◆第15話◆「なんだかなぁ、先に進もうか」

「ジェイク───調子は?」

「ふん。聞かれるまでもない」


 ゴキゴキと、関節を鳴らしながらジェイクは起き上がる。


 確かに顔色はいい。


 相変わらず休む時は休む。

 遊ぶときは遊ぶ───それをキッチリとこなす奴だ。


「そっちはどうだ?」

「問題ないよ」


「ふん……。まぁいい、仕事はきっちりとしてもらうからな」


 そして相変わらず高慢ちきだ。


「へーへー。……ところで、リズは本当にいいのか?」


 暗にビィトのパーティに参入させてもいいのか? と聞いてみるも、

「───もう、お前の所有物だ。俺がとやかく言う気はない」


 そう言って、リズを突き放すような話し方のジェイク。

 それを聞いていたのか、少しばかり悲痛そうな顔をしたリズが、モソモソと起き出して来た。


 とっくに覚醒していたようだが、ビィトの「休め」という命令を聞いて、大人しくしていたようだ。


「リズ? そろそろ出発するけど、大丈夫かい?」


「は、はい…………。ビィト様、よろしくお願いします───いかなるご用命でも」

「だとさ。抱くなり、売るなり好きにしろ───もう、俺には関係ない」


 ば!?


「そういうんじゃねーっつの!」

「どうだか……。そういう趣味があるようにしか見えんぞ」


 どんな趣味だよ!

 ───言ってみ!!


 って、……………いや、言わんでイイ!!


 どうせ、ろくでもないこと。

 ったく、起き抜けから疲れるなー、まったくもぉおお!!


「───もう、なんでもいいから行くよ」

「お前が仕切るなッ!!」


 あーめんどくせぇ……コイツ!


「お前は黙って言う通りにしてろ。全体の指揮は俺がとる───……共闘の条件だ」

「はいはい」


 好きにさせるさ。……昔からこうだしな。


「よし、いいだろう。……偵察の結果は昨日聞いた通りだ。その啓開したルートを使う───本当にあれば、だがな」

「あるっつってんだろ!」


 ジェイクは、ビィトが作ったという最短ルートを信用していなかった。

 まさか、煙突を使って安全かつ最短ルートをエミリィみたいに、ちっこい子が見つけたというのが信じられないらしい。


「……言っとくけど、ウチのエミリィは凄いんだぞ?」

「は───口だけなら何とでも言えるさ」


 ち……。

 見て驚けッつの!


 ムカムカした気持ちのまま、案内のためビィトは先頭に立って歩く、多少は警戒するも、現状の合同パーティの火力は一階層にいる並みのオーガなど物の数ではない。


 悪鬼の牙城に対してなら、過剰火力。

 体調の戻ったジェイクなら、一人で大群をも殲滅して見せるだろう。


 そうして、実際に遭遇したオーガを撫でぎりながら進むビィトたち。

 そのまま、あっという間に最短ルートに到達してしまった。


 今は、最後尾のリズを除いて全員が煙突内部の集合区画にいた。


 煙突内をポカーンと見上げるジェイクたち。


 それをドヤ顔で眺めるビィトは、

「……どうだ! エミリィは凄いだろう」

「ふん。子どもにしては中々やるじゃないか」


「───ぷぅ」


 エミリィは不機嫌に顔をそっぽ向ける。

 小声で「子供じゃないもん」と拗ねているようだ。


 エミリィは徐々にジェイクたちに慣れてきているものの、まだまだ仲良しというにはちょっと距離感がありすぎる。


 しかも、リスティには怯え切っているエミリィ。


 ジェイクとリズにはそれほどでもないが、まだ三人とはどう接していいのか分からないのだろう。


 素直じゃないジェイクと、人見知りのするエミリィ。相性は、よくはないだろう。

 二人の性格からみて、なんとなく、狼と猫のようにも思えてきた。


 あ、もちろんジェイクが狼ね。

 ジェイクに、犬ってほどの可愛げはないし───。


「最後尾、異常ありません」


 そうこうしているうちに。リズが軽く汗をかきながら煙突の出口から顔を見せた。

 手にはロープを回収しており、ビィト達がいた痕跡を完璧に消してきたようだ。


「よくやった、リ───……ふん」


 反射的には労おうとしたジェイクは、リズの境遇を思い出し、そっぽを向く。


 ───素直じゃねぇやつ。


「ありがとうリズ。疲れたでしょ?」


 ビィトが水筒を差し出す、リズはと礼を言って受け取った。


 ロープやペグを回収したということは、自力で煙突を上ってきたということだ。


 凄まじいまでの身体能力だ。


 だがさすがに重労働だったらしく、薄く汗をかいている。


「ぷぅ……。オーガどもは、さすがに上っては来れないでしょうが───」


 痕跡を消すほど、ジェイク達が警戒しているのは外でキャンプを張っている「鉄の拳アイアンフィスト」の連中だろう。


 さすがに内部まで突入してくるとは思えないが、ジェイク達が物資を手に入れたことには勘付いているはずだ。


 何としてでもジェイクを仕留めたい王国の刺客ならば、無理を押してでも強行してこないとも限らない。

 だから、用心に越したことはないだろう。


「これで簡単には引き返せなくなったけど、大丈夫だよな?」

「あぁ、それでいい」


 ジェイクはブスっとしているも、リズの完璧な仕事に殊更ことさら噛みつく気はないようだ。


「───それにしても、なるほど……煙突か」


 ジェイクは煙突の集合区画の真ん中に立ち周囲を見渡す。

 ここが「悪鬼の牙城」の裏道だと知り、軽く驚いているようだ。 


「そして、垂直壁を上る……か。───これは思いつかなかったな」


 ペチペチと壁を叩き、エミリィが設置した登攀用のロープを見て目を細めていた。


 その後で、ニィと口を狂暴な笑みに浮かべるジェイク。


「──やるじゃないか。エミリィとやら! これなら、十分に勝ち目はあるぜ」 


 くくく……!


 そう言って、エミリィがドン引きするほどいやらしい笑いを浮かべるジェイクだった。

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