◆第16話◆「なんだかなぁ、作戦を立てよう!」
集合煙突の中で軽食を食べながら、攻略戦開始前の最後のミーティングを行うビィトとジェイクの合同パーティ。
簡単な図面を前に車座になったパーティをもって、ジェイクが座長となり───ビィト、リスティが捕足を加えながら会議形式で作戦を立てていく。
貴族の中では、帝王学の一種として軍事を学ばされる。
これはその発展系の軍議というやつだ。
または、図上演習ともいう。
これは、言ってみれば、シミュレーションゲームだ。
起こりうることを予測し、敵味方の立場で物事を考える。
ひたすらにQ&Aを繰り返し、あらゆる事態に備えるのだ。
一見してみれば、ただの机上の空論かもしれないが、これをやるのとやらないのでは大違い。
漠然とした作戦も、重箱の隅までつつけば、ボロボロとダメなところが湧いてでてくる。それを一個一個解消していくわけだ。
しかも、一度攻略を試みた場所のなのでエミリィを除く4人には場の雰囲気が掴みやすかった。
「───この回廊は一直線だ。で、煙突はここに通じているが、ボス部屋までは距離があり過ぎる」
「そうだね……。じゃあここは?」
「無理だな。敵の只なかだ。こっちが戦力を展開する前に反撃される。せいぜい一人が奇襲で乗り込めれば御の字だろう」
うーむ………………。
ビィトが示す最短ルートは、ジェイクが弾く。それは嫌味でもなんでもなく、戦闘の原理原則上の話だ。
「ここならどぅ?」
そして、食ってばかりのリスティがトントンと簡易図面を指し示す。
そこは回廊の真下で、煙突の出口はどこにもなかったが───。
「ふん……。場所は悪くない。穴さえ開けばだがな」
「だから、開けるのよ───リズか兄さんなら出来るんじゃない?」
ボリンと、堅パンを割り砕きバッキバッキと齧りつつ暢気そうに言う。
一方でリズとビィトは顔を見合わせると、キョロキョロと目を泳がせる。
そう……。
やってやれないことはないけども───。
「少し時間がかかる」「少し時間がかかりますね」
若干ハモる二人。
なぜかリズの顔が赤い。
…………まぁいいや。
ちなみに時間はかかるも、ビィトならば穴をあけるくらい、いくらかやり方がある。
例えば、小爆破。こいつを連発すればいくら壁が分厚くとも、いずれ破壊できる。
または、高圧縮水矢。こいつはダークボーンキングの兵隊どもを薙ぎ払ったとき、柱を両断してみせたほど。近くの目標に限定すればかなり強力だ。悪鬼の牙城の壁とて抜けるだろう。
「リズはできるの?」
「これを使えば───」
リズが取り出したのは鋭いピック。
先端がオリハルコンで強化されているというそれは、長いドリル状になっており、梁や分厚い扉に穴をあけるときに使うものだという。
時間はかかるが、人ひとり通り抜ける穴をあけることも可能だという。
あるいは──────。
「一族の秘薬。……火薬です。ビィト様の爆発魔法の劣化版のようなものです」
聞けば、火を付ければ爆発するという代物だ。
魔法に比べて使い勝手が悪いが、時差を置いて爆破したり、敵の注意を逸らすくらいには使えるそうだ。
それでも、地中に埋めたりして使用すると威力は上がるという。
「どれも、軒並み欠点だらけね───」
「あ、あの……」
うまい方法はないものかと、全員で頭をひねっていると、エミリィが遠慮がちに声をかける。
「なぁに? 奴隷ちゃん」
ニッコリと笑いかけるリスティだったが、エミリィは悲鳴をあげてビィトの後ろに隠れてしまう。
リスティに背嚢を奪われた時に、よほど恐ろしい思いをしたのだろう。
完全にリスティ恐怖症になっているエミリィ。
……これは、ちょっと連携に不安が残るものである。
「リスティ……───エミリィが怯えるから、その笑い止めてくれよ。で、どうしたのエミリィ?」
笑うなと言われて、一気に不機嫌面になったリスティだが、それをサラリと無視してビィトはエミリィに聞く。
「え、えっと、その…………トラップを使えばどうかな?」
「「「トラップ?」」」「…………」
※ ※
「「「トラップ?」」」
リズを除く全員が妙な声をあげる。
暗殺者であるリズも何か知っている風であったが、彼女は基本的にこういった場で意見を口にしない。
「は、はぅぅ……!?」
全員に注目されてエミリィはビクリと体を震わせた。
しかし、情報の中身を知らずして黙られても困る。
「えっと、どういうこと?」
努めて優しく話しかけるビィトに、エミリィは簡易図面の一カ所と、煙突内にいくつかある横穴を示した。
そこは急な斜面がついており、とても登れそうには───……。
え?
あれってまさか……。
「あ、あそこに、落とし穴があるみたいなんだけど……」
シュンとしたエミリィが、語尾を徐々に小さくしていく。
だが、それどころではない。
「ちょ、ちょっとまって?! 落とし穴っていうけど、ここのトラップってとっくに機能してないんじゃ?」
「う、うん……。多分、動かないよ? でも……」
エミリィが言うには、煙突まで続く落とし穴が何カ所かボス部屋付近の回廊にあるという。
おそらく、「悪鬼の牙城」が大昔に何かしらの種族が拠点として使っていた頃の名残だろうというもの。
今でこそオーガの巣窟になり、文明の痕跡もすたれて消えてはいるが、かつては書斎や調理場、そしてトラップを活用していた何かがいたのだ。
それらがボス部屋───もしくは大昔の主が使っていた部屋を守ろうとして、トラップを仕掛けていてもおかしくはない。
なるほど……。
感覚が鋭く、探知能力のあるエミリィはとっくに気付いていたのだろう。
あちこちの抜け穴の存在に。
そして、雰囲気から察するにリズもきっと……。
いや、言うまい……。
彼女の生き方は彼女だけの物。
「うーむ……。そのガキのいうとおりなら、古いトラップをこじ開けるくらいなら、たいして手間がかからなさそうだな」
機能していないとはいえ、落とし穴のトラップは本来敵を落とすための物。
壁に比べて頑丈ということはあるまい。
問題はその真下まで行くことだが───。
「エミリィは経路をつくれる?」
「? トラップの下までなら多分。開けるのは自信ないけど───」
上等ッ!!
「すごいじゃないか、エミリィ!! 今すぐ準備してくれる?」
「ええ?! 本当にそれでいいの? お、お兄ちゃんたちの方がすごく考えているのに───」
エミリィは自分の意見が採用されたことに驚いている。
だが、エミリィのいう経路は最適なのだ。
敵の気配は少なく。
そして、ボスまでの距離も申し分ない。
「うむ……。そこがベストだな。ビィト、経路は
「おう」
ビィトはジェイクの意志を組み、エミリィとリズに経路の開拓を任せた。
ロープもペグも十分にあるので、そう時間はかからないという。
リズとエミリィが簡単な打ち合わせをしているのを尻目に、ビィト達は突入後の話合いを詰めていった。
そうしているうちに、リズもエミリィもきびきびと動き、あり得ないほど急な壁をスイスイと登っていく。
そして息の合った様子で、壁にロープを這わせると、あっという間にトラップの出口だという穴に潜り込んでいった。
「す、すごいな……」
「感心している場合か! 聞け、間抜けッ」
ジェイクはビィトを睨み付けるように言う。
「な、なんだよ───」
「……俺なりに、前回の攻略を分析して、ここのボスを倒す方法を考えた」
そう前置きしたあと、ジェイクは静かに告げる。
「ボスを仕留めるのは─────────お前だ」
「は?」
唐突に告げられたビィトはポカンと口を開けるのみ……。
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