◆第23話◆「なんだかなぁ、ブッ飛ばされました」

 ─────────え?



 直後、フワリとした浮遊感を感じ取った時にはビィトの体は、ボス部屋の中を木の葉の様に舞っていた。


「ちょっ? え? うえあ?」


 そして、クルクルと回る視界の果てに、オーガジェネラルがグラリと崩れ落ちるのが見えた。


 ズゥゥゥゥゥゥウウウン……! と地響きを立てて倒れるオーガジェネラル。

 

 一瞬、戦場がピタリと時を止めた様に静まり返る。

 そして、ピチョンピチョンと、奴の頭部から零れる脳漿が床を染めた頃に、ようやく音が戻ってきた─────。


 その頃になって、ビィトはようやく気付いた。


 オーガジェネラルは最後の力を振り絞って、ビィトをぶん投げたことに───……!


「うっそだろぉぉぉぉぉぉおおおおおおおお!!」


 オーガジェネラルの身長と、奴の渾身のパワーと部屋の広さ!!


 それらが相まって、ビィトがものすごい速度でかっ飛んでいく。

 そのまま、どれほどの勢いで叩きつけられることか!?


 あああああ、くそ!!


 オーガジェネラルは倒した!!

 勝利条件は達成した──────なのに!



 俺が─────────────死ぬ?!


 そんな──────……!!


「お兄ちゃんッッッ」


 エミリィが叫ぶ!

 オーガガーディアンと激戦を繰り広げる最中、ビィトの危機に気付いて手を差し伸べる。


 届かない、届かない、届かない、

 届かない手を──────!!


 だけど、

「受け取ってぇぇぇええええ!!」


 エミリィの七つ道具の鉤付きロープが、ビュンビュンと音を鳴らして振り回され、ビィトに投擲される。


「うわぁぁああ!!」


 必死に掴むも、オーガジェネラルの渾身の力だ!

 あっという間にエミリィの力を振り切り、ロープごと中空にすっぽ抜ける。


 ダメかッ!?


「ビィトさまぁぁぁあああ!!」


 リズが叫ぶ!


 シャドウオーガを圧倒しつつも、決定打を与えられない中、ビィトの危機に気付いて駆ける。


 早く、早く、早く、速く──────!!


 そして、

「私の手を──────」


 踏み切りよく、一気に跳躍し、ビィトに手を伸ばすリズ。


 だけど届かない。

 僅かに届かない!!


 だから、彼女は体中に仕込んでいる暗器のうち、爪の付いたテグスを射出してビィトに引っ掛ける!


 それがビィトのローブに絡まり何とか掴んだのだが──────リズが軽すぎてどうにもできない!

 彼女が着地し、少しでも勢いを止めようと踏ん張るも、リズでは力が足りない!!


「ビィぃぃぃぃぃぃいいトぉぉぉおおお!」


 ジェイクが叫ぶ!


 「どりゃぁあああ!」オーガソルジャーの大群を薙ぎ払い、戦場を圧倒すると愛刀を投げ槍のように構える。



 狙い、冷静に、そのタイミングを───!



 そして、

「体を支えろぉぉぉぉぉおお!!」


 ビュン! と、愛刀を投擲し、ビィトが掴んだままのエミリィの鉤付きロープに絡めるようにして、天井にスカーーーーーンと縫い留めた!


 鋭い切っ先がロープを引き裂いていくが、鋼線を編み込んだロープが耐えきる。


 ギュリギュリギュリ!! とロープが軋み、ビィトの体は巨大な振り子のようにボス部屋を浮遊した。


「うぐッ!」


 落下の危機は免れたものの、投擲の衝撃は殺せずビィトの手とロープに強烈な力となって全身を引き裂かんと暴れる。


 これに耐え切れず手を放してしまえば、ビィトはぶん投げられた時と同じく、ボス部屋の壁か床に叩きつけられてしまうだろう。


「ぐぁぁぁぁあああ!!」


 手の皮がベリベリとめくれるのを感じながら、ビィトは耐えた。


 眼下では、テグスとビィトを繋いだリズがエミリィと一緒になってビィトの勢いを殺そうとしてくれている。


 そこにはジェイクも加わっている───。


「うぐぁぁああああああ!!」

「「「とまれぇぇぇえええええ」」」


 ギリギリギリギリギリ……………………!


 限界までロープがしなり、ジェイクの刀の縫い付け部分からビシビシと割けていく。

 だけど、勢いが止まる─────止まる!


「「「ああああああああああ!!」」」


 全員の力で───……ビィトを助ける!!


 そして、


 勢いが──────……!

 止っ…………。


「ぐぅ───」


 だが、ここでさすがのビィトも力尽きる。

 手は血だらけ。皮は破れ、肉の薄い場所では骨すら露出せんばかり───……。


 かなりの高度から落ちる羽目になるも、叩きつけられるよりはマシだ。

 最悪死ぬかもしれないが、上手くすれば骨くらいで……!


 って!


 たけぇぇぇええ!!

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