◆第83話◆「なんてこった、激戦だ!?」

 わかるか?


 コイツは───。

 これで、飯も食わず水もほとんど口にしていないであろう、困窮状態なんだぜ?

 確かに、強化薬ブースターを使って身体能力や精神を高揚させているのかもしれないが、体と言うのは正直だ。


 ───動かないときは動かない!!


 骨折している足で、強化薬を使えば走れるか?

 答えは否──────!!

 できないものは、できない。


 だが、ジェイクはできる・・・・・・・・

 瀕死の状態でも他者を圧倒できる最強の男……。


「───どうした? 時間切れを待つつもりか?」


 は?

 時間切れ?


 バカな……!

 強化薬のことを言っているのか?!


 それが切れるまでに、俺の身体強化のほうが、絶対先に切れるっつの!!


 そして、ジェイクが悠長に重ね掛けをする暇をくれるはずがない。


 心臓、肺───あるいは脚などの身体強化が解けた瞬間、ビィトは負ける。

 確実に!!

 そのビジョンならば、より明確に見えて、余計に焦りが募る。


 というか、どうやればこの男にビィトの拳が届く───?

 魔法だけで勝てるわけが───。


「来ないなら───……」


 う、やばい!!


「こっちから行くぞッ!!」


 くそ!!



 ギャン──────!! と、まるで瞬間移動したかと錯覚するほどの、鋭い踏み込み───!!


 これだ!! これが厄介なんだ!!


 いくら距離をとっても、あっという間に遠距離の利点を覆す強力な踏み込み!!


 魔術師は遠距離で戦わねば、十全には戦えない!

 そして、これが故に小爆破などの範囲攻撃が使えないのだ!!


 本当に出鱈目な男だよ、

「ジェぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえイク!!」


 やむを得ない!!

 高圧縮水矢を使う───!!


 あとで、リスティに治療してもらうから、足に穴が開いても恨むなよ!!


 ビィトの手に水魔法が集約していく──。


 たが、

「……そんなものが、」

 効くか──────!!!!


 憤怒の表情でジェイクが踏み込んだと同時にビィトの高圧縮水矢が炸裂───ジェイクを指向する!!


 ───が!!!


 ギラリと光る白刃!

 ジェイクが峰から刃の部分に素早く刀身をスイッチさせると、あろうことか水矢に真っ直ぐ刃を当てて切り裂きやがった!


「ぬりぃぜ、ビィーーーーーート!!」


 うっそ、だろ!?


 右に左に水矢を振っても、全てに追従し切り裂くのはジェイク。

 この男……。強すぎる!!


「そんなものが……。そんなものが、お前の魔法かぁぁっぁぁああ!!」 


 ぐ!!!


「だったら───」

 これならどうだぁぁあ!!


 攻撃魔法でもなく、ましてや支援魔法でもない──────。

 ただの生活魔法───光球!!!


 着弾点を明るくするだけの魔法だが、こいつには利点があるんだ!!


 パシュ!!


「ぬ?!」


 至近距離で発射した光球。ジェイクならコイツをどうする?


 そりゃあ───切り払うよな!!


 スパ───────────斬れない?!


「なんだと!!」

「着弾点を明るくする魔法だ!! 知ってるだろうが!」


 チカチカと眩い光を放つ光球は、うまい具合にジェイクの刀に命中し、その着弾点でチカチカと光っている。


 つまり、


「くそ!! うっとうしいぃぃぃいい!!」


 ブンブンと刀を振るジェイク。

 だが、それで取れるものではない!!


 ビィトが魔法を打ち消すか、効果時間が切れるまではそのままなんだよ!!


「貰った!!」


 今度こそ当てる!!


 石礫を生成したビィトはこぶし大にして、大怪我必須と理解しつつもジェイクに向け発射する──────。


「───貰ってるわけないだろうが!!」


 え?

 光球が──────ない!!!


 ッッ!!


「さ、鞘に納めたのか?!」

「あたりまえだ!!」


 光球の光がよほど鬱陶しかったのか、ジェイクは刀を鞘に納めてしまった。

 するとどうだ。当然のことながら光は閉ざされ、視界が開ける!


 そして、

「おらぁぁぁぁぁぁあああ!!」


 パッキーーーーーーーーーーーーーン!!


 と、いい音がして石礫が撃ち返される。


 くそ!!


「だったら、腕が折れるまで撃ち返してみろぉォぉォお!!」


 そうとも、鞘付きの剣は重いだろう!!

 何発凌げるか試してやる!!



 くーーーーーーーーーーらーーーーーーーーーえーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!




 だりゃあああああああああ!!


 杖と手に石礫を生成し、豪雨の如く発射しまくる。



 ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!



 石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石石!!!!



 なーーーーーーーーーーめーーーーーーーーるーーーーーーーーーーーーーーなぁぁあぁぁあ!!



 パキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキィン!!


 高速連射に対して、高速迎撃!!


 なんという出鱈目!!

 なんという剣技!!


 なんという男!!



「出鱈目な野郎が!」

「出鱈目な奴!!!」



 そのまま、撃ちまくり、打ち返しまくりで二人は絡み合うようにして回廊を駆け抜けていく!

 

 尖塔から再びの牙城へ!

 そして、喧しい戦闘音と餌の気配に徐々に集まり始めていたオーガの気配を色濃く感じる場所まで二人は向かう。


 だが、今更オーガなんざどうでもいい!!



 ジェイクジェイクジェイクだ!!

 いいや、

 ビィトビィトビィトビィトだ!!



 コイツ以上にコイツ以上に厄介な奴はいない厄介な奴はいない!!



 ダァン!! と、どちらからともなく跳躍し、回廊の屋根から牙城内へ続く窓へと飛び込んだ。


 そして、そこにいたオーガの群れに二人して突っ込む!!

 突如乱入した人間にオーガどもが驚いているが、そんなことは知るかぁぁぁぁぁぁあああ!!


 ジェイクを狙ってぶっ放す魔法がガッツンガッツンとオーガに当たる。

 弾き返された石礫は、より高威力になってオーガの頭部を粉砕する。


 ジェイクは手数が足りず、やむを得ず刀を鞘から抜くと、鞘をそのままに、二手に得物を構えてオーガの群れに乱入する。


 未だチカチカと光る鬱陶しい光球に、オーガの臓物をぶかっけて目隠しとし、ビィトから発射される石をすべて叩き落とす!!


「ビィーーーーーーーーーーーーーーーーートーーーーーーーーーーーーーーー!!」


「ジェーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーイク!!」


 石と石と剣と鞘が!!

 鞘と剣と石と石が!!


 凄まじい速度と手数で飛び交い周囲をぶっ飛ばしていく!


 巻き込まれるオーガがドカンドカンと炸裂し、切り裂かれ、盾とされる。


 ───もう二人ともオーガなんざただの障害物程度にしか見ていない!!


「いい加減くたばれ!!」

「こっちのセリフだ!!」


 変化を加えるために熱湯にした水矢をぶっ放す!!

 そいつを二発もだ!!


「鞘で切れるかぁあ!」

「当たってやる義理などないわぁぁぁあ!」


 遂に動きに変化を加え始めたジェイク。

 今までは全て叩き切ってきたというのに、オーガの肩に着地するとその背を蹴り飛ばし水矢向かって蹴り飛ばす。


 顔面に熱湯を受けることになったオーガが叫びまくり、転げまわる中で、ビィトは様々な魔法をジェイクに指向する!!


 そうとも!

 切ってばかりはいられないだろう!!


 光球は切ると厄介。

 水矢は鞘では切れない。


 石礫と火球は切れて弾き返せても、直撃すればただでは済まない!!


 牙城の一室に飛び込んだわけだが、ビィトもジェイクもオーガを只の障害物か盾として見ていないものだから、あっという間に全滅───つまり、




「もう盾はないぞ、ジェイク!!」

「それがどうしたッ!!」

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