◆第14話◆「なんだかなぁ、偵察しようか」

 それから丸一日。


 体調を整えるため、ジェイク達はひたすら休んでいた。


 そして、多少は余力のあるビィトとエミリィが偵察に向かうことになった。


 崩壊した通路を抜け、悪鬼の牙城の最上階へと……。


 最上階のボス部屋への通路は、エミリィが発見した煙突を使えばすぐだ。

 集合型の煙突は、当然ながら最上階にも繋がっており、エミリィが壁懸垂でルートを開拓していく。


 一枚の壁を挟んで、ボス部屋に一直線の最短ルート。


 彼女の探知でも、ボスらしき強い気配があるという。

 そして、配下のオーガの兵士たち。


「す、すごい数……」


 顔をひきつらせたエミリィが、ビィトに涙ながら訴えた。


 大雑把な反応からも、ソルジャーやナイトタイプが多数いるというのだ。


 ガチガチの鎧で固めたオーガナイトに、遠距離攻撃のできるオーガアーチャー。

 さらに集団戦の得意な、槍と盾装備のオーガソルジャーに、僅かながらオーガメイジもいるという。

 とくに、魔法を使うオーガメイジは厄介極まりない。


「こりゃ、昔より数が増えてないか?」


 エミリィの報告に、ビィトも渋い顔だ。

 理由は不明なれど、以前攻略に挑戦したとき以上に数が多い。


(ホントに大丈夫なのか、これ……)


 これらを突破して、オーガジェネラルを刺すわけだが……。

 ハッキリ言って、苦戦するとしか言えない。


 以前はジェイクの超火力と、ビィト達の援護でソルジャータイプのオーガを撫で切っていたのだが、結局はオーガジェネラルに到達するまでに、やつらの大戦力に圧倒されてしまった。


 当時の火力でも、半分くらいは仕留めたと思うが、それでもまだ半分の戦力がいたのだ。


 それに対して、こっちはエミリィが増えただけで、戦力的には大幅増というわけではない。


 とすれば、以前の反省を踏まえても、半分より少しを倒せるくらいではないのだろうか?


「やっぱり、無謀なんじゃないか……?」

 

 壁一枚を挟んで、大量のオーガの息遣いを感じつつビィトは一人ごちた。


「お兄ちゃん?」

「いや、なんでもないよ……大丈夫。エミリィは絶対守って見せるから」

「?? う、うん。ありがとう」


 顔を赤らめたエミリィの頭を、ポンポンと撫でながら煙突を下る。


 偵察と経路開拓はこれくらいでいいだろう。


 ビィト達も少し休んで、それからミーティングを挟んで攻略開始だ。


 絶対に勝たねばならない戦い。

 今度は撤退できない……。


 先細りする物資を心配する未来よりも。

 そして、来るかどうかも分からない救助を待つよりも────地力で脱出するというジェイク。


 その判断は間違ってもいないだろうが、どうも焦りが先行している気がする。


(───こういう時は、失敗する気もするけど……。他に手がないのも事実なんだよな)


 焦りが判断を誤らせることは、ままある。

 だが、ジェイクが何を焦っているのか分からない。


 ジェイクは巧妙に態度には出さないようにしているが、ビィトには分かっていた。


 いや、それ意外にも懸念もまだまだある。


 ジェイクはオーガジェネラルがボスで、鍵を持っているというが、……果たしてそうだろうか?


 「嘆きの谷」のようにうまくいくかどうか。

 ───あのとき、ゴブリンキングがボスであったのは偶々の僥倖だ。


 「石工の墓場」でも、ボスっぽかったダークボーンキングは鍵を落としていない。


 それどころか、その後の出現したボスらしきダークボーンドラゴンも、必ずしもボスであったという保証もない。


 それほどまでに、ダンジョンは厭らしい造りをしているのだ。


 そもそも、転移の魔法陣すら見つかっていない中、仮に鍵だけを発見してもそれから先をどうするというのか……。


 ジェイクの案は、よく考えているようで穴だらけだった。


 だが、やるしかない。

 ───現状、それ以外に手が取りようがないのだ。


 抜け道から先に進んでも、戻れる保証は無し。


 撤退するにしても、「鉄の拳アイアンフィスト」が王国の特殊部隊と手を組んでいると分かった以上、それを真正面から駆逐するのも得策ではない。


 そして、頼みの綱であるSランクパーティとやらが、いつ到達できるのかもわからない。


(八方塞がりとは、このことか……。はぁ、まいったな───)


 どうしたものか……。


 暗澹とした気持ちでジェイク達の元に戻ると、目立たない位置で警戒していたリズと目が合う。


「おかえりなさい、ビィトさま」

「───リズ、起きてたの? 寝てないとダメだよ」


 せっかく、体力を回復させるために時間を作ったというのに、これでは本末転倒だ。


「大丈夫です。充分に休みましたよ」

「それでも、だよ───。俺がエミリィと交代で見張るから、休んで」

「ですが……」


 なおも言い募るリズに、ビィトは半ば強引にいった。


「リズ、命令だよ」

「はい」


 おぉ、やっぱり素直だ。

 慣れないけど、こればっかりは仕方ない。


 リズもエミリィのように少しずつ慣れてくれればいいんだけど……。


 そういえば、俺───この子を買ったんだよなー……。と、むず痒い思いをするビィト。

 仕方ないとは言え、とんでもないことをしでかした気分だ。


「はぁ……。街にかえりたくねー」


 絶対ろくでもなくて、とんでもない噂が立つ……。


 鬼畜ロ──────……。


 色々と考えることが多すぎてビィトは頭を抱えたとかなかったとか───。

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