◆第5話◆「なんだかなぁ、俺が悪人に見えてきた」

「ふざけんなし!!」


 プンプン起こるビィトだが、ジェイクはそれをスルリと無視して考え込む。

 ジェイクの中でプライドとかそういうのがせめぎ合っているのだろう。


 それに、そう簡単なことではない。


 リズは元ジェイクの御家に使えていた、暗殺一族の末裔だ。

 その一族も、とっくに身分を買い戻して今は自由の身だという。


 とはいえ、忠義の一族らしく今もジェイクの御家に尽くしているそうだ。

 そのためリズも自由民となってからもジェイクに同行し、こうしてダンジョンくんだりまで付き合っている。


 リズの一族が身分を買い取ったのも、ジェイクの御家に対する資金援助の側面が強かったとかなんとか……。

 

 すまん、あまり詳しくは無いんだ。

 ジェイクは話してくれないし───。


「リズ……。お前はどうしたい? お前の稼ぎはパーティのものになるが、それはお前自身の「身」についてもそうだ」


 つまり、リズを売るのも買うのも、リズの意思次第ということ。

 ビィトがエミリィの代金を支払ったのと同じことをしよう、と言うのだ。


 ジェイクはリズは自分の物だというが、そう言ったところで、リズを個人の意思とは関係なしに売買することはできない。


 そも、できるような身分でもない。


 リズがジェイクの奴隷ならまだしも、彼女は自由意思の一個人なのだ。


 S級の冒険者で、凄腕の暗殺者アサシン──────。


 それがリズという少女。


 その値段はビィト自身の値段であった、金貨10枚を遥かに上回るものだろう。

 そして、その身を売るのも買うのも自由にできるのはリズ自身のみ……。


「───ジェイク様……。もし、もしもですが……。私の体で買い上げた物資は、口にしてくださいますか?」


 それはリズにとっても最大の譲歩。

 そして、ジェイクにとっても最大限の譲歩だ。


 ジェイクのプライドとパーティの命を天秤にかける、危険な一言。


 ジェイクがそれすらも否定してしまえばビィトにも成す術がない。


 リズが支払う対価で物資を買えば、ジェイクは彼女からの施しを受けるということになるのだから……。

 ジェイクがそれを受け取るかどうかは、彼次第───。


「そ、それは私が私の意志で自分を売り、そして私一人で持ち帰った物資と同義です……。つ、つまり───その、私から施しを受けることにもなりますが───」


 ブルブルと震えるリズは、ジェイクのほうをまともに見ることも出来ずに俯いている。


「いい。皆まで言うな───……。主家のことは知っているだろう。俺はお前から受けるものを施しだとは思わん……。俺達のパーティの成果だ」


「は、はい……! ありがとうございます」


 ジェイクの信頼と、受け入れられたことに涙を流すリズ。

 だが、ビィト───お前は仲間じゃない・・・・・・・・・と、言外に言い捨てられたようでビィトとしてはいい面の皮だ。


 たしかに、もうビィトとジェイクはやり直すことはできないだろう。

 少なくとも同じパーティに戻ることはもう二度とない。


 正式にパーティを除籍されたわけではないので、ギルドの登録上はビィトは宙ぶらりんの状態で、二重のパーティを組んでいることになっているのだが、きっとジェイクは何があってもビィトの再加入は認めない。


 それだけ二人の間には大きな溝ができてしまった。

 ビィトももう戻りたいとは思えないし、戻ってもうまくいかないだろう───。


 共闘はできても、共存はできない……。

 それがビィトとジェイクの在り方だ。


 リズの頭に手を置き、雑に撫でるジェイク。

 それを黙って受け入れるリズ。


 まるで根性の別れを惜しむように見えるが──────。


 あのね?

 便宜上だよ?


 別にリズを買って、あんなことやこんなことをしようなんて思ってないよ?

 うん、ちっとも──────。


 というか、別に「豹の槍パンターランツァ」から抜けなくていいからね?


 ホントわかってる。そこんとこ?!


「──……あの。び、ビィト様は、その、」


 そして、ビィトに向き直り妙にモジモジし始めたリズ。

 エミリィはエミリィでずっと膨れっ面だし、

 リスティはニヨニヨしとるし!!


 何なの、この茶番!?


 そんで、リズちゃんは何をモジモジしとんねん!?


「───あ、あうあ……ああああ、あの、わ、私を、い、いいいい、いくらで買ってくださいますか」


 え?

 俺が決めるの?


「じぇ、ジェイク───お前が決めろよ」

「ふざけろ。これはリズとお前の交渉だ。俺は何も関与してない」


 く……。


 誰のためにやってると思ってるんだよ!!


「えっと、エミリィ───そ、相場ってわかる?」

「わ、わかんないけど……お兄ちゃんは───たしか、」


 あ、そうだ金貨10枚だっけ?


「じゃ、じゃあ金貨10───」

「物資の半分よ」


 …………お前が決めるんかい?!

 リスティさんや!

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