◆第20話◆「なんだかなぁ、強敵だぞ!(前編)」

 ───さすが、「悪鬼の牙城」のボスだ!


 だが、

「まだ油断するには早いぞッ! オーーーーーーガジェネラルッッッ!」

「きゃあ!!」


 エミリィは流れ弾から身を隠せ! とばかりにビィトによって背後に護られてしまう。


 だが、リズは?


 リズは違う──────。


「はぁッ!!」


 彼女もエミリィのように背後に庇おうとしたビィト。だがリズはそれを制し、逆に前に出る。

 トントーン! と身軽に飛びまわり、破片や瓦礫を利用しつつ、その影を幸いと身を隠しながら、素早くオーガジェネラルの懐に潜り込んだ!


 ───は、速い!!


「ごるぁぁあ?!」

「──────しぃッ!」


 そして、流れるような動きでオーガの首を掻き切った……!

 が──────!


「く……!」


 僅かに表面を傷つけただけで、毒入りナイフは肉にすら達せずに弾き返されてしまった。


「何て、出鱈目な奴……!」


 驚愕に目を見開いたリズが、オーガの肩を蹴って大きく距離をとると、今度はクルクルと回りビィトの元に着地した。


「これは……やっかいです」


 ジワリと脂汗を浮かべるリズ。


 彼女の手を見ればブルブルと震えていた。

 ……これは恐怖ではなく、単純に手を負傷したのかもしれない───。


 渾身の一撃を弾き返されたことで、捻挫したのだろう。


「大丈夫?」

「はい────────あ、」


 リズの手を取り、回復魔法をかけて癒していく。


「あ、あああ、ありがとうございます」


 顔を真っ赤にしてモジモジし出すリズ。

 よくわからないけど、問題は無さそうだ───。


「むぅ……」


 エミリィちゃんは何でふくれっ面なのよ?


「───テメェら、乳繰り合ってねぇで戦えぇぇぇえ!!」


 と、ジェイクから突っ込み。


 って、

「───乳繰りあってねえぇぇええええ!」


 いや、エミリィもリズもなんでモジモジしとんねーん!!


 もう、いくよ!


「リズはフォローを頼む! エミリィは狙撃戦用意ッ───奴の弱点を狙」

 

「───エミリィさん?!」

「うひゃ?!」


 会話の途中で、突如リズがエミリィを床に引き倒す!


「リズ!!」


 な、なにを?!


 って、うお!!??


 ───ビュゴォォォオオオ!!


 さっきまでエミリィがいた空間を、鋼鉄の塊が物凄い勢いで駆け抜けていった!!


「───な、なんだぁ?!」


「お兄ちゃん! 上ぇぇぇええ!!」


 床に引き倒されていたエミリィが、すぐさま注意喚起!

 彼女の目には、天井に張り付いている二体のオーガが見えていた。


「ッッッ?!──────ちぃ!!」 


 バッと飛び退るビィトの位置に巨大な鉄塊が降り注ぐ!

 それが地面を穿ち、ドガァァァアン! と炸裂した。


「くそ! 将軍が一人でいるわけないか」


 オーガジェネラルを見れば「ぐるるるる」と低く唸り笑っているようだ。


 そのオーガジェネラルの横にズン!! ズン!! と降り立ったのが二体のオーガ。


 巨体というほどでもなく、スラリとしたイメージのある奴で重武装タイプと、軽装タイプの二体がそこにいた。


「あれは……」


 リズがスゥと目を細めて二体のオーガを見る。

 彼女もビィト程でないにしても魔物に詳しい。


「あぁ……。オーガの亜種───さしずめ、」


 オーガジェネラルを守るように立つ二体のオーガ。

 一体はフルプレートアーマーを着込み、鎖つきの戦斧を手にしてる。

 さっき地面を穿ったのはその一撃だ。


 そして、エミリィを襲った一体は硬革ハードレザーの軽鎧を纏った忍者タイプ。

 奴が放った苦無くないがエミリィを掠めたのだ。


「───オーガガーディアンと、シャドウオーガ」


 ポツリと零したリズにビィトも頷く……。


「こりゃ、まずい……」


 ジェイクの戦略が根本からひっくり返りかねない事態だ。

 元々敵集団とボスを分断し、ビィトが魔法でオーガジェネラルを仕留めるのが作戦だったのだが───。


 ビィトの魔法は一対一ならともかく、格上相手には複数だと分が悪い。


 奴等は、

 雑魚とは違うのだよ、雑魚とは───。


「行って、お兄ちゃん」

「えぇ、行ってくださいビィト様」


 目の据わったエミリィが服の裾をポンポンと叩いて埃を落とし、スゥ───とオーガガーディアンを狙う。


「エミリィ? リズ?!」

 

 リズは腰の後ろからスランッ! と短刀を二本引き抜くと逆手に構えてシャドウオーガを狙う。


「───あいつは私と相性が良さそうです……。エミリィさんは大丈夫ですか?」

 ニッと笑ったエミリィがオーガガーディアンを見据えると、

「結構貫通力あるんだよ? これ───」


 そう言って、二連撃に構えたボウガンの矢とスリングショットを自慢げに掲げる。



 ───二人の戦いが始まるッ!

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