第67話「なんてこった、下から見るなッ!!」
───違うから!!
え、ええええ?!
エミリィちゃん、怒ってる……?
「まえにお兄ちゃん言ってたよね? 魔力を注ぎ込めば威力があがるって」
そりゃそうだよ。
当たり前のこと。
だから、火球は思いっきり火力を強くし熱量を最大限に強化しているし、氷塊は最大限まで低温になるようにしている。
もちろん、普通の火球と氷塊にそこまでの熱量と低温もない。
あくまで、ビィトが独自に付け足した効果で、魔力とそれを練り上げる時間が必要だ。
当然、一夕にできるほどではないが……、そんなもんは練習次第だ。
下級魔法しか使えないからこそ、最大限そこだけは努力し、練習を重ねた。
その気になれば、こんなもん……誰でもできる事だと思う。
「だからぁ!! 下級かもしれないけど、威力は物凄いんだって!」
そ、そうかな?
いや、でも───ゴニョゴニョ。
「そうなのッッ!────あ……来た!」
くッ!
わ、わかったよエミリィ!
「た、確かに効いたんだし……た、試すだけなら!──やってやるぅぁぁぁああ!」
闇骨王の杖を媒介にした魔法行使。そして、無手による片手での魔法行使。
その二刀流をもって魔法を練り上げる!
ピキッ───。
ピキキキ……!
急激に下がる温度に、燃えたオーガの死体からでる余熱と合わせて霧の様なものが発生しはじめた。
異臭とともに白い霧とも蒸気ともつかぬものが視界を覆い尽くしていく!
「す、すごい……!」
エミリィの感嘆する声を励みに、ビィトは一気に魔力をこめた。
急激に悪くなった視界の中───。
「エミリィ肝煎りだ! 恨むなよー」
白く美しい輝きの氷塊が二つ。
それは、もはや塊というよりも、一個の生物のようにドクンドクンと鼓動が波打つように形を不規則に変えていく。
「撃ったらどっかに当たるわぁぁあ!!」
───ビィトは物ともせず乱射開始!
ぴきぴきぴき……………──発射ぁぁあ!
ガガガガガガガガガガガガガガガン!
まるで、凍った液体のようなそれは、真っ直ぐにオーガの群れに突き刺さる!
ギラギラとキラキラと輝くそれは、真っ白のシルエットとともに、霧の中へ飛び込んでいき、影法師のように浮かびあがるオーガの群れに突き刺さっていく。
「「「ごるぁぁぁあ?!」」」
霧の先ではオーガどもが困惑の声を上げているらしい。イマイチ効果は実感できないものの、気流の影響で不意に霧が晴れた合間に───。
「ご、ごるあぁぁあ?」
「ぐる、ぐるるる!?」
まるで氷像のように体を白く染めたオーガが数体!
図体のデカさから即座に全身を凍らせるほどの効果はないものの、命中した箇所が凍り付き動けなくなっているらしい。
「うっそ……マジで効いてる?」
「もう! そう言ってるでしょ? お兄ちゃんは凄いんだよ?!」
そ、そうかな?
「それよりも、逃げ道見つけたよ!」
ここぞとばかりに、氷塊を乱射しまくるビィトにエミリィは告げた。
この子、戦いつつもちゃんと逃げ道を探っていたらしい。
「ほ、本当ッ?! よ、よし────ここを殲滅したら案内して!」
「倒さなくてもいいよ。あの向こうではオーガ達が凍り付いて身動きできなくなってるから」
ユラユラと不規則に漂う霧が戦場を隠したり明け透けにしたりと───。
だがエミリィには関係ない。
優れた五感。
その中でも、嗅覚と聴覚が見せるもの。
そして、探知系のスキルでエミリィには霧の向こうが見えるらしい。
「そ、そうか……! 通路中にギッシリいるから前列が凍り付いて、後ろの連中が動けないんだな!」
「うん、そうだよ!……だけど、長くはもたないかも────」
え?
「「「ごるぁぁぁああ!」」」
霧の奥のシルエットが不規則に揺れ動いたかと思うと、ガチャーーーーーーーン! とガラスの割れるような音。
そして、ゴロゴロとビィト達に転がってきたのは、半身が割れ砕けて半死半生のオーガだった。
「ご、ご……」
致命傷を負ったオーガの瞳孔が開いていく……。
それを見ながらビィトは戦慄した。
「アイツら! な、仲間ごと押し切ろうっていうのか?!」
連中の仲間意識がどれほどかは知らないが、少なくとも人間を捕らえようとする気持ちの方が強いらしい。
しびれを切らした後続が、前列の凍り付いた連中を蹴り飛ばしたのだろう。
結果───哀れな連中が仲間によって割り砕かれている。
「た、確かに長くはもたなさそうだな……」
ダメ押しとばかりにビィトは霧の奥に氷塊を乱射。
後続に当たれば儲けもの程度に考えてブチかましてやった。結果は知らない。
「今のうち! こっちだよ、お兄ちゃん」
エミリィは身を翻すと、台所に駆け戻る。
え? でもそっちは───。
「ど、どこに?! そっちは行き止まりだよ」
台所から逃げられないからこんな所で戦っていたのに、また戻るのか?
「うん! さっきは気付かなかったけど、こっち! ほら、見落としだよ──」
ゴメンね、とすまなさそうな表情のエミリィを見ては、ビィトにはそれ以上追求できない。
それよりも、
「逃げ道って、排水溝くらしかないよ?」
「そこは駄目だよ。湖に直結してるだけだし───そっちじゃなくて、」
エミリィは巨大な竈にかけよると、上を指さす。
「ッ!! そ、そうか……煙突か!!」
竈があるんだ。
排煙装置があるに決まっている。
ジェイク達が隠れていそうな所ばかりを重視していたため、およそ隠れるに適していない場所を排除していた。
それがために見落としていたのだ。
だが、考えようによっては煙突の奥も隠れられないこともない。
「こっち! お兄ちゃん、ロープを貸して」
エミリィに言われて、長いロープを何束か差し出したビィト。
でも、どうやって上るの?!
「大丈夫。これくらい手掛かりがあれば……ヨイショ」
エミリィは手早くロープを腰に結わえるとスイスイと壁を上り始めた。
そして竈の上に到着すると、彼女の持ち物である七つ道具から小さなハンマーと太い釘のようなものを取り出す。
「何カ所かロープを引っ掛けるから、お兄ちゃんはそれで登ってきて!」
ポカンと見上げるビィトを尻目にの、あっという間にロープを掛けていくエミリィ。
台所の外ではオーガの唸り声が聞こえるが、連中が仲間を割り砕いてくるまでにはもう少し時間がかかるだろう。
その間に、なんとか煙突の中に逃げ込めそうだった。
エミリィに言われるままに、ロープをよじ登り竈の上に立つ。
その頃にはエミリィは煙突の中に入り込み、新たにロープを垂らしてきた。
速いなんてもんじゃない。
まるで、壁を上るヤモリだ。
感心しているビィトだが、グズグズしている時間もなく、エミリィのいうとおりにロープと釘のような物を回収し、さらに上へ上へと登っていく。
ビィトには、まるで垂直の壁にしか見えなかったものの、──なるほど……確かに石組の壁の間にはいくつかの出っ張りが見える。
だけど、
「こんなのを登ろうなんて、普通は考えないぞ……!」
慣れない
まだまだ、煙突の先は長い。
この先もひたすら登らなければならないが、ひとまずオーガどもから身は隠せたはずだ。
あとは、エミリィの助けを借りてい登っていき、ロープを回収すれば煙突の中に逃げ込んだ痕跡は隠せる。
「エミリィ、上手くいきそうだね────ぶッッ!!」
ヒョイっと上を見上げたビィト。
そこには、割と間近にエミリィがいて────……おっふ!
下から見ちゃダメだこれは!!
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