第64話「なんてこった、結局迎撃戦闘か!」
──す、すすす、すっごい沢山来るよ!!
無茶苦茶焦った声のエミリィ。
その表情は尋常ではない。
「ま、マジ?」
ダラダラと汗を流すエミリィの顔を見ていると、それが冗談などではないとわかる。
そもそも冗談を言う子ではない。
つまり───……。
「な、何匹くら──」
ドドドドドドドドドドドドドドド……!
「「「「ぐるぅぁぁぁぁあああ!!」」」」
────あ、はい。
「に、にげ────」
エミリィは顔面蒼白。
逃げるのを提案しようとしたが、
「──れない!?」
え?
何行ってんの君ぃ??
「ま、まだ時間はあるんじゃ?」
「時間んん?! 無理ぃ! 無理、無理!」
う、嘘ぉん?!
「ダメだよ! あちこちから来る! お、おおおお、追い詰められちゃったかも……!」
チラリと周囲を窺うと、確かに……。
(場所が悪すぎるか……!)
地形的な制約があるのだ。
ここは確かに不味いかもしれない。
なんせ、入り口は一カ所。
台所の構造上立て籠る場所もない。
防衛には適しているかもしれないが、逃走には不利となる。
くそ!
(探せッ! 考えろ───)
何か……。
何か手があるはずなんだ!
隠れるか?
脱出するか?
いや…………。ダメか!?
コンロや水瓶はデカすぎるし、排水溝はどこへ続いているかもわからない。
───ぐるぅぁぁああああ!!!
ズシン!
ズシン!!
ズシン!!!
オーガの群れが近づきつつあるのだろう。
まるで、牙城全体が振動しているようだ。
(───だ、ダメだ!)
もう時間がない!
タイムアップだ!!
「クソ! 連中一気に突っ込んでくるぞ!」
「ど、どうしよう?」
俺が聞きたいよ!
あーもう!!!
「エミリィ!」
そうだ!
───エミリィだけなら隠れることも出来るかもしれない。
少なくとも、エミリィをやらせはしない。
この子だけでも守らなければ!
エミリィの隠蔽スキルも、リズほどではないにしてもかなりのモノ。
「お兄ちゃんの考えてることわかるよ!」
───私、嫌だよ!
エミリィはそう言って全力で拒否する。
「隠れたって解決にならないもん!」
そうだ……。その通りだ。
例え、うまく隠れたとしてそこからどうする?
なんとかやり過ごしても、あの数で隅々まで捜索されればいずれ見つかるだろう。
くそ……。やっぱり、
「──や、やるしかない!」
「う、うん!!……で、でも!」
す、すごい数だよ!?
エミリィの言葉どおり、物凄い数がここに向かっているのだろう。
振動と気配で、それは十分察せられた。
(たったの一発で……!)
たった一発、『小爆破』を使っただけでこれだ!
よほど人間が食いたいのか、それとも耳障りなのかしらないが、オーガの奴ら大げさに過ぎる対応だ。
ちょっと確認とばかりに通路を覗き込むと──。
「「「「ぐるぉぉぉおおおおおおお」」」」
ひ、ひえ~……!!
「やばい! あれはヤバイ!」
ビィトの目から見てもあの数はヤバイとしか言えない。
牙城の通路を埋め尽くさんばかりのオーガがここに殺到してくるのだ。
数は──────、
「い、いっぱいとしか言えない……」
やるしかないとは言ったものの、あの数を相手にビィトたちだけで捌ききるのは不可能じゃないだろうか。
元Sランクの冒険者。
だが……。
所詮は下級魔法しか使えない器用貧乏ッ。
しかも、音も出せない。火も使えない。
そんな制約だらけで勝ち目なんてあるわけが────。
制約?!
「……いや。今更、もう関係ないか!」
そうとも、今になって音だの火だの言っている場合じゃない。
──もうとっくに気付かれているんだ。
「エミリィ! 打って出るよ! 君は援護しながら、逃げ道を探ってくれないか?」
「え? ほ、本当に戦うのぉ?!」
信じられないものを見る目でエミリィは首を振る。
それでも、へたり込まないだけ大したものだ。なんだかんだでこの子もかなりの死線を潜っている。
ベンの元にいた頃もそうなのだろう。
奴のパーティが全滅に近い損害を出してもこの子だけは生き残ったらしい。
つまり、エミリィは生存能力にかけてはピカ一なのだ。
「だ、大丈夫! 任せて───今度も切り抜けて見せるさ」
そうとも……。
さっき、エミリィが言ったのだ。
ビィトがゴブリンの大群を相手にしても一歩も引かなかったと────。
オーガもゴブリンもサイズが違うだけ!
……やってやる!!!
「いくよ! 袋小路で戦うのは最後の最後。まずは距離を稼ぐ!」
壁に追い詰められたら負ける。
たがら、まずは空間的優位する!
言うが早いが、ビィトは牙城の台所を飛び出すと、通路に躍り出る。
奥まった位置にある台所は、続く道がたったの一本!
そう、目の前の通路しかないのだ。
つまり左右や背後からの強襲はないので、ここで踏ん張っている限り側面と後背は安全なのだ。
「ここが正念場!!」
闇骨王の杖を手に両手を広げて、ここから先へは進ませないぞと意志を示す。
もちろんエミリィ守るためだが……。
「私も戦うッ!」
「エミリィ?!」
いや、援護して欲しいけど肩を並べて戦わなくてもいいんだよ!?
「大丈夫だよ。探知なら戦いながらでもできるし、私も援護くらいはできるから!」
エミリィの探知スキルは大きくわけて、二種類。
広範囲型と精密型があるらしく、さっきまでは部屋の隅々までを捜索するため、広範囲型の探知を止めていたが故の失敗だ。
それくらい真剣にジェイク達を捜索してくれていたのだろう。だからエミリィのミスではない。
追い詰められたのはビィトのミス。
彼女の能力をすべて把握せず、任せっきりにしたためだ。
捜索に集中するエミリィとは別に、ビィトがスキルによらない五感による警戒をしていればオーガの接近に気付くことができたはず。
「ごめんね? エミリィ」
「え?」
「いや、……なんでもない」
そうだ。
謝ってもしょうがない。それらを呑んでこそのパーティ。
ビィトとエミリィだけのパーティ。
お互い、たった一人の仲間なんだから。
さぁ、
「──いくよ! 俺の取りこぼしだけを狙撃して!」
「わかった!」
キリリリリ……と、エミリィがボウガンの矢をつがえて引き絞る。
「
彼女は腰にボウガン用の矢筒を装着し、緊急用のベアリング弾は首から下げた巾着袋にいれている。態勢は万全だ。
更に闇骨弓は背嚢の取り付け、いつでも使えるように準備していた。
エミリィもビィトも中・遠距離タイプの後方職なので、パーティとしてのバランスは悪いものの、こと連射力に欠けてはどちらも優れている。
今できることは白兵戦に引きずり込まれる前に、どれだけのオーガを減衰できるかが鍵だ。
少なくとも──、
「大丈夫! エミリィには指一本触れさせないッ」
そうだ!
もう、音も火も関係ない。
派手にぶっ飛ばしてやる!!
「「「ぐるぅあぁぁあぁぁあああ!!」」」
来る────────……。
「…………」
「…………」
…………ッ!?
───そこだぁぁぁああ!
石礫は効果が過小ッ!
ならば、ビィトの
魔力充填、熟練度MAXで狙撃────!
「ぶっとべぇぇぇえええ!!」
闇骨王の杖にキラキラとした魔力が集まり、ビィトの気合と共に発射される。
さらに空いた手には『火球』を生成。
効果があるかどうかは知らないけど、生物相手に火は有効だ。
とくに、このダンジョンでは火の気が全くないためオーガの連中は火に対してほとんど見聞きしたことがないはず。
こけおどしにしかならないだろうけど────……雑魚相手になら、「火球」は腐るほど使っているから、意識せずとも最大威力で発射できる。
まずは、小爆破で攪乱してからのぉぉぉ────。
発射ぁぁあ……───ズドォォォオン!!
大挙して押し寄せるオーガどもの目の前に小爆破が着弾!
一匹がその爆撃によってもんどりうって倒れるも、ほぼ無傷。
さすがに距離があり過ぎて直撃には至らなかったようだ。
だが、やつらの図体のデカさからして距離などあって無きが如し。
何匹かが、倒れた仲間に蹴躓いて倒れるも、その影響は微々たるもの。
仲間を踏みつけ次々に現れるオーガの群れ!!
ちっぽけな人間を相手にしながらも、食欲全開で涎を撒き散らしながら突っ込んでくる!
「かぁぁーらぁぁぁーのぉぉぉおお!!」
───火球ッッッ!!!
小爆破で足止めしてから、すかさずぶっぱなすのが火球だ!
ビィトはオーガの群れに目掛けて『火球』を連続して撃ち込む────。
ここは一歩も通さない!!
「おらぁぁぁぁあああ───!!!!」
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