第72話「なんてこった、ジェイク待っててくれ!」

 気づかれたって?!

 ハッ───!!!


「───いい! このまま、ジェイク達の所に向かう!」


 そうだ。

 ついでにジェイク達を襲おうとしている連中も、まとめてこっちで求引してやる。


 そうすりゃジェイク達も安心だ!


「エミリィ! こうなったら派手に行くよ!」

「ええ?!」


 幸い、尖塔部分までの回廊は一本道。

 湖の上を渡り廊下のような屋根付きの橋があるような構造だ!

 上は愚か、左右も狭い壁と天井に覆われた足止めにもってこいの立地。


 先行しているオーガを仕留めれば、あとは後ろから来る連中だけを相手にすればいい。


 そのため、一刻も早くジェイク達の方へ向かう!

 そして、先行したオーガを背後から強襲してやる!!

 まさか、獲物が後ろから来るとは思うまい。いつも襲ってばかりの連中だ。

 ───たまには襲われてみろッ!


「エミリィ! ジェイク達の方へ向かったオーガを追って!───ここで一気に仕留めるッ!」

「う、うん!」


 エミリィはまだ、正面切って戦うことに抵抗があるのだろう。

 だが、エミリィはビィトを信頼している。

 だから真っ向から反対はしない──!


(いくよ!)

 身体強化───!


 地味だけど、よく使うビィトの魔法。

 局所の身体強化!

 だけど、魔力練り練り、熟年度最大───そいつで、エミリィとビィトの脚と肺活量を強化し高速戦闘に備えるッ!


「エミリィ! 遠慮はいらない。容赦もいらないッ! 障害は全て排除するよ」

「わかった!」


 身体強化の淡い光が体の局部に宿って行き、戦闘準備オーケィ。


 いざ行かん!!



 さぁ、

 ──────吶喊ッッ!!





「うぉぉおおおおおおおおおお!!!」

「さぁぁああああああああああ!!!」


 二人二様の気合と共に回廊に飛び出す。

 強化された脚力を遺憾なく発揮し、特にエミリィが物凄い速度で走って行く。


 速いなんてもんじゃない!

 元々素早い彼女が、ビィトの身体強化を受けて本気で走るのだ───。



 は、はやッ!!



 あっという間に開いていく距離。

 だけど、これまでに重ねた戦闘経験によってエミリィも分かっている。


 ちゃんとビィトができる援護距離を計算にいれているのだろう。

 決して突っ込み過ぎることなく、それでいて遅れることなく───。


 そして、あっという間に回廊を駆け抜け、最初に雄たけびを上げていたオーガの集団に追いつく。


「エミリィ、敵集団捕捉ッ───」

「いけるよッ!」


 連中はビィト達ではなく、尖塔方向にいるはずのジェイク達を目標としていた。

 

 そのため、背後から猛追してきたビィト達に気付くのが一瞬遅れる。


 それが命取りだぁぁあ!!

 いけ! エミリィ───。


「たぁああ!!」


 走りながらのスリングショット!

 それは、彼女の身体能力ありきの、恐ろしいまでの技術。

 ボウガンのボルト弾を引き絞ったエミリィは、初撃から双子撃ちタンデムショットを───。


 ブッ放すッッ!

 ───スパァァァアアン!!!


「ぐるぉ?!」「ぎゅぼぉ!?」


 背後から射抜かれたオーガが一撃で脳天を貫かれる。

 なぜか悲鳴は二つ。それもそのはず───貫通力を遺憾なく発揮してさらに前方にいた個体をも射抜いていた。


 ずしゃぁぁぁあ!! と、巨体がつんのめって倒れて先頭集団を巻き込んでいく。


「ぐるぁぁああ?!」

「ごぁおああああ?!」

「ぐるぉぉおおお?!」


 一塊となった集団が背後からの転倒でしっちゃかめっちゃになって倒れる。


 ドッシャァァァァアンン!!


 まるで馬車の事故のような凄まじい衝突音───!

 そこにエミリィが畳みかけたッ。


 彼女は本当に容赦しないらしい────。


「たりゃぁぁぁあ!!!」


 倒れた個体には見向きもしないで、その頭を踏んずける様にして、スタン! スタンッ! と軽快に飛び回ると───!!


「くーらーえーーー!!」


 唯一転倒に巻き込まれなかった一体を目標にして飛び掛かる。

 まだ何が起こったのか理解できていないソイツは、ようやく背後で起こった転倒音に気付いて振り向こうとしていたその時だ。


「ごひゅ───」


 闇骨ナイフを手にしたエミリィが、ズグリ───と延髄にそいつを突き立てていた。

 突進速度とナイフの貫通力が相まって深々と沈んでいく。


 エミリィには見えていないだろうが、オーガの目玉がグリンと白目をむいて……ズゥゥゥンン───!!


 倒れ臥す。


「ハッ……ハッ……ハァ……!」


 ブシュ……!

 荒い息をつき、ナイフを引き抜くエミリィ。


 オーガを3体しとめ、残りのグループを転倒に巻き込み一時的に無力化してみせた。


 一瞬でこれだ───!!


「エミリィ!!──────」


 そこにビィトが追い付く。

 オーガの群れは何が起こったのか分からないまま、仲間同士で絡まってしまっている。


 しかも、突進速度のままスッ転んだものだから───負傷している個体もいて、すぐには立ち直れないらしい。


 なんとか、数体かようやく起き上がり始めたものの───……。


「───よくやったよ!」


 闇骨王の杖をブンブン振り回したビィトが追い付く。

 「魔力刃マジックブレード」を展開し、「氷塊」の魔力を纏わせたそれ!


「グル───……」


 ドスッ!!───ピキキキ……。


 半身を起こしたオーガの脳天に振り下ろすとたちどころに凍り付き即死。

 悲鳴も上がらない。


 あとはもう、屠殺だ。


 ロクに動けないオーガに、微塵も容赦なくビィトが魔力刃を振り落としていと、次々に頭部を凍らせた個体が山を成す。


 動けないオーガなんて、デカイまとでしかない。


「───ふぅ……ふぅ……!」

「だ、大丈夫?」


 鬼気迫る様子で仕留めていたのだろう。

 引き攣った顔でエミリィが汗を拭ってくれた。


「あ、あぁ、大丈夫───エミリィのお陰だよ」


 実際エミリィの動きは神掛かっている。


 前衛には向かない「盗賊シーフ」とはいえ、彼女は遊撃職として覚醒し始めているようにも見えた。


 もっとも、前衛に向かないというのはビィトとて同じなのだが───。



 ポィン♪



 仕留めたオーガからドロップ品が沸きだす。

 しかし、ビィトはそれには目をくれず───。


「さぁ、ここからが本番だ」

「うん……そうだね。───来るよ!!」

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