第66話「なんてこった、効くわけないって!!」
───さて、ここからが本番だ!
オーガの遺棄死体は最前列やらを含めて約10体ほど。
とすれば、残りは約40体。
コイツらは最前列の肉癖───仲間の体を盾に、その背後に護られて無傷の連中だ。
さすがに遭遇時の最初ほど遮二無二突っ込んでくるほど愚かではない。
……ないが、数にものを言わせてジリジリと圧力をかけてくる。
「「「ぐるるるるるるるる!!!」」」
一刻も早くビィト達を食べたいとでもいうのか、仲間同士で牽制しあいつつも涎をダーラダラと零していやがる。
怖ッ!!
だけど、ビィトがそれしきで怯むはずもない!!
何を躊躇する?
怯えも躊躇も諦めもないッ。
───ここからが下級魔法の本領発揮だ!
「「「ぐるぅぁあああ!!!」」」
堰が切れるように、オーガが徒党を組んでの再突撃───……!
その鼻先に、
「──打ち止めだと思ったか? 甘いッ!」
『火球』を放とうとするビィト。
だが、
「ダメ! まだこっちを探しているオーガがいっぱいいるんだよ! そいつらが皆来ちゃう!」
勢いこんで連打を叩き込もうとしたビィトはズルリと転けそうになる。
だがエミリィの指摘はもっとも。
今更な気もするけど───。
「とにかく、まだこっちを察知してないオーガもたくさんいるの! だから火はダメぇぇえ!」
ぐ……。それもそうか───。
エミリィの言うとおり。
コイツらを倒して終わりならそれもありだが、後続はいくらでも来る。
そいつらをさらに呼び込んでも、キリもないし、仕方もない。
だからって、
「───で、でも撃たなきゃ連中は倒せないぞ!?」
「嘆きの谷のゴブリンを思い出して!」
ゴブリン?
ゴブリン……。
ゴブリン、ゴブリン、ゴブリン…………。
ゴブリンと言えば……ベンのケ────。
「──あぅあぅ。お兄ちゃんが別なこと考えてる気がするよ。…多分それじゃなくて、」
おっふ!
鋭いねエミリィちゃん。
「──たしか、赤いゴブリンを凍らせてたでしょ?! 私覚えてるッ! た、多分、あの氷魔法が効くはず!」
えぇ?!
そんな便利な魔法じゃないよこれ。
「いや、あれは──たまたま、魔法抵抗力の弱いゴブリン程度だったから凍らせられたんだけど……」
「もぅぅう! 違うから!! お兄ちゃん、自覚してないけど──」
おぅふ……。
エミリィちゃん、土壇場に来てプリプリしないの。
「──多分、無茶苦茶強いよ?!」
はい??
「………………え? 誰が──??」
はぁ、とエミリィがため息をつき、チョイチョイとビィトを指さす。
ん?
後ろ??
いや、誰もいないし───。
え?
まさか、
「──俺?……いやいや、それはない。絶対ないよ」
謙遜でもなんでもなく、本心から否定するビィト。
だが、そんなビィトをジト目で見るエミリィ。
二人の間になんとも言えない空気が漂った瞬間───、
「「「ぐるぉぉぁああああああ!!!」」」
無視してんじゃねぇ! とばかりにオーガ達が咆哮する。
そして、それを合図にしたかのように、慎重に迫っていた連中が同時多発的に一斉に突撃開始。
最前列の仲間が魔法と狙撃でやられたというのに、もうそのことを忘れたかのようだ。
もっとも、元々が好戦的なオーガだ。
しばらくとは言え、慎重に行動していた方が驚きだ。
「くっそ! 後退! 後退して凌ぐよ!」
もう、第二派がくるまでそう時間もない。
「いいから! 氷を撃ってぇぇぇえ!」
だから無理だって!
「───早くぅぅう!」
……あ、あぁ!───もう!!!
わかったよ!
エミリィが言うから、とりあえず一発だけ撃って────残りは水矢と石礫で接近戦だ!
ピキピキピキ……。
牽制のため、左手からは石礫をばら撒き足を鈍らせるとともに、闇骨王の杖には滅茶苦茶高度に練成した『氷塊』を生み出す。
確かに嘆きの谷ではクリムゾンゴブリンが面白いくらいにカチンコチンに凍り付いていたけど、
「あれはゴブリンの魔法耐性が低いからであって────」
発射!
「──普通のモンスターに、は早々効かない…」
パキーーーーーーンと命中ッッ!
直後。
「ぐるぁぁあ?!」と、オーガの困惑した悲鳴を聞いたかと思えば、
「え? 嘘……」
目の前の光景が信じられないビィト。
あの巨体を誇るオーガの足が氷ついていた。
しかも、片足とはいえ、膝下に直撃した氷塊が足裏に至るまで真っ白に凍り付いている。
おまけに地面に張り付くほどの強烈な威力だ。
「ええええええ?!」
「ほらぁ! 言ったでしょ!」
カシュン! と空気を切り裂く音とともに、エミリィが発射したベアリング弾がオーガの脛を強かに打つ。
すると、
「ぐごるぁおぁおぉあああ?!」
ガシャーーーーンと、盛大で涼しげな音を立てて奴の足が砕け散った。
血すら凍りするほどの威力。
足の中までほとんど凍り付いている。
「コイツらも魔法耐性が──」
「違うから!!」
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