◆第8話◆「なんだかなぁ、とりあえず飯を作ろう(前編)!」

 飯を作ること自体にジェイクは反対するかと思ったが、案外素直に応じた。

 飯の鍋などはジェイク達の物を借りるので、その一環で問題ないと思っているのかもしれない。


 うん。ジェイクの価値基準はよくわからん。


 っていうか、料理の手間を絶対過小評価してるよ、ジェイクさん。


 ま、いいけどね。


「───じゃ、エミリィとリズの二人には手伝ってもらおうかな。リスティは……」

「嫌よ」


 モッサモッサと、乾燥野菜を口に放り込んでいる我が妹。


 っていうか、君ずっと食ってるよね?!


「じぇ、ジェイクは───」

「ふざけろボケ、一回死ね、間抜け野郎」


 ……あ、はい。


 ───っていうか、言い過ぎじゃね?!


 なんかスゲー腹立ってきた。

 あとで、ジェイクとリスティに飯には鼻くそでも放り込んでおいてやろうか……!


 飯を作る人間を馬鹿にすると、怖いんだぞ。


 ……………………やらないけどさ!

 (悩んだかどうかはこの際、置いておく───)


「はぁ。じゃあいいよ。……エミリィ───まずはタマネギを切ってくれる? 表皮を剥いて、ざく切りにするだけでいいから」

「はーい!」


 食材も恵まれてるとは言い難い。

 生鮮品は消費しつくしているので、保存性の高い、イモ類や豆。あとはタマネギやニンニクくらいなもの。


 それ以外は大抵乾燥食品が主だ。

 あとは塩漬けや発酵食品。そして、小麦粉等々。


「うーん……。リズはチーズを削ってくれる? 薄いスライスと、あとは短冊切りしたものを沢山頼むよ」

「はい。お任せください」


 リズは手慣れた様子でナイフを取り出すと、無茶苦茶高速でストトトトトトトトン!! と切り分けていく。

 そして、チラリとエミリィを見ると、タマネギを切り分けるのに四苦八苦し、刺激物で涙目になっている彼女をフと鼻で笑った。


 ……って、今挑発してた? ねぇリズさぁん?


「な、なによ! ちょ、ちょっと目が染みているだけだけど!」


 エミリィもムキになってリズに反論するも、

「そうですか? 特に聞いているつもりはありませんが───……あ、ビィト様、終わりました」

「あ、ありがとう……。早いね」

「それほどでも」


 ニィと小さく口の端をあげて笑うリズ。

 ムキー! と顔を赤くしたエミリィ。


 だが、リズは知ってか知らずか、

「お嬢さん───……あーエミリィさんでしたか? 私が手伝いましょうか?」

「いい! できるもん!!」


 エミリィはプクーと頬を膨らませて何やら、おむずかり……。


 ビィトはお手上げだ。


「あー…………じゃ、リズは鍋を油で熱してくれるか? プツプツ気泡ができたら教えてくれ」

「はい。お任せください」

「お、おう……」


 この子素直なんだけど、堅いんだよなー。


 ……そう言えば、今はビィトの奴隷という扱いなせいか、実によく話をしてくれる。


 前は凄い無口だった気がするけど。

 ま、いっか。


 さて、俺も手早くやらないとな。


 塩漬け肉や、ナッツもいいけど。

 ちょっと変色し始めているからこれから手を付けるか……。


 ビィトが取り出したのは油紙に包まれたベーコンの塊だ。

 少しカビが浮いているがまだまだ許容範囲。

 色もドぎついピンクをしているが、悪臭はしないので大丈夫だろう。


 カビや変色部位を大きく切り取り火の中に投げ込む。

 その瞬間、肉の焼ける香りが漂い空腹を刺激する。


 ジェイクですら顔をあげ、鼻をヒクヒクとさせる。

 なんだかんだで一番空腹なのはジェイクだろう。


 強化薬を使いながら、飢餓状態で動き回っていたのだから当然だ。


 待ってろよ。もうちょいで食わせてやるから───。


 手早くベーコンのスライスを作っていくビィト。

 そのうちに、リズから油の準備が整ったと聞かされる。


「オーケー。エミリィ、そっちはどう?」

「ん──────で、できた!」


 結構苦戦していたらしいエミリィ。

 ビィトの問いかけから少し貯めて、最後のタマネギの塊を切り分ける。


 ニッコリ笑って振り向くも、顔中が涙と鼻水まみれ。


「ありがとう。リズの所に持って行って───あ、」


 鼻水すごいからね、はい、ハンカチ。


「あふ……。ありがと」───チーン!!


 無茶苦茶盛大に鼻をかむエミリィ。

 女の子なんだからもうちょっと気にしようね。そゆとこ……。


 ベッチャベチャになったハンカチをそっと床に置いて隠すと(あとで洗うのだ)、エミリィに続いてベーコンとチーズのスライスをもってリズに預ける。


「これくらいでいいですか?」


 リズが示す鍋の底には油が敷かれており、プツプツと気泡が立っていた。


「いいね。上等上等」


 ビィトはローブをまくると、リズに預けたベーコン皿から手づかみで雑につかむと、一枚一枚鍋底に敷いていく。


 ジュゥウウウウ!!!


 熱々の油がベーコンをあっという間に焼いていく。

 薄いベーコンの表面が熱を受けてキュウウ……と縮こまり、ポコポコと油の沸騰を受けて波打つ。


「うん……いい油使ってるな───」


 ジェイク達がダンジョンに持ち込んだ油は中々に高級品らしい。

 香りがよく、透き通っていた。


 さて、そこに───。


「エミリィ、鍋底にベーコンを敷き詰めてあるでしょ?」

「うん!」

「その上にドッサリとチーズの短冊を盛り付けて───」

「え! いいの?!」


 エミリィはチーズが好きだ。

 …………というか嫌いなものがないらしい。


 だが、それでも好みというのもあるようで、チーズと聞くと目を輝かせている。

 今も喜々として、チーズをベーコンの上にパラパラと盛り付けていた。


「いいね! じゃあ、次はリズ───タマネギを解しながらチーズの上に乗せてくれない?」

「わ、私がですか?──────は、はい!」


 リズが恐る恐るといった様子で、エミリィが持っているタマネギのざく切りを、層に沿って解しながらジュウジュウと音を立てるそこに並べていく。


 既に周囲はベーコンの焼ける匂いと、チーズの解ける匂いで満ち満ちている。


 いつの間にか、リスティもジェイクも鼻をフンガフンガさせていた。

 労働してないくせに、料理だけは食べる気満々。


 ……ほんと、いい性格してるよね。君ら。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る