◆第9話◆「なんだかなぁ、飯を食いませぅ!」

「いただきまーす♪」

「いただきます」

「ふん……」

「はふ、はふ、はふ、んんんんんまッ!!」



 それぞれが、それぞれの反応を示す。

 ってうか、リスティさんぇ………………。


「おまえ、どんだけ食う気だよ───」


 呆れんばかりの妹の食欲。

 さっきまで堅パンとかクッキーにビスケットを好きなだけ頬張ってた気がするんだけど……。


「あるだけ食うわよ?」


 あ、はい。


 もう好きにしてください。


 さも、当然のごとくのたまう妹に、二の句が告げない。

 

 そんでもって、ジェイクさん。

 アンタ食事の挨拶もせんで、態度悪いね?


 しかも、食べ方がやたらに綺麗だし………微妙にムカつく。


「ふん……。まぁまぁ食える」


 あ、はい。

 ありがとうね。


 ……ちなみに、こういう反応はジェイクなりの美味しい、だそうです。───多分。


 ……………………で、なによ?

 スープの器を俺に突き出してるけど??

 ──────え?

 まさか、おかわりを寄越せとかそういう───?


「早くしろ」


 あ、はい。


「………………ほら、ジェイク」


 いいけどさ。

 なんで、俺が注ぐのが当然みたいの思ってんの?


 ねぇ?

 ねぇねぇ?!


 いや、スープくらい注いだるけどさ!!


「っち、のろまめ……」


 ぶっ殺すぞこの野郎!!


 イラっと来たのも束の間。

 下っ端根性の染みついてるビィト君は、唯々諾々と従ってしまう。


 まぁ…………なんだかんだで美味しそうに食べてるから悪い気はしないけど。


 エミリィもリズもジェイクもリスティも、それぞれが思い思いに料理に舌鼓をうっている。


 まぁ、これはこれでありだろう。

 さて、俺もそろそろ食うかな。


 なんだかんだで腹がすいたよ……。

 凄く疲れたし。


 さて、実食。


 まずはメインディッシュ───。


 ベーコンのチーズ煮!!


 みよ、このカロリーの塊を!

 まるで、メタボ製造マシーンではないか!


 チーズがドロンドロンにからまったベーコン───。

 動物由来の油脂と、油脂と、油脂でギットギト!

 そして、申し訳程度のタマネギがまた慎ましい!


 うむ………………。


 絶対うまい。


「あーーーーん」


 ガブチュ──────!


「熱ッッ!」


 チーズが!

 チーズが!

 チーズが暴力やでぇぇえ!!


 でも、

「うんんんんんまッ!!!」


「うまい………………」


 味に感動するビィトの傍で、ジェイクがしみじみと味に感じ入っている。

 しかし、すぐにビィトの視線に気付き目を泳がせると、ソッぽを向いて黙々と食べ始めた。


 よくよく見れば背中がフルフルと震えている。


 お、おう……。

 まさか泣いてる?


「泣いとらんわ!」


 あ、はい。


 まぁ、意地っ張りのジェイクはほっといて皆で仲良く食べよう。


 そう思って女子ーズを視線を移すと、

「はふはふはふはふ、はふッ! おいひーよ、おいひーよー」


 ボロボロ涙を溢すエミリィちゃん。

 大好きなチーズに、でっかいベーコン。

 彼女にとっては夢のコラボという奴だろう。


 そして、リズ。


 普段、あまり感情を見せない彼女が、静かに涙を流して食べている。

「ど、どうしたの?! 大丈夫、リズ!?」

 慌てて駆け寄り、彼女の背中をさする。

 もしかして、傷が開いたのだろうか?


 ビィトの回復魔法は所詮、下級なのだ。

 傷の完全回復は難しいのだろう。


「だ、大丈夫です。……そ、その」

「本当に?! だって泣いてる───」


 フルフルと首をふるリズ。


「料理が……。ご飯がこんなに美味しいなんて、私───知らなかった」


 食べてよい「お肉」が……。

 動物を犠牲にして作るチーズの味が──。


「こんなに尊くて、滋味深くて…………」


 涙が出るほどの、温かい味がするなんて───。


 グスングスンと何度もしゃくり上げては、惜しむようにベーコンを口に運ぶリズ。

 彼女がどうしてこうも感情を見せるのか、ビィトにはわからない。


 ただ、一度は肉として解体されそうになり、そして救われたリズ───。


 食べる………………。


 そのことに対する意識が変わったのかもしれない。

 だが、その変化は好ましいものだ。


 今のリズは冷静で冷酷な暗殺者のそれではない。

 年相応の可愛い女の子だった。


「うん……。ゆっくり食べて。まだいっぱいあるから───よく噛んで、よく味わって食べるといい」

「はい、ありがとうございます───ビィトさま」


 ポッと顔を染めて、リズが恥ずかしげに顔を伏せる。


 あまりに至近距離でビィトが見つめているせいなのだが、当の本人はまったく気付いていない。


 気付いているのは、ニヨニヨ笑うクソ妹と、むくれて頬をプクーと膨らませているエミリィのみ。


 ジェイクは──────当然の顔をして、自分でおかわりをしてました。……はい。


 なんだろうな。この感じ───。


 昔のパーティに戻ったようで、それよりも少しだけ温かく、楽しい食事だ。


 二度と同じパーティを組むことはできないだろうけど、しばらくはこうして食卓を囲むのも悪くはない。


 悪くはないな……。


 さぁ、皆───まだまだあるからノンビリ食べようか!


 ビィトは、それぞれが料理楽しむ様を眺めながら、求められればおかわりをドンドンだしてやった。


 うんうん、まだ食え。

 ドンドン食え。





 スープも、チーズフォンデュもあることをお忘れなく!

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