第73話「なんてこった、ここで食い止める!(前編)」


 ──来るよ!!


 エミリィの声が回廊に響く。


 目の前には、オーガの死体がいくつか。

 今仕留めたばかりの連中だ。


 ジェイク達を目標にしていたのはこの小集団だが、コイツ等と書斎にいたオーガどもの咆哮を聞いて、いくつかのオーガのグループが集まり始めていた。


 こういった、社会性のあるモンスターってのは厄介だ。


 ゴーレムやスケルトンみたいに、無機質に目の前の敵を淡々と攻撃してくるだけなら終わりも見えてくるのだが……。

 ゴブリンやオーガと言った連中は、仲間を呼びやがる。


 下手をすりゃ群れ全体と戦う羽目になる。

 どこかで、バシンと殲滅しないと際限がないのだ。


 いくら高火力を誇るエミリィや、魔法の連射ができるビィトとはいえ、たったの二人では集団に圧殺されてしまう。


「だけど、退くわけにはいかないよな──」

「うん、わかってる!」


 回廊は一本道。


 振り返った先には、ビィト達が先ほど駆け抜けた通路が、真っ直ぐに伸びていた。


 そして背後には……。


 あぁ、多分あそこだ───。

 あの先にジェイク達がいる。


 姿を見ていないのに、ビィトには何故か確信がもてた。

 だってそうだろ……?


 みんな、Sランクになるまでずっと一緒に冒険してたんだ……───。

 離れてたって仲間なんだ───少なくとも俺はそう思ってる!



 薄暗い口を開けた尖塔への入り口を一瞥すると、闘志を静かに維持する。

 あそこにはジェイク達がいる可能性が高い───ならば、オーガどもを近づけるわけにはいかないッ!


「エミリィ、敵の数は?」

「……えっと、先頭集団が10……その後ろに50───。……後方には更に多数!」


 最低で60か?!

 く……思ったより多い!


「回廊は狭い───同時に奴らが並んでも2~3体しか並べない。だから順繰りに倒すよ」

「わかった───あ!」


 エミリィが探知にオーガを捉えたと思った瞬間!

 彼女が驚愕に目を見開く───!


 に、

「逃げてぇぇえ!!」 


 え?!



 ごッッッ──────!!



 エミリィの警告に従い首を竦めたビィト。

 その数ミリ先を、何かが高速でカッ飛んでいった───。


 ───な、なんだ?!



 ゴッパァァァァアアアアン!!



 すぐ近くに地面に着弾したそれは盛大に弾ける!

 その途端に、悪臭を撒き散らし始めた。


 な、ななな、

「───んなッ?!」


 床をえぐり、汚い血袋を叩きつけたようなそれは、

「───お、オーガの……頭ぁぁあ?!」

「じ、次弾───来るよ!」


 エミリィの悲鳴のような警告ッ!


 その正体は見るまでもない。オーガのお頭だ!

 もう、脳漿とか目玉とか、舌とか───無茶苦茶だ!

 そのうえ、凄まじい勢いなものだから……着弾点はグッチャグチャ!

 どす黒い血が叩きつけられた方角に向かって、ぶちまけられ、おまけに薄ーく引き延ばされている。


 そして、その着弾点目掛けてさらに───もう一射!!


「あ、アイツら───砲撃してきやがった?!」


 ビィトには兆候すら掴めなかったのに、エミリィはいち早く警告してくれた。

 あれがなければ、死んでいたかもしれない。そう思い、ゾッとしたビィト。


 ほんと、エミリィのおかげだ。

 彼女自身も投擲武器を使うから、気付けたのだろう。


 エミリィは、先頭集団が不自然に構えている気配を敏感に感じ取っていたらしい。

 ───っとぉ!!



 ごッ──────!!



 今度は回転する棒状のもの!!…………って、あれはオーガの腕ぇええ?!


「ふ、伏せてぇぇえ!」


 ビュンビュンビュン!!──────ゴッパァァァアアン!!


 一瞬ではあったが切断面が凍り付いているのが見えた。


 つまり、書斎あたりでビィトが仕留めたオーガの死体なのだろう。


「アイツら、なんてことを!」


 門番が武器を使っていたように、オーガには道具を使うだけの知性がある。

 しかし、悪鬼の牙城で出現するノーマルタイプのオーガは、基本は無手だ。


 それは武器が扱えないのではなく、そういった個体なのだろう。

 つまり、武器───または、それに準ずるものがあれば積極的に使おうとするくらいの頭は持っているのだ。


 実際に、仲間の死体を盾にするくらいは知能が回るのだから当然のこと。


 そして、回廊で無防備に突っ立っているビィト達を見たならば、数で圧殺するよりも投擲で仕留めようと考える個体がいてもおかしくはない。


 そいつがリーダーか?

 全体のリーダーとは思えないので、小隊長クラス───多少は頭の回る個体ってとこか。


 リーダータイプの奴で、そいつ自身、恐らくは投手───……。

 たしか、特殊個体レアモンスターのオーガスナイパーって奴だ!


 ビィト達が回廊の一直線を利用してオーガを足止めないし殲滅しようと考えるくらいには、オーガからもビィト達は一直線上にいると言う事。


 自分がやろうとしている事を敵が思いつかないなんて考えるなど……なんという傲慢だ。


 や、

「やられた!! 連中の弾───こりゃ、まだまだ尽きないぞ!」


 ぶっ潰したオーガの死体は10。

 そいつをバラバラにすれば、いったいどれほどの弾が作れるというのか───!


「お、お兄ちゃん! そこ───」


 え?


 うお…………!!


 回廊の床がボロボロ……かと思いきや───それどころか、底が抜けていた。

 そりゃそうだ。回廊部分は渡り廊下状になっており、その下は地底湖に繋がっている。


 というか地底湖直行───!


「まずい! 連中の砲撃を何度も喰らってちゃ床が抜けるぞ!?」

「わ?! え? で、でも─────どんどん来るよ!」


 渡り廊下の構造は梁のようにまっすぐ延びる一本の主線に支えられたビーム型。

 回廊自体はそこにぶら下がるラーメン構造らしく、いってみれば天井部の梁に回廊が乗っかる形。

 回廊の構造自体を梁だけで支えており、床自体は屋根と壁の枠に大型タイルを乗せているだけらしい。


 なんて不安定な!

 道理で床の構造が脆いッ!


「くそ、オーガの奴らなんもわかっちゃいない! エミリィ───そこからオーガの投手を狙撃できる?!」




「や、やってみる───」

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