◆第20話◆「なんだかなぁ、強敵だぞ!(中編)」


「なるほど─────では、任せますッ!」


 エミリィと短いやり取りだけで意思の疎通を終えると、一気に踏み込むリズ。

 シャァッァアアア──────と、短刀の刃を地面に擦りながらリズが駆ける!


 ギャリリリリリリィィイン!!


 リズの構える二刀が床を擦る。

 そこに、まるで火花の二本道ができて、そのままシャドウオーガに迫るッ!


 それは、彼女の圧倒的な速度をまざまざと見せつけるかのよう───……。


 いや! だけど、あの戦い方って、


「グゥオォ!!」


 シャドウオーガがリズを見据えて、自らも突進!


 背中の直刀を引き抜くと、大上段に構えてリズを引き裂かんと迫るッ!!


 そして、振り下ろすも──────。


「火花はブラフ……! 本命はコッチです」


 トンッと、軽い跳躍で突進をキャンセルしたリズ。

 それに遅れてシャドウオーガの、高速の一撃が床を強かに打つッ!!


 ズドォン!!


「ごるぅ?!」


 その過去位置にシャドウオーガの一撃が降り注ぎ、リズの残像を切り裂いた。

 だが、そこにリズはとっくにいないし、リズの本命は別にあった。


 シュン──────と、煌めく黒いナイフ……、いや苦無くないか!!


「ガァウ!!」


 ズドンッ!! と奴の額に突き立った一本の苦無くない

 シャドウオーガの物とは比べるべくもなく小さいものだが、投擲力は少女の者と思えぬほど強烈無比!!


 い、いつのまに?!

「───……と、突進前にすでに苦無を投げていたのか?! それを隠すためにワザと火花で目を引き……って、ジェイクの攻撃パターンなのか!」


「お見苦しいところを……」


 リズは、跳躍しつつ、ムーンサルト。

 ビュンビュンと無数の手裏剣を投擲し、シャドウオーガに追撃の隙を与えない。


 ギンギンギンッ! と、凄まじい勢いでシャドウオーガが直刀を振るいその全てを弾き落とすも、その頃にはリズは安全距離に降り立っていた。


「フフフフ」


 え?

 今のって、リズ───?


 少女のように美しく微笑むリズ。

 あのリズが、だ。


 無感情で、氷のように冷静かつ無我のリズが微笑んでいる。


「ビィトさま。さぁ、コイツは私が───」


「ぐるるるる……!」


 余裕綽々のリズに苦々しく吼えるのはシャドウオーガ。苦無くないが頭に刺さっているというのに、まったく怯まない。


 そうとも、苦無一本で仕留められるほど、オーガジェネラルの側近は甘くない。


 実際に、怒りに満ちた表情で苦無を引き抜き放り捨てると、逆袈裟気味に直刀を構えるシャドウオーガ!


 剣圧がビリビリと空気を震わせる!!


「静かに──────そして、」

 ニィとリズが口角をあげる。


 あぁ、戦える。

 ビィトのために戦える───。


「───何も知らぬ内に殺してあげる」


 存分に技を振るえる。

 存分に業に震える!!


「さぁぁぁぁああ!!!」

「ごるぅああああ!!!」


 そうだ。

 まだ前哨戦───リズと、奴の戦いは始まったばかりだ!

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