、ビィトもジェイクもロープも何も掴むことも出来ぬまま激しく滑り落ちていく。


 ───このままでは!


「くそ! リズの奴しくじったのか!」

「ばか! そんなわけないだろッ。なんか理由ワケがぁぁあああああ!」


 あああああああああああああああああああああ!!!


「「うぉおああああああああ?!」」


 叫びながら二人はついに滑り切り、

 高い高ーーーーーーい、煙突の内部にスポーン! と───……。


 し、死ぬ───。



「お兄ちゃん!」

「ジェイク様!」



 ガシィ!! と、掴み取られるビィトの足。

 その視線の先では、ジェイクがリズに抱き留められていた。


「え? な?!」

「う、うおぉお?!」


 ビィトは何者かに捕まれ、中空でプランプランと浮いている。

 それがなければ高所から弾き飛ばされ、煙突に床に叩きつけられていただろう。


 見れば、ジェイクにしがみ付いているリズは、自身の体にロープを巻き付けて彼の体をしっかりと掴み取っていた。


 ……ということは───。


「───エミリィ?」

「いたたた……。だ、大丈夫お兄ちゃん?」


 エミリィは体全体でビィトを抱きしめ、その勢いを殺してくれたようだ。


 リズのように彼女も体にロープを巻き付け、その先端を固定して、自らそのものをキャッチネットにしてくれたようだ。


 でなければ、ビィトもジェイクも投げ出されていたことだろう。


 …………でも、どうして?


「な、なにがあったの? なんで、ロープやネットは? 大丈夫なのエミリィ……?!」

「う、うん……。いたたた。わ、私は大丈夫なん……だけど、」


 エミリィが心配そうにリズを見上げている。

 やや高い位置にいるリズは苦しそうな顔だ。


「うぅ……ジェイク様。ご無事で───」

「ぐぅ……! バカ野郎! お前ヘマしたなッ! 落下制動のロープを張れとあれ程!」


 申し訳ございませんと、謝るリズ。

 彼女の手からは大量の血がにじみ出ていた。


 どうやら、回復が間に合わなかったせいか、あの時の傷が開いてしまったようだ。


「おい、ジェイク! 今はよせ───助かったんだからいいじゃないか」


 不安定な姿勢でいる方がよほど危ない。

 だが、男二人の落下を受け止めた二人はすぐには動けそうにない。


「くそ! 落とし前はあとでつける───降りるぞ」


 ジェイクは地形を確認すると、ロープを切り、リズを抱えると───壁をトン、トントン!! と蹴り、軽い跳躍とともに着地してしまった。


 ビィトにはできない芸当だ。


「スゲぇ……。っと、エミリィ。何か道具はある?」

「う、うん……ちょっと待って」


 ゴソゴソと七つ道具を漁るエミリィ。

 いつものバッグから鍵縄を取り出すと、適当な出っ張りに引っかける。


 それをビィトが伝って降りるのだ。

 エミリィはどこか打撲しているらしく、すぐには力が出ないようなのでビィトが背負った。


 そして、ゆるゆると降りていく。


「───はぁ、死ぬかと思ったよ……」

「うん……ごめんなさい」

「いや、助かったからいいけど───どうしたの? 最初のプランは?」


 そうだ。

 ジェイクが落下を止めるためにロープを用意しておけといったはず──────……。


「えーっと……。そのぉ。り、リスティさんが全部千切っちゃって……」


 ……………………あー。


 ロープを伝いながら下を見れば、ロープでがんじがらめになって、最後のネットに絡まったリスティがプラーンとぶら下がっていた。


「ぶっ殺してやるわよ……」


 我が妹は、トラップの中をゴロンゴロンと転がり落ち、エミリィ達が必死で張った落下制動用のロープをことごとく引きちぎり……。

 どうやら、最後の最後のネットでようやく止まったらしい。


 おかげでエミリィ達が、苦肉の策として臨時のネットを自らの体で作り、ダメージを犠牲にしたのだ。


 ま、まぁ。

 …………これはロープのことを伝えなかったビィトのせいでもあるな。


 うん。

 色々反省&ホウレンソウ(報告・連絡・相談)は超大事───理解しました。はい。



 …………リスティ。パンツ丸見えだぞ。

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