第71話「なんてこった、気づかれたー!」

 ここより離れた位置でオーガの咆哮。

 まるで餌を見つけた猛獣だ───。いや、違うそのまんまの意味だ!


「(まずい!……今のはジェイク達に勘付いたオーガなんじゃ!?)」

「(う、うん!! 真っ直ぐ尖塔のほうに向か──……)」


 そこまで言ったとき、エミリィがタラリと冷や汗を流す。

 そうとも……。


 オーガは仲間を呼ぶ。

 それを呼び水のように連鎖して────。



 ゴルルルルルルルルルルルル…………。



 ビィトにも聞こえるほどのオーガの咆哮だ。

 そりゃあ……室内にいる連中にも聞こえるはず。


 そして、遠くの方向ではなく、今まさに聞こえているのは──────。


「あ……あ……」


 エミリィが振り返ったまま固まっている。

 ビィトは振り返るまでもないと思っている。


「エミリィ───」

「お兄ちゃん──」



 逃げよ!!!



 グルァァァアアアアアアアア!!!!!!



 超至近距離でぶつけられる咆哮ッ!

 ジェイク達側で起こった異変に近傍のオーガが気付き突撃開始───そして、その声を聞きつけた連中がさらに叫び声をあげて……。ついには書斎のオーガまで?!


 オーガからすれば面倒くさげに目を覚ましたら目の前に人間が二人ブレックファーストいるのだから、そりゃあ叫びますとも───!!


「なんてタイミングだよ!」

「ど、どうするの?! ジェイクさんたちの所までいくの?!」


 エミリィの言わんとすること。

 見つかった者は仕方がないと諦め、いっそこのまま突っ込んでしまおうというある意味男らしい決断だ。


 だけど、


「ジェイク達の状況が分からない! もし追い詰められているなら、これ以上オーガをつれていくわけにはいかない───!」


 だから、

「逃げながら戦闘するよ!」


 ジェイク達を放置していくことも出来ない。

 ならば、オーガを倒しながら向かうしかないッ!


「ええ?! 無理無理ぃぃ!!」


 とか言いつつも、既にスリングショットを構えたエミリィ。

 殺傷力抜群のボウガンのボルト弾をつがえると連続射撃!


 書斎内にいて寝起きで動きの鈍いオーガを立て続けに3匹仕留める。


「氷魔法が効くなら戦えるッ! エミリィ───まずは、こいつらを殲滅するよ!」


 増援が来る前にね……!!


「わ、わかった!」


 ビィトの意志が固いことを感じ取ったエミリィは素早くビィトと位置をスイッチする。

 書斎内のオーガをビィトに任せてエミリィは回廊部分を警戒するのだろう。

 何も言わないうちに自然と互いの死角を庇いつつ戦闘スタイルを組み上げていく。


 警戒と探知はエミリィの仕事。

 敵の殲滅はビィトの仕事だ。


 ゴルゥァアアアアアア!!

「寝てろッ!」


 不意急襲を受けて3匹を失ったオーガ。

 しかも、寝起きゆえか状況が分かっていない個体もいる。


 そんなチャンス逃すはずがない!!


 ビィトが左手に無手のまま魔法を練り上げていく。

 ピキピキピキ……と、冷え渡る気配を感じつつ、さらに冷気を高めて「氷塊」を作り上げる。


 あまりに魔力を高度に練成するものだから「氷塊」の氷魔法はまるで水のようにユラユラと蠢く。

 一見して固体のそれは弾力のある冷気のボールのように見えた。


「寝起きに、───冷たい水を一杯どうだぃ!!」


 ノロノロとした動きに追従し、顔面目掛けて発射!!

 青白い光が尾を引きながらオーガに向かって飛び───。



「グル─────────こぁ?」



 ビシャアぁぁあ、と当たった瞬間奴の顔面がピキピキと音を立てて凍っていく。


「効くなぁ……魔法耐性がないとここまで効くものなのか?」

「いや……お兄ちゃん……」


 エミリィが首だけで振り向いてジト目。

 ……いや、だってさ───。


「これ下級魔法なんだもん───」


 そう、自分を卑下しつつも慣れた様子で魔法を練成し、次々に発射。

 効くと分かれば下級魔法の「氷塊」くらい何発でも撃てる。



 ぐるぁぁ?!

 ぐぁぁあ?! 


 

 頭部に氷塊を食らった個体は即死。

 身体に当たった連中もたちどころに動けなくなりそのウチ根元からぽっきり。


 あっという間に数を減らしていく。


「お──コイツ……」


 しかし、奥にいた一体がようやくまともの反撃開始。

 凍り付いた仲間の死体を担ぐと盾の様に構えて突っ込んできた。


「なるほど! そう来たかッ」


 盾ごと凍らせてもいいがさすがに少々時間が───!


「うらぁぁぁっぁあああ!!」


 増援が来るまでいくらも無さそうだ! 一気にケリをつける。

 残り一体!!


 ビィトの手から次々に「氷塊」が乱射される。

 それは凍り付いたオーガをさらに凍らせていき、奴の地肌が完全に白く染まるほど───。だが、それは盾にされたオーガで、その後ろにいるオーガがまだまだ健在!


 氷が浸透していき、冷気が盾を貫いて後ろのオーガも凍らせ始めているが───盾を噛ましている分、冷気が届きにくい!


「ならば、」


 接近戦だ!!


 スパッと、闇骨王の杖を抜き出し構えると突進するオーガにビィトからも突進。

 相対速度であっという間に距離が迫る。


「ぐるぉぉおおおおお!!!」

「そこだぁぁぁああああ!!」


 白く凍り付いたオーガの身体を棍棒の様に構えるオーガ。

 そこに目がけて低い姿勢から突っ込むビィト。


 闇骨王の杖に「魔力刃マジックブレード」を展開し、汎用性の高さを生かして「氷塊」の魔力を纏わせる。


「直接ぶつけてやるぁぁああ!!」


 凍ったオーガの身体を避けると懐に飛び込み「氷塊魔力刃」をぶち込んでやった!


「ぐる──────……」


 ビキビキビキ───……!!

 瞬く間に着弾箇所から凍りだすオーガ。


 直接内部から「氷塊」の魔力を浴びたのだ───そりゃあ効くだろうさ。


「よし! エミリィ───こっちは殲滅した!」

「うん! まだこっちには来てないよ───」


 だけど、

「何体かは気付いているからすぐに囲まれちゃう!」


 そうだろうさ……。

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