第73話「なんてこった、ここで食い止める!(後編)」

 エミリィの渾身のファインプレー!

 当然見てた!

 見てたともさ!


 ───エミリィ、よくやった!!


 だったら、お次はビィトの番だッッ!!


 投擲が思わぬ形で防がれたため、オーガの前衛が浮足立っている。

 ビィトが魔法で迎撃し、無防備になると予想していたのだろう。

 そのタイミングを虎視眈々と狙っていたはずだ。

 だが、ところがどうだ!───ビィトは攻撃姿勢を維持したままオーガの元に突っ込もうとしている。

 今さらスナイパーは迎撃できないだろう。


 一気に畳み掛けると言わんばかりに、ビィトは脚力を生かして跳躍ッ。


 前衛のオーガを狙う──────いや!


 ビィトは前衛なんて狙わない。

 そんな時間がないことを知っている。


 まずは前衛から───なんて、愚をおかすものか!

 わかってる。

 わかってるさ!


 オーガスナイパー!

 お前が易々とチャンスを逃すはずがない。


 前衛は盾。……そうだろ?


 ───賢いお前のことだ。

 前衛を犠牲にしてでも、一撃をぶちかまそうってしていることくらい───。


「───見えてるんだよぉぉおお!」


 やはりだ。

 やはり、オーガスナイパーはすでに次弾を握りしめていた。


 前衛のオーガがやられているうちにビィトを叩き落とさんと狙っていたのだろう。


 だが、そうは問屋が卸さない!!!


「───そこぉ!!」


 奴の投擲が早いか、ビィトの突撃がはやいか刹那の差でしかない!


 だから、一撃だ。


 最初の一撃で仕留めるべく、魔力を出し惜しみせず闇骨王の杖に「氷塊」を練り上げていく。


 ピキキキキキキキ……!!


 集まる冷気で、周囲の空気が冷えわたる───!

 そして、杖の先端に顕現した氷塊は硬い氷になるかと思いきや、一定の圧縮量を越えるとまるで液体のようになる。


 まるで氷の涙───。

 そいつの威力は折り紙付きで───……。


「おらぁぁぁぁぁあああ!!」

「ぐるぁぁぁあああああ!!」


 ビィトは勢いのまま滑空し、オーガの前衛に隠れているスナイパーを肩越しに視認する。


 その面ぁぁあ─────見えたッッ!!


 その瞬間、 

 両者……、

 真っ向から──────……。



 発射ッ!!



 ピキキキキキキキキ…………───!!



 超低温の「氷塊」が空気を凍らせながら白い軌跡を描いてオーガスナイパーに向かうッ!


「がッッ!」

 奴は思ったより小型の亜種だった。


 体表は同じだが普通のオーガよりも小柄でスラッとしたシャープな体付き───……いや、もうどうでもいい情報だ。


 驚いたような顔つきで、跳躍したビィトを唖然と見上げるオーガスナイパー。

 投擲はほんの一瞬遅れていたようだ!

 前列の肉壁に護られており、安心していたのだろう。


 それが命取りだ!!!


 悠々と、前列がやられている隙に追撃の狙撃をしようと画策して───……だが、もう遅い!



 パキャーーーーン!!



 「氷塊」が心臓付近に狙い違わず着弾し、あっという間に上半身を白い彫刻へと変化させた。


「ぐがぁぁあ……ぁ……ぁ───」


 断末魔とともに、奴が握りしめていたオーガの遺骸がゴロリと手から滑り落ち───凍り付いたオーガスナイパーの胸に落ち……。



 ガッシャーーーーーーーン……!



 胸が氷像のように凍りついたオーガスナイパーは、脆くもあっけなく砕け散った。


「いよぉおおおおおっっっし!!」


 そのまま跳躍の勢いで、オーガの前衛の鼻っ柱を強化した脚力で蹴り飛ばす───!


「おらぁぁッッ!」


 ガヅ!!


 進行方向を無理やり上方へ変えると、天井の梁をつかんで片手でブラブラと───。


「うぉっ!? す、すげー数……!」


 視界が高くなったことで奥まで見渡せる。

 その目の前に広がる回廊の奥はといえば、見渡す限りオーガがズラリ!!


 先陣を切った10体の他、後衛に現れた50体!


 そして、そこに続く群れ群れ群れ!!


「───ははは! 牙城中のオーガが集まって来たんじゃないのか?!」


「「「「ぐるるるるるるるるるる」」」」


 余りの数に冷や汗がタラーリ……。

 どうやら、オーガスナイパー一体に時間をかけ過ぎたらしい。


 だけど、


「こんな狭い回廊によくもまぁ~……」


 梁に掴まりブラブラと揺れるビィトを捕らえようと、スナイパーを失った先陣の前列が掴みかかってくるも、


 ピキキキキ……!!

 ズダダダダダダダッッ!


 至近距離で「氷塊」を発射ッ!

 外す距離でもなく、闇骨王の杖を使った高速練成で連続射撃。


 当然、鎧袖一触だ!


「オーガスナイパーは一体だけか……! ならば───」


 ───全部、雑魚だッ!!


 当初の目標のごとく、この回廊で殲滅するのみ!


 ジェイク達の元へは行かせない。


「まとめてかかってこぉい!!」


 遠距離攻撃がないなら、恐れるものなどない。

 あとは魔法が尽きるまで、撃って撃って撃ちまくる!


 ん?

 ……魔法が尽きる?




「……………尽きるわけねぇぇだろぉ!! 俺の『氷塊』はただの下級魔法だぁぁぁああ!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る