◆第20話◆「なんだかなぁ、強敵だぞ!(後編)」


「早く行ってお兄ちゃん! ジェイクさんも、リスティさんもそう長くはないかも!」


 エミリィがギリリリとスリングショットを引き絞り、オーガガーディアンを狙う。


 彼女のいうとおり、リスティは遠目に見ても肩で息をしているし、彼女に殺到する集団はドンドン規模を増していく。


「あひゃひゃひゃひゃひゃ!!」


 イカれた笑い声のリスティ。

 相当きているのだろう。


 ここから見ても、激突の放電現象が凄まじい。

 ───もう少し耐えてくれよ!


 仲間たちの戦いを無駄にしないためにも、ビィトが勝たなければならない。


 更には、ジェイクとていつまでも戦いはしない。

 彼が切り裂く集団も戦法を変えつつあり、無暗に接近戦を挑むの止め、盾で囲み弓矢と魔法でジェイクを遠距離で狙い始めていた。


 これは───……!!


「わ、わかった!! エミリィ、君も気を付けて!」

「任せて!!──────たぁ!!」


 バヒュンッッ!!


 気合一閃!

 鋭く発射されたボウガン用のボルト弾が、オーガガーディアンを貫くッ!!


 初手から必殺の双子撃ちタンデムショットだ!

 一発なら弾かれてしまうであろうそれも、二発の威力が重なれば衝撃も貫通力も二倍だ!!


 ズカァァァアアン!! と、オーガガーディアンの鎧を射抜き、その背後に護られる奴の肉体を穿った。


 だが、小さなボウガンのボルト弾の一撃など、さして効果も薄いのか、少し揺らいだ程度でオーガガーディアンは平然としている。


 もっとも、フルフェイスの下の顔は怒り狂っているの違いないが……!


「さぁ、来おぉぉぉぉおい」


 よく通るエミリィの声がボス部屋に響いた。

 それに応じるようにオーガガーディアンが重装備に似合わぬ速度で、壁と天井を縦横に駆け、ブンブンと戦斧を振り回す──……!


「ごるぁぁぁああ!!」


 目にも止まらぬ速度で振り抜かれた戦斧が───ズドォォオオオオオオオオン!!! と部屋が小動するほどの一撃で放たれた。


 しかし、エミリィがそれくらいでやられるはずもなく、リズ顔負けの身軽さでヒラリと躱す。

 さらに体重を感じさせない動きで、戦斧の柄に乗ると至近距離でオーガガーディアンを狙う!


 スリングショットを顔面目掛けて──……「たりゃああぁぁあ!!」!!


 必殺の多段射ちマルチショットを放つ!!


 そのベアリング弾がいくつか弾かれつつも、フェイスガードの隙間からオーガガーディアンの顔面を穿った。


「ごぁぁぁぁあああ!!」


 これには堪らず、オーガガーディアンも顔を仰け反らせて呻き声をあげる。


 だが、それでも──────オーガはタフだ!!

 めちゃくちゃに戦斧を振り回すと、エミリィを振り落とし、さらに追撃と防御を兼ねて鎖を伸ばす!


 その鎖をもってブンブン! と戦斧を振り回すと、遠心力の盾を作った。


 これはエミリィでも──────……。


 冷や冷やとしながら見守るビィトだったが、エミリィは落ち着いていた。

 これまでも、小さな体で数多の死線を潜り抜けてきたエミリィ。


 ベンの奴隷時代ですらたった一人生き残り、ビィトとともに嘆きの谷を攻略した。


 エミリィは、決して守られるだけのか弱い女の子ではない。


 そして、両親から受け継いだ才能と、不遇な境遇は彼女をいつの間にか強者たらしめていた。

 さらに、守り守られるビィトの存在と仲間という温かい絆に、エミリィは、もはやか弱い奴隷少女などというカテゴリーには収まり切れないくらいの猛者と化していた。


「あはは!」


 エミリィは、口を笑みの形にゆっくりと替え、冷静に場を読み、スタン─────! と、遠心力の危害圏外であるオーガガーディアンの頭に着地していた。


 あぁ、そうか。

 エミリィも戦えるんだ……!


 今こそ、エミリィとオーガガーディアンの一騎打ちが始まる時。


 至近距離でオーガガーディアンの装甲を貫かんと、エミリィがボウガンの矢を───!



「二人とも、任せるよッッ!!」



「任せてッ!」「お任せくださいッ!」



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