◆第13話◆「なんだかなぁ、まさか、また───」

 ブツ……。

 叩きつけるように一方的に通信を切ったジェイク。

 その顔は怒りや嘲りに満ちている。


「じぇ、ジェイクいいのか?」

「いいも悪いもあるか! 状況は把握した。……ま、自力で脱出するしかないって事だ」


 そう言って、むっつりと押し黙ったジェイクは残りの飯をカッ食らうと、すぐに武器の手入れに移った。


 半ばビィトは無視された形だな、要するに、時間が惜しいということだろう。


「あむあむ……。方針決まったの~?」


 リスティが、暢気そうに飯を食いながらのたまう。


「あぁ、脱出だ───」

「ふーん? 前、後?」


 前……。

 「悪鬼の牙城」の抜け道の先───ダンジョンを進み、別階層からの脱出を図るという事。


 後……。

 「鉄の拳アイアンフィスト」を駆逐し、正規ルートでの帰還を目指すという事。


 ジェイクは───……。


「どっちでもない……。ここだ」


 そう言ったきり、汚れた刀を在り合わせの手入れ具で磨き始めると、あとはいつもどおりに押し黙る。


 こことは──────?


 ジェイクがクイクイと、指で示した先……。

 そこにあるのは、悪鬼の牙城の奥。


「ま、まさか」

 ビィトの呟きにジロリと一瞥を寄越したジェイクは、

「………あぁ。『悪鬼の牙城』を攻略する───ボスを仕留めて、ダンジョンの鍵を入手すればいい」


 ガタッ!!


 ビィトが驚いて思わず立ち上がる。


 だってそうだろ?

「む、無茶だ──────!!」


 ここのボス、

「───オーガジェネラルを倒すって!?」


 ビィトの声に、苛立ちを隠そうともせず、ジェイクはジロリと一睨み。


「───そうだ。やってやれんことはない。……救助を待つよりも、先に行くよりも、跳ね橋を越えて「鉄の拳アイアンフィスト」と一戦交えるよりも、これが一番早い手段だ」


 そ、そうかもしれないけど……。


「で、でも……。前に、言ってたじゃないか! 勝てないって───!?」


 そう。

 かつて「豹の槍パンターランツァ」がこの「悪鬼の牙城」の抜け道を見つけた時のこと。

 当時は、当然未発見の派生ダンジョンだった。

 それならば、一度は攻略しようと試みるのが冒険者というもの。


 もちろん「豹の槍パンターランツァ」もそうだ。


 そして、ジェイクの火力を頼みに、悪鬼の牙城のボスがいる最上階を目指していったのだが、いくらSランクパーティとはいえ、段々と苦戦するようになってきた。


 それもそのはず。

 素手のオーガが多い一階層や二階層と違い。

 最上階では、兵隊化したオーガで占められていた。

 そのうえ、ボスと思われるオーガジェネラルは群を抜いて強かった。


 一度交戦したことがあるのだが、圧倒的な数のオーガ部隊と、オーガジェネラルの膂力の前にジェイクをして大苦戦。


 リスティやリズも、ろくに援護できないまま撤退することになった。


「あぁ、あの時はそう言った──────だが、リスクがあったから撤退しただけで、今はそうも言ってられん」


「で、でも───……」


 顔を歪めたビィト。

 これでいて堅実なジェイクがリスク覚悟で攻略しようというのだ。


「……………お前について来いとは言わん。───だが、共闘すれば道は拓ける」


 え?


「───ドロップ品はイーブン。報酬は無し。…………やるか?」


 そ、それって──────。


「もしそうなれば、戦力は倍だ。勝ち目はある」


 ジェイク達ともう一度───……。


 …………………………もう、一度。


 あぁ、ジェイク。

「────…………おう、任せろ」


 ジェイクは、刀を持ち上げ柄をビィトに。

 ビィトは、拳を作ってその柄頭にコツンと当てる───。


 男たちにだけ通じる証───。


「ふん。共闘成立だな」

「あぁ、うちのエミリィも───リズも強いぞ」


「ふっ」


 ───わかってるさ。


 そう言って、ジェイクが珍しく笑顔を見せた。


 ま。もちろん、すぐに仏頂面に戻ったわけだが──────。

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