◆第10話◆「なんだかなぁ、色々裏がありそうだ……」

「ほら、まだまだあるから皆で食べよう」


 ビィトは大鍋でクツクツと音を立てて踊るチーズのスープを指し示す。

 自分でやって見せるとばかりに串に刺したニンニクを熱々のチーズに浸して───トロリと絡まったそれをチーズの中から取り出して見せた。


「こうやって───」


 ぱく……。


(あ、うまッ!)


 ニンニクの風味がバッチリと生きているうえ、トロトロに柔らかくなっている。

 そこに熱々のチーズが甘さと少しに苦みを与えて旨味のダブルパンチを利かせてくる。


 こんなもん……旨いに決まってますやん!!


 ビィトの幸せそうな顔を見た面々が次々にニンニクにタマネギの串に手を伸ばす。

 そして先を争うように次々にチーズを絡めていく。


「ちょ、ジェイク邪魔!」

「うるせぇ、お前こそ邪魔だっつの!」


 態度のデカいコンビはギャイギャイ騒ぎながら、鍋の中で串をグルグル回す。

 

 うん……お前らが一番邪魔だ。


「あ、リズさん……ちょっと早くない?!」

「隙を見て差す──────暗殺者の基本……………………あ、まだ、生でしたね」


 リズは無駄に素早い動きでニンニクを鍋から掬い出しているが、確かにそれは早すぎる。

 まぁ生でも食えるけど、さすがに旨くないぞ───それは。


 エミリィちゃんは、がるるるるると吼えるリスティにビビッて遠慮しているし……。


 リスティ───いい加減にしないと首輪して壁に繋ぐよ?


「む、悪くないな……」


 モッチャモッチャと頬張りながらジェイクが呟く。

 いい加減意地を張るのも面倒くさくなってきたのだろう。

 割と素直に飯をつついている。


 そろそろ口の中をリセットさせようと、物資の中から堅パンを大きく切って皆に分けてやる。

 ジェイクも含め、素直に応じていた。


 パンをチーズに浸して柔らかくしながら食べると、お腹にドシっと溜まる感じがする。これが旨いんだ!


 そうして皆で食事を取ると、少しずつ緊張感がほぐれていくようだ。


 元々キツイ目つきと顔のジェイクも、気のせいか表情が柔らかくなっている気もする。


「……ところでビィト───。ここまでどうやって来た? 連中を殲滅できたのか?」


 パンをとりだした背嚢を見てジェイクが呟く。

 これは「鉄の拳アイアンフィスト」から奪ったものなので、思うところがあるのだろう。


「連中?…………あぁ、橋を占拠していた連中か。何人かは倒したけど、全部は無理だよ───すごい数だった」


 何気なしに呟いたビィトに、

「───なに?……すごい数だと? 何人だ?」


 訝しげな顔をしたジェイク。


「な、何人って……。んーー……確認できただけで、30人はいたかな」

「な?! バカな!?」


 いや、嘘ちゃいますって。


「か、数がどうかしたのか?」

「バカ野郎。どうもこうも───俺が30人も雇う様に見えるか?」

「…………見えないな」


 ジェイクだって無敵じゃない。


 荷運び人を大量に雇えばそれを守り切るのは困難だし、ダンジョン内でのトラブルも避けられなくなる。


 だから、普通は少数精鋭。

 専属の荷運び人を雇ったとしてもせいぜい5、6人だろう。


「───で、でも。本当に30人はいたぞ? それどころ、あちこちに見張りも置いているみたいだし、もっといるのかも」

「見張り? お前はどうやってそれを抜けた───そこから脱出できるか?」


 ジェイクなりに事態の打開策を考えているのだろう。

 なんとか物資は補給できたものの、ダンジョンを脱出するにはまだまだ難関が多い。


 正攻法で抜けるルートは時間がかかるし、この牙城にある抜け道を使って先に進みつつ物資を補給できるエリアまで言ってから脱出するという手もある。


 いずれにしても、時間がかかり過ぎるのが難点だが、どちらも今のジェイク達には困難だろう。

 ゆえに、別ルートがあればそれを模索しても良いというところか。


「無理だろうな……。蟻の巣からダンジョンに繋がった裏道を使ったんだ。当然、そこは封鎖してきた───」

「チッ! 使えない野郎だ」


 んだとコラ!?


「やはり正攻法しかないか……。基準ルートの『蛇の道』は「鉄の拳アイアンフィスト」が占拠しているだろうから、なんとしてでも連中と一戦交えるしかない」

「その前に跳ね橋をどうする? 連中の追撃を防ぐため、爆破したぞ?」


 それを聞いたジェイクが眉を吊り上げる。


「おまっ!? ば、馬鹿か?! それでどうやって帰るんだよ!!」


 物凄い剣幕で詰め寄るジェイクに食事中の一同が一斉に静まり返る。


「え? いや……。だって……」


 その辺のことを全然考えていなかったビィト。

 兎にも角にも、ジェイク達に物資を届けたい一心で帰りのことがほとんど頭になかった。


「だって、じゃねぇ!……だからお前は間抜けなんだ!」

「仕方ないだろ?! こっちも危なかったんだよ!」


 ビィトの言い分も正しい。

 あのまま放置していれば連中が牙城内まで突入してくる可能性は大いにあった。


「だとしてもだ! くそッ……! 根本から考え直しだ」


 ジェイクが腹立たしそうに堅パンをバリバリと齧っていく。


「悪かったよ……。でも、お前に会えれば何とかなると思ってたんだ」

「ふん。相変わらず他力本願だな。……他に何か情報はないのか?」


 他って言われても…………。


「あ、そう言えば───これ、」


 荷物の底からビィトが取り出したもの。

 小さくて高性能───そして、門外不出の魔道具。


「ッッ?! おまっ──────これは通信魔道具じゃないか!!」


 驚いた様子のジェイクが、ビィトの手からそれをひったくる。


「ど、どこで入手した?! お前の物──────な、わけないか」

「あ、あぁ……。連中から奪った物資の中に紛れていた。デカい天幕の中にあったから間違いないぞ」


「なん、だと……」


 ビィトから「鉄の拳アイアンフィスト」から奪ったと聞いた瞬間、ジェイクの目がスゥっと細められる。


「馬鹿な……。連中にこれを入手できる伝手つてなんぞないはずだ。たかだかAランクのパーティだぞ?」

「俺に言われても……。あ、そう言えば連中、外のリアルタイムの情報に明るかったな」


 ビィトの二つ名を知っていたし。


「ふむ…………。ん? その奴隷が持ってるボウガンの矢───見せろ」

「え? あ───ちょ!」


 有無を言わせぬままに、ジェイクがエミリィの腰に結わえていた矢筒からボウガンの矢を奪い取る。


「こ、れは…………。クソ! そう言う事か!」


 ベキリと矢を追ったジェイクが憎々し気に呟く。


 ───どう言う事だよ?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る