第73話「なんてこった、ここで食い止める!(中編)」

 エミリィは探知スキルでオーガスナイパーを探っているようだが、見つけたとしても狙撃は厳しいだろうな。


 スリングショットの射程はそれほど長くはない。


 それは、弓とて同じ。


 仮に届いたとしても、威力は著しく減衰しているだろう。

 どちらも対人兵器なのだから、オーガのような大型のモンスターを倒すには少々威力不足──────。


「ッ!」


 ドッパァァァァァァアアン!!


「だめ! 届きそうにないよッ」

 エミリィの悲痛な叫びを嘲笑うかのように、次々に降り注ぐオーガの遺骸砲弾。


 速度はそれほどでもないので躱すのは容易だが、着弾の度に床が崩れていく。


 このままでは、回廊自体がそれほど持ちそうにない。


 餌としてビィト達を食らいたいはずなのに、このままでは湖に落ちたるぞ?

 むしろ、落とそうとしているのか?

 って、バカなのか?

(まあ、頭はよくなさそうだけど……)


 しかし、そのままじゃあ───。

「……接近して仕留めるしかないのか──」


 だが、ビィトだけでは対処が難しいのは火を見るより明らか。

 砲撃と白兵戦の両方で攻撃された場合、ビィトとエミリィだけでは捌ききれないのだ。


 砲撃に集中すれば、スナイパーの一撃くらいはビィトでも迎撃できるだろうが、その分の魔法攻撃のリソースは全て砲撃に指向せざるを得ない。


 そうすれば白兵距離から襲い来るオーガに対処不可能。


 エミリィならオーガの1、2体なら仕留めることができるかもしれないが、それ以上は無理だ。


 今回は物量が並大抵ではない!

 すでに迎撃リソースを全て防御と露払いに指向してなんとか凌いでいる有り様。


 何かの拍子でリズムが狂えば一気に押しきられるだろう。


 飽和攻撃の、げに恐ろしきこと!

 オーガの先陣が10体とはいえ、後衛に50。その後方にはさらに大集団がいる。


 だから、攻撃するにしても、オーガスナイパーをなんとかしないと反撃もおぼつかないというわけ。


(くそ。じり貧だぞ……!)


 なんとか初撃さえ凌げば、オーガスナイパーを仕留めることができるのだけど……!

 質量の大きい砲弾は、ビィトの脆弱な防御魔法では押しつぶされる。

 だから、躱すか魔法攻撃で打ち落とすしかないのだ。

 

「くそ……! 立地が悪すぎるッ───せめて、一発でも凌げれば!」


 懐に飛び込んで投手を倒せる!

 だけど、手数が足りない!


 どつすれば!!!


「い、一発でいいんだね?」


 ?

 エミリィ?


「───ま、任せてッ! 一発だけなら何とかしてみる!」


 な、何とかって。無理だよ!

 エミリィの火力は強力だが、重さに欠ける。

 単純に質量を武器にした砲弾には相性が悪すぎる───。


「無理───」

「大丈夫───任せて!!」


 意志の強い瞳につられて、思わずビィトは頷いてしまう。


「わ……かった! 任せる!」

「うん! タイミングはお兄ちゃんが決めて!」


 り、了解ッ!


 こうなったらやるしかない!

 ───俺もエミリィを信じるよ。


「まだだ……。まだだよ!」


 ググググと足に力を籠める。

 視線の先には隊列を組み砲弾の準備をしているオーガがいるが、オーガスナイパーは前列の奴ではない。


 先頭集団はただのノーマルオーガで、そいつらは白兵戦の構え。

 ……だが、迂闊には動かない───。


 自分たちの役目を分かっているのだ。

 奴らは最前列を盾に、その体の背後にスナイパーを隠し、遠距離からジワジワとビィト達をなぶり殺しにするつもりなのだろう。


(やっぱり、頭の回る個体が居やがるな……?!)


 砲撃をビィトが迎撃すれば大きな隙ができる。

 そして、その隙を逃さず───最前列がすかさず・・・・攻撃するつもりなのだろう。


 逆に最前列をビィトの魔法で攻撃しても同じこと。

 やられた個体を盾にし、そのまま遠距離攻撃を続けるだけでビィト達を圧殺できるというわけ。 

 悠長に最前列を仕留めている隙にビィトの頭上には砲弾が来るって寸法だ───!


 だけど、それはつまるところ……!


 その一撃・・・・さえ、なんとかできれば、攻撃も防御もビィトにはできるということ。


 だから、

「──────今!!!!」


 ブンッ───!!


 オーガの隊列後方から巨弾が発射される。

 その着弾はビィトを狙っているのは間違いない。


 唸りを上げて飛んでくる砲弾に、ビィトは真っ向から突っ込む───!……エミリィを信じてッ!!!


「エミリィ!」

「───ッ、くぁぁあ!!」


 タンッ、タン、タンッ!! と、軽快に壁を駆けるエミリィ。

 一瞬のうちにビィトを追い抜くと───。


「てぇぇぇええい!!」


 壁を蹴って、進行方向のベクトルを強引に変えると、砲弾と同じ方向に飛んだ。

 そして速度を合わせると、高速回転する頭部に縋りつくようにして密着し───。


「かーらーのーーーー!……あっちいけー」


 ふんッ!!


 エミリィの気合一閃。

 とは言え小さな体にはそれほど力は出せない───出せないまでも、少々の捻り・・を加えることはできる。

 オーガの気色悪い生首にも恐れることなく体全体を使って取りつき、捻りを加えて投擲のベクトルを変えたのだ。


 ビィトの直撃軌道にあったオーガの遺骸砲弾が明後日の方向に飛んでいき、壁にぶち当たって血反吐を撒き散らす───。


 つまり、防弾が外れたのだ!!


 す、

「凄いじゃないか、エミリィ!!」


 エミリィがオーガの砲弾と一体になったように見えた瞬間、彼女がオーガの遺骸砲弾から離れてクルクルと回りながら天井に着地する。


「ふぅ、……ふぅ、ふぅ!!」


 荒い息をつきながら、天井から梁にぶら下がるエミリィ。

 彼女の顔は冷や汗でビッショリだ。一歩間違えば、彼女に砲弾が直撃し四散していただろう。




「───で、できたよ」

「見てた!」

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