◆第8話◆「なんだかなぁ、とりあえず飯を作ろう(後編)!」

「こ、これくらいでどうでしょうか?」

「お、いいね!」


 リズが散らせたタマネギが、チーズの海に沈んでいく。


 そこにビィトが香辛料と塩を少し加えて味を整えると、

「さ、エミリィ───今度はスライスチーズでタマネギに蓋をして」

「わー! いいの?! チーズタップリでいいの?!」


 おう、いいともいいとも。


 カロリー不足の腹ペコジェイクには、これくらい食わせてやらねばな。


 本当は麦粥くらいの方がいいんだろうけど、頑強なジェイクが胃痙攣でくたばるとは思えない。それにリスティもいるしな。


 今は早急な栄養補給カロリーの方が重要だ。


 見た目のとおり、どっしりと腹に溜まるので過食することもない。

 

 今も、エミリィが喜々としてチーズのスライスをタマネギの上に敷いていく。

 だが、その都度に熱でトロトロに溶けていく。


 焦げたチーズの匂いがたまらない!


 ベーコンの上に撒いたチーズは、とっくに溶けてトロットロのソースになり、油と一緒に煮立っていた。


「よし、じゃあ最後にベーコンの残りで蓋をして──────鍋を閉じるっ、と」


 ベーコンイン、チーズ×チーズイン、ベーコンだ!!


 見よ!

 このカロリーモンスターを!!


 ベーコンがスライスチーズの上にのっかり、玉ねぎをスパイスとして、トロットロのデロンデロンのカロリーランチの概成だ!!


 カコン───と鍋を閉じる前に、少しだけ火酒を足しておく。


 これは、焦げ付き防止と香りつけだ。

 あとは火から少し遠ざけて、ベーコンにまんべんなく火が通るのを待つ。


 現状──こいつぁベーコンでチーズとタマネギを閉じただけの、『コッテリベーコンバーガー』だ。


 ハンバーガーとはいいつつも、パンじゃないよ?

 ベーコンです。はい。


 そして、これ、見た目は上手く閉じているように見えて、そうはならない。

 熱が通ればチーズの海に沈んで、鍋のようになるのだ。

 そりゃあもう、チーズがデロンデロンに溶けて、デュルンデュルンになるわけで、パンを使ったバーガーのようになるわけがない。


 ま、見た目はあれだけど、味のほうは……。

 それは食べてのお楽しみってことで。


「もう、二、三品作ろうかな? 手伝ってくれる?」

「はーい!」

「はい、お任せください」


 ビィトの奴隷たちは、素直でいい子ばかりだね。

 

 涎を垂らして鍋を凝視している妹とか、腹がギュルギュルなっているのを誤魔化すために刀の手入れをし始めた、どっかの高慢ちき・・・・とはえらい違いだ。


「タマネギの余りとベーコンでスープにしよう。あとはニンニクをほぐしてヘタを取っておこうか、これはあとで使うからね」


「スープやるぅ」

「では、ニンニクは私が処理しておきます」


 ん。

 分担できるのはいいことだ。


 リズの刃物の扱いは神掛かっているので、下処理は任せてもいいだろう。

 一つ二つ見本を作ってリズに渡した。


 全部使われても困るからね……。今日食べる分だけだよ? と念を押しておく。


「リズはそっちお願いね。じゃ、エミリィは小鍋でスープを作ろう。ベーコンの余りと塩漬け肉を角切りにして入れよう」

「これ?」


 エミリィが塩塗れの肉を取り出す。

 ちょっと緑色に変色しているところもあるが、煮込めば大丈夫だろう。

 

 ただ、塩気が強くなりすぎるので少し水で落とす。


 エミリィの手の上の肉の塊に水魔法で作った水を駆けて大雑把に塩を流しておく。

 その間にも小鍋は火にかけられクツクツと煮立ち始めた。


「じゃ、塩漬け肉、ベーコン、その順でいれて───」

「それからアク抜きだね?」

「そうそう」


 お、エミリィ分かって来たじゃない。

 塩漬け肉のアクは半端じゃないからね……。


 グツグツ煮立つスープ鍋から何度もあく抜きをしているエミリィを尻目に、ビィトは乾燥野菜を少し水で戻し、ハーブで乾燥臭を抜くために揉みこんだ。


「大分、灰汁取れたよ?」

「こっちも終わりました」


 うん、いいねー!


「俺も準備できたよ。ニンニクはこっちのタマネギとあわせて使うから、貰うね。エミリィとリズはこの野菜と余ったタマネギを全部スープに入れてくれる?」

「はーい!」

「お任せください」


 二人して押し合いへし合いしながら狭い調理スペースを奪い合っている。

 その様子にホッコリしながらも、ビィトはメインの食事の完成具合を確かめた。


 大鍋がグラグラといい音をたてて煮立っている。

 フンワリとチーズとベーコンに香りが漂い、実にいい。


 鍋蓋を開けてみると、グツグツグツ!! とチーズと油が盛大に煮立つ音が出迎えてくれた。


「よし、こっちは完成──────スープは乾燥野菜のしわが消えたくらいが食べどころだからね、そうなったら教えて!」

「「はーい!」」


 あ、はもった。


 キャッキャしながらスープを作る二人を尻目に、ビィトは大鍋の中身をさらによそっていく。

 デローーーーーーーンと溶けたチーズの海にベーコンがベッチャベチャになって絡まっているだけ。


 だけど、このカロリーかつオイリーな香りは堪らない。

 毎日こればっかり食ってたら絶対太るし、病気になるだろうけどね。


「はい、リスティ」

「わ! あーりがと!」


 ひったくるようにして皿を奪い取るリスティ。

 コイツに一番に渡さないと危険なことは百も承知しているビィトだ。


 そして、

「ほら、ジェイクの分」

「ふん」


 渋々と言った感じで皿を受け取ると、手で扇いで香りを確認していやがる。


「なんて下品な料理だ……」

「嫌なら食うなよ」

「──────………………嫌とは言ってねぇ」


 プイスとそっぽを向いて皿に手を付けるジェイク。

 ようやくの飯だろう。

 多分、何食ってもうまいはず。


「エミリィとリズの分もおいとくよ? スープはできた?」


 チーズの海からベーコンを掬って皿に盛りつけるだけの簡単作業。

 そして、


「スープいいよー」

「器をかります」


 息の合ったコンビネーションでスープを取り分けていく二人。

 そして、手早くリスティとジェイクの分を配膳すると、自分たちにもよそう。


「いい匂い~」

「簡単な材料からこれだけのものが……」


 エミリィは慣れてしまったのか感動が薄い。

 リズは仕切りに驚嘆している。


「先に食べてていいよ。最後に一品作っちゃうから」


 自分用の皿と器を受け取り、ビィトは空になったスープ鍋に大鍋のチーズをうつす。

 そして、コトコトと煮立たせたら──────。


「はい、ニンニクとタマネギのチーズフォンデュだよ。串に刺してチーズを絡めて温めて食べてね」


 串を人数分と、ニンニクとタマネギの欠片を沢山皿に盛って皆の中心に置いた。


「じゃ、食事にしようか───」


「はーい!」

「いただきます」

「ふん」

「はふはふ……アチアチ───旨いは、これ」


 おう……。

 まぁ好きにしてくれ。


 一名勝手にガツガツ食ってるけど、ほっとこう。


「じゃあ、疲れてるだろうから好きに食べて食べて、追加が必要なら作るから」


 ベーコンのチーズ煮。

 塩漬け肉と乾燥野菜のスープ。

 ニンニクとタマネギのチーズフォンデュ。


 そこに、堅パンとビールかワインをお好みで。


 では、いただきます!

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