◆第81話◆「なんてこった、なんで戦うの?!」

 人は、

「───人は本来もっと自由なものだろうがッッ!!」

「───それを望まない人間もいるということだぁぁぁぁああ!!」



 ビィィーーーーーーーーーーーーート!!



 ダァァァン! と踏み込むジェイク。


 地面をギャリギャリと擦り、火花を散らしながら白刃が迫る。


 銘刀ではあるが、峰打ちのため即死するようなことはないだろう。

 だが、オーガを一刀のもとに屠るジェイクの一撃だ。


 まともに食らえば、ビィトもただでは済まない───。


 だけどな……。


「そんな、見え見えの手を食うかぁぁぁあ!!」


 ジェイク程の使い手・・・・・・・・・が、刀を地面でこするなんてありえない。


 そして、そんな戦い方をするときのジェイクのやり方は知っている。


 知っているともさ!


 なんたって──────俺たちは元々、

「同じパーティだぞ!!───舐めるなぁぁぁあ!!」


 思った通りに───ジェイクの蹴りが、先行・・して炸裂した。


 ほらみろ!

 やっぱりそうだ!!


 刀を擦り、視線を引きつけておいて、いざ注視させたとみるや、本命は───蹴りッ!


 バレバレだ、ジェイク!


「なにぃ?!」


 だから、そこにブチかます───!

 威力を弱めた石礫を!!!


 しかし、ちょっと大きめの石礫だ。


 これは躱せないだろ───!!

 足の怪我くらい許容してもらうぞジェイク……──────って?!


 こ、こいつ!!


「はっ。馬鹿め───お前の研究癖くらい、俺が知らないと思っていたのか!!」


 な、なんだと?!

 裏の裏をかかれた──────?


 蹴りでも、刀でもないッ!


 本命は、頭突きだとぉぉぉお────!?


「ぐはっ!!」


 ジェイクの頭突きが直撃したビィト。

 そのためか、少し大げさなくらい背後にバウンドして、壁にぶち当たって止まる。


 いや、……それほどに強烈だったのだ。


「ははッ───おまえごときが、俺にかなうわけ…………───あん?!」


 ジェイクが気付いて、上を見上げる。


 ……そこには、


「はは───……忘れたのかジェイク。俺は魔法を両手から繰り出せるんだぜ」


 そうとも、ビィトも裏の裏の裏をかいた。


 さすがに、頭突きは予想外だったが、ジェイクを石礫くらいで倒せるとも思っていない。

 だから、大きめの石礫を出して視界を一瞬でも隠すと、空いたもう片方の手で熱めの水矢を打ち上げて、時間差でジェイクに投擲していたのだ。


「この!!────ぐあっ、っちゃーーーー!! あちぃぃい!!」


 見事にヘッドショットの決まった、熱めの水矢。


「へっ。たまには髪くらい洗えよ」


 お前らの大好きな、ビィトシャワーだぜ!

 ちょっと熱めのな……。


「───っっ、ぐおおおお!! ビィぃぃぃぃぃぃぃいいいトぉぉぉぉぉおおおお!!」


 あ、やべ。

 完全に切れたな、あれは。


「この、腐れカスゴミボケナス野郎がぁぁぁあ───」


 ジェイクが懐から、サッと取り出したのは、


「───ちょ、強化薬ブースターだって?!」


 あのバカ野郎!!


 本気か?!

 正気か?!

 ───やる気か?!


「ぐぅぅぉおおおおおお!!!!───ビィィぃぃぃーーーーーートーーーーーー!!」


 ギャン!!!───と、いきなり速度の上がったジェイク。


 それは、さっきまでの不調状態ではない。


 いつもの───……いや、いつも以上に動きの切れが良くなった状態でビィトに斬りかかる!


 まだ峰打ちの構えであるだけに、辛うじて理性は残っているらしいが……!!


「イカレてんのか、ジェぇぇぇぇぇぇぇぇええイク!!!」


 万全の状態でないジェイクなら、止められるかと思ったが、そう簡単にはいかないらしい。


 もし、普段のジェイクであるならビィトには絶対に勝ち目はないだろう。

 それがいわんや、強化されたジェイクならビィトには万に一つも勝ち目はない───。


 だけど、

 ……地面で苦し気にうめくリズ。


 そして、それ以上に!!

 何かを耐える様に、嗚咽を漏らす彼女を見て、ビィトも絶対に引けないと決心をした。


 なによりも、

 これよりも、

 あれよりも──────。


 ジェイクにめちゃくちゃ腹がたっていた!


 だから、

「──……一回ぶん殴るッッ!! こぉぉおの、大馬鹿やろうが!!!」


 ビィトも、さっさと起き上がり迎撃の構えッ!!


 そして、

「速けりゃ勝てると思うんじゃねぇぇえ!!」


 こっちも上掛けじゃあああ!!


 闇骨王の杖に魔力を通し、目いっぱい強化した身体強化の魔法!!


 それを、体中にかけまくる。

 いつもの部位強化を満遍なくだ!!


 腕、足、そして、肺も心臓も、目も耳もぉぉぉぉおお!!



 ズッダッァァァァン!!



 掛けに掛けまくった身体強化の魔法のお陰で、ビィトの身体能力が加速度的に上昇する。


「ビーーーーーーートーーーーーーー!!」

「ジェーーーーーーーーーーーーイク!!」


 二人とも、滅茶苦茶に動きまくり、部屋を飛び出し、回廊の屋根の上に移ってお互い技を繰り出しまくる。


 ジェイクは剣技を!

 ビィトは高速連射の下級魔法を!!


 ブンブン!! ドカンドカン!! と、お互い殺さないような、それでいてかつギリギリ半殺しにできる一撃を放つ放つ!!


 ───放つ!!


 滅茶苦茶に、出鱈目に、馬鹿馬鹿しいほど高速で動き回る───。


 それを見ていたのはリスティ。


 勝手にエミリィの背嚢からビスケットやらパンを奪い取り、もっしゃもっしゃと頬張りつつ言う。






「アホだわ、こいつら──────」






 うん。

 ダンジョン奥地で意味のない喧嘩とか──────アホです。はい。


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