◆第27話◆「なんだかなぁ、鍵を探そう!」

「ふぅ………………」


 爆殺したオーガガーディアンの、その体の上にフワリと着地したリズ。


 薄く微笑み、軽く汗を拭う。

 キラキラと輝くそれを見て不意に「綺麗だな」と感じるビィト。


 それに気付いたのか、不意に振りむいたリズがニコリを微笑み───ビィトの心臓がドキリと跳ねた。


「──────ビィトさま、」

「え? あ? え?」


 リズが少し困ったような顔で言う。

 ヤバイ。ジッと見ていたのがバレた?!


「……もうよろしいのでは?」

「はぃ???………………あ!」


 リズの戦いに見とれている間も「鳴雷めいらい」を連射し続けていたので、オーガナイトたちは鎧の中でこんがりと焼けていた。


「う……!」


 酷い悪臭が漂い、鎧の中で発火してボウボウと燃えている。


 慌てて魔力を切ると、ドシャリと倒れ落ちるオーガナイトたち。

 地面にぶつかった拍子にガシャーン! と体ごと崩れさったので、明らかにはビィトの魔法はオーバーキルだったのだろう。


 や、やり過ぎた……。


 あちゃーと、天井を仰ぐビィトに、

「──────こっちも、終わりだ!!」


 ドガーーーーーーーン!! と、地響きがしたかと思えば、ジェイクの踵落としがシャドウオーガに直撃し、奴を地面に鋤きこんでいた。


「ふぅ…………。向こうも終わったみたいだな」


 スッと、残身───。

 我流の格闘技でシャドウオーガを仕留めたジェイクが奴のドロップ品らしき、不気味に輝く短刀を拾い上げていた。


 そして、彼のいうとおり、エミリィが顔についた血を拭い取っている。


 彼女の足元には、倒れ伏したオーガアーチャーが数体。


「……よし! ボスと配下は仕留めたッ! だが、方針を変更する!」


 ジェイクは合同パーティの現状を鑑みて、すぐに方針変換を図った。


 本来ならもっと余力のある状態で殲滅し、おっとり返しでリスティを援護してダンジョン側の敵も殲滅する手はずであったが、もはやその余力はない。


 ビィトも万全ではないし、リズも負傷、エミリィも疲労が激しい。

 ジェイクに至っては、主武器が手元にないのだ。


「───リズとチビは、俺の武器を回収しろ。ビィトは俺と鍵の捜索だ。ジェネラルはでかい。どこにドロップするか分からんぞ」


「お、おう」


 相変わらず頭の回転が速いジェイク。


 すぐに方針を変えて、最善手を見つけていく。

 そのうえ、ちゃっかりと自分の武器の回収も忘れない。

 ───とはいえ、ジェイクの火力が半減した状態ではこの先が厳しいのも事実。


 ジェイクがいう、武器の回収は自己中とは少し違うのだろう。

 彼の火力はこの中でも群を抜いている。その火力の維持は生存率向上に役立つのは間違いない。


 ……これらの指示をパッパと出すのは、端から見ているほど簡単なことではなく、実際に、見てやるのとでは随分違うのだ。

 簡単そうにみえて、中々できることではない。


 だがらこそ、リズは素直に頷いてビィトに最低限の治療をうけると、器材を駆使して天井に突き刺さったジェイクの武器までのルートを確保する。


 あとは、この場で一番動けるエミリィの仕事だ。


 ただし何かあるといけないので、リズがしっかりとフォローする。


「───ビィト、はやくこい! リスティも、これ以上はもうたんぞ」

「あ、あぁ!!」



 あはははははははははははははははははははははは!!



 と狂ったように笑うリスティの声が響いている。

 実際よく耐えている方だと思う。


 彼女の足元には大量のマジックポーションが転がっていて、その様は飲んだくれオヤジの部屋といった感じだ。

 だが、本人はいたって真剣そのもの。

 彼女が魔法を切らせば、大量のオーガにビィトたちは圧殺されるだろう。


「───必ず見つけろ。絶対にあるはずだ」

 

 だから、鍵を探す。

 ダンジョン脱出の要たるそれを!!


 足早に近づき、ビィトとジェイクはオーガジェネラルの体を隅々まで捜索し始めた。


 周囲には、ドロップアイテムもいくつか落ちているが、いまはそれよりも鍵だ。


 水晶玉の形状をしたそれは早々見落とすものでもないが──────……どこだ!?


「ビィトあったか?!」

「ない!!」


 バカな! とジェイクがはき捨てる。


「よく探せ!」

「探してるよ! どこにもない───もう探すところなんて………………あ、」


 ビィトはここでようやく気付く。


 ゴブリンキングを仕留めた時にも鍵を入手したが、確かあのときも自己主張の乏しかった鍵だ。


 コロン───と、何でもないように転がっていただけにもしかすると……!


「ジェイク! もしかすると、オーガジェネラル下敷きになっているかもしれない」


「ッ!! く、そうか───動かすぞ!」

「おう!!」


 ビィトとジェイクは共同して、オーガジェネラルを持ち上げる。

 しかし、筋肉の塊のオーガジェネラルの重いのなんのって……!


「ふぐぉぉぉぉおおおおお!!」

「んごぉぉぉぉぉおおおお!!」


 二人で必死に持ち上げ、隙間から覗き込む。


「ぐおおお───……あ、あるか?」 

「んぎぎぎ───……わ、わからない!」


 しかも、こう暗くちゃ……!


 ───そうだ!!


「一瞬だけ、支えててくれ!」

 パッと手を放すビィト。


 それを、

「───んな!? ちょ、てめ!!」


 少し我慢しろ!


 ビィトは素早く魔法を練り上げる。

 生活魔法の──────「光球」!


 ポッ……と光の弾がでて、オーガジェネラルの体の下の空間に飛び込んでいく。


 そして、その光に──────キラリと光るなにかが!


「あった!」

「なに?! ど、どこだ?! うごごごごっ……こ、腰が───」


 ジェイクがブルブルと震えている。

 いるけど───もう少し耐えろ。


「3秒くれ───行くぞ!」 

「3、秒……だ、と?!」


 ジェイクの答えを聞くまでもなく、ビィトは躊躇せずにオーガジェネラルの体の下に潜り込むと、手を伸ばして鍵を掴もうとするも───……と、届かない!


 ぐぅ……。


「3秒、た、ったぞ!」

「まだ2秒だ!」

「ふ、ふざ!」


 ぐぎぎぎぎぎぎ……!!

 も、もうちょい!───────……と、とった!


「3秒たっだ、ぞ!!」

「まだだ! 2.9秒───! ほいッ!」


 サッと鍵を手に取り素早くオーガジェネラルから離れるビィト。

 その瞬間ジェイクが力をぬくと───ズゥゥウン!!!


 途端に、オーガジェネラルの巨体が隙間を埋めてしまった。


「ぐ…………テメェ───うごごごごご」


 ジェイクが腰を押さえて、フラフラとしている。

 よほどきつかったのだろう。




「悪い悪い。ほら、鍵あったぜ」

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