◆第84話◆「なんてこった、形勢逆転?!」

 ───それがどうした!!


 ジェイクは憤怒の勢いで言い切ると、刀を地面に這わせて盛大に振り抜いた───。


 バシャァア!!


 途端に巻き起こる血煙!!

 そりゃそうだ。なんせ、周囲はオーガの血と腸で充満しているからな!

 

「ぐ!!」


 思わず顔を覆ったビィト。

 「風の盾ウインドシールド」を展開しているので、かかるはずもないのだが、あまりの勢いに反射的に覆ってしまう。


 ───しまった!


 そう思ったときには、ジェイクの姿は忽然と掻き消えていた。


「ど、どこだジェイク!!」


 一瞬のうちにかき消えた気配に、全身からブワリと冷や汗が吹き出す───!


 あの至高の剣士が、姿を隠してビィトを狙っているのだ!!


 ジェイクの性格からして、逃げる事だけは絶対にあり得ない。

 そして、ビィトを相手にこそこそ隠れるような真似もしない!!


 つまり、目を放したこの一瞬で、奴はビィトの死角に飛び込んだのだ。

 そして、次にくるのは、刹那のあとの一撃に違いない!


 それは、的確かつ確実にビィトを倒せる一撃───。



 ど、

 どこだ!!


 どこだぁぁあ!!


 どこ─────────……ピチャン。



 と、

 顔に降り注ぐ、血の雫──────……。



 う……。

「───上かぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!」


 天井から血が降り注ぎ、ビィトはすかさず反撃に移るッッ!!


 もう、手加減だとかしてられないし、そんな暇も猶予もないッッ!!


 だから、取りあえずの一撃を闇骨王の杖に纏わせて「魔力の刃マジックブレイド」を発動!

 もう何の魔力を注いだのかも分からぬほど、大急ぎで流し込んで形成すると、大振りで振りかぶる───。


 ジェイクの刀にリーチで負けるわけ・・・・・・・・・にはいかない・・・・・・とばかりに、馬鹿の様に魔力を注ぎ込み、ただただ長く長く、早く早く───!!!


 早ーーーーーく!!!

「───うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 真っ赤な炎と化した長大な「魔力の刃」が、地獄の鬼が振るう薙刀の様になって、地面を突き破り、

 壁を突き破り、

 窓を突き破り、

 梁を突き破り、

 屋根を突き破り、


 天井にいるはずの、ジェイクをぉぉぉおおおおお───────。



 ─────────……を?!



 じぇ、


「───ジェイクはどこだぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!!」


 杖を振り抜き、「魔力の刃」で部屋を半分に切り裂いたところで、ようやく気付く───!


 天井にあったのは、突き刺さったジェイクの刀のみ・・・……?!

 そこに巻き付けられたオーガの腸から、血が滴り落ちビィトに……──────!!


 お、囮?!


「───馬鹿め!! 阿呆ぅは、すぐに上を見上げるぅぅぅぅうううう!!!」


 ざばぁ!! と、オーガの屍から血と腸と共に躍り出たジェイクは、素手でビィトに襲い掛かってきた。

 

 もちろん、乾坤一擲の奇襲だ!!


 ビィトには躱す余裕もなく、ジェイクに掴みかかられ馬乗りになられる。


「ぐ、───このぉ!!」

「おらぁぁぁあああ!!!」


 抵抗するビィトに突き刺さる拳、ゴキン!───と、頬にイイ一撃を貰い、目がチカチカとする。

 

「うがッ!! じぇ、」

「だまれぇぇぇええ!!」


 おら、おら、おら、おらおらおらおらおらおろおらッッ!!!!


 ゴッガッゴッガッ!!!


 ゴンガンゴンガンゴンゴンゴン!!


 ゴガガガガガガガガガガガガガガッッ!!


「おらぁあああああああああああああ!!」


 連続して降り注ぐ、ジェイクの拳、それがビィトに容赦なく叩きこまれ、口が割れ、歯が折れ、鼻が曲がる。

 眼底も陥没し、視界が濁る。

 段々と顔が腫れていくも、それでもジェイクはやめない!!


 もう、ここで決着を決める気なのだ!!


 人は拳でも死ぬ。

 拳でも、殺せる。

 ───拳で死ね!


「おおおおおおおおおおおおらぁぁぁあああああああああああ!!」


 ズドンッッッ!!


 と、いい一撃を腹に貰い、「げふぅ」と血反吐をふき出すビィト。


 一瞬、視界がブラックアウトしかけるも、ジェイクの連撃が、逆に意識を繋ぎとめる。


 やめてくれ、降参だ! そう言おうとしても、もう口は動かない──────。


 手も足も痺れて───……。


 できるのは床に倒れた手から、魔力を練り上げるくらいだけど……。


(も、もう───ダメ、だ)


「うぎゃああああああああああああ!!」

 と、狂ったように喚いているジェイク。


 それは勝ちに奢るものの姿ではない。


 あれは……。


 あれは発狂だイカれてやがる!!


「じぇ……」


 殴られ、散々な目にあっているというのに、今のジェイクが酷く哀れに見えた。


 まるで泣き叫ぶ子供の用で──────。


 そうか……。


 そうか…………。


 そうだ──────。


 これはタダのガキの喧嘩の延長だ!!

 ジェイクは、まともに判断できていないんだ!!


 空腹。疲労。強化薬──────そして、プライド。


 あぁ、くそ───!!


 どれも、どれも分かっていたじゃないか!!

 俺はジェイクを嫌というほど知っているじゃないか!!


 コイツがどんだけ傲慢で、意地っ張りで、勇敢で、スケベで、孤独だと言う事を!!


 誰も、

 誰も、

 誰も!!!


 誰も、こいつの隣に立てない!!


 だから!!!


 コイツには上か下、あるいは敵か味方かの二択しかないんだ──────!!


 だから!!!!


 だから、

 だから、俺を嫌う──────!!


 最初で最後の、幼馴染で男友達だった俺を!!

 ガキの頃から一緒で、家が没落してからも、ずっと───ずっといっしょだった。


 俺は……。


 俺は…………。


 俺は………………。


「俺、お前が大っ嫌いだ!!」





 ジェェェェェェェエエエエエエイク!!!

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