◆第3話◆「なんだかなぁ、エミリィ───マジで言ってんの?!」

 くっそ……。いい加減にしろよ!

 お前の強情に付き合わされるリズの身にもなれ!

 ギルドだって努力してるんだぞ?!

 お前たちのために、どれだけパーティを送り込んでいると思ってるんだ?!


 そして、何人死んだかわかってるのか?!


 あーもう!

 マジで腹がたってきた!


「(お兄ちゃん……あの、)」


 クイクイと袖を引っ張るエミリィに、ついついイライラして振り払ってしまう。


 今、エミリィの相手をしている場合じゃ───!


「(あとにしてよ、エミ───」

「(あうう……。聞いてッ! 一個だけジェイクさんも納得する方法があるかも)」


 ──────え?


 ジェイクに聞こえない様にコソコソと耳打ちするエミリィ。

 くすぐったい上に、薄着のエミリィは近づくと良い匂いがするし、なんか色々チラチラ見えて困る。


「はーん? なぁに乳繰り合ってんだかー」


 ちょっと過食が過ぎるくらいに、モッシャモッシャと食べ続けるリスティが、厭らしい目付きで茶化してくる。


「乳繰り合ってないっつーの! あと、リスティは食べすぎッ! 空っぽの胃でそんなに食べたら、胃痙攣をおこすよ!」

「知ってるわよ───だから、回復魔法かけながら食べてんのー」


 何という魔法の無駄使い……。

 痙攣を回復魔法で押さえつつ食べるとか───もう、どんだけ飢えてるんだよ!


 あ、で───なんだっけ?


「(えっと……その方法って?)」

「うん……これ───」


 エミリィが申し訳なさそうに差し出したものは、ビィトの名前が書きこまれた奴隷の契約書だ。


 そう……。


 ベンに騙されたビィトが、衝動的に結んでしまった奴隷売買を結ぶための書類だった。


「こ、これって……」

「うん───お兄ちゃんはいらないっていったけど───その……」


 バツの悪そうな顔のエミリィ。

 どうやらこっそり荷物に隠していたらしい。


 この契約ありきで、エミリィはビィトの奴隷という扱いなのだ。

 ベンからエミリィを買い、ベンに隷属することになった契約のそれ。


 ビィトにはエミリィを縛るつもりはなかったから、契約書そのものは放置していたのだけど……。

 何かしら思う所があったのか、エミリィは大事に残していたようだ。


 ビィトが放棄したといっても、魔法が解けたわけではない。

 器用貧乏とはいえ、さすがにビィトも奴隷魔法は学んでいなかっただけに「解除」と「契約」をそのままにしていたのだ。


 だけど、今なら何となく・・・・、その魔法も分かる。


 ───うん。なんとなくだよ?


 伊達に器用貧乏じゃないからね。

 一回近くで見た魔法は、多少なら真似できるってものです。


 爆破用の巻物を見て即座に理解したように、ビィトの器用貧乏の特性はこういう時にこそ、無駄に発揮されるらしい。


 で、

「───これがどうしたの? 今からでも、奴隷契約解除しようか?」


 うん、多分できる。


 ベンとビィトの名前は残っているが、二人の間に契約関係がなくなった以上、ベンに対する契約書は効力を持っていない。


 ただし、エミリィ分を買った分のお金は生きているので、ビィトが解除するか、エミリィが金貨10枚の代金をビィトに払わない限り一応はビィトの奴隷という状態だ。


 とはいえ、特に何も縛りはないけどね。


 ベンの様に奴隷魔法を使いこないしていない以上、ただの飾り以上のものはこの契約書にはなかった。


「(そ、そうじゃなくて……。あの、)」


 ───そう言ってエミリィが提案したのはとんでもない話だった。

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