第６２話「なんてこった、縛りがキツすぎる！」
一撃で仕留めるッ────！！
だけど、制限つきッ……。
このダンジョンで戦うなら、
音は出せない！
火も使えない！
水矢も石礫も、静かで高威力だが、
「────デカい敵には効果が薄いッッ」
くそ！
オーガ相手には相性最悪だ！
時間を掛ければ水矢も石礫も効果的だが、敵増援までそう時間もないッ。
「だから接近して仕留める────」
身体強化、脚力増強──腕力強化ッッッ。
───ダンッッ！！
オーガまでの距離を駆け抜け、一気に踏み込むビィト。
手には闇骨ナイフを抜き放ち、慣れない白兵戦を挑む。
「ぐるぉ？！」
まさか、獲物から突っ込んでくるとは思わなかったのか、オーガの奴は驚愕に目を見開く、
「貰った────……な！？」
軽く跳躍し、逆手に構えた闇骨ナイフでオーガの首筋を狙ったビィト。
だが、慣れない刃物の扱いはオーガからすれば見え見えで、ビィトの雑なモーションを見越して奴が手にぶら下げていたアリゲーターフィッシュの切り身をぶん投げてくる。
「ぐぁ！？」
直撃軌道にあったそれを、間一髪切り裂くも攻撃の動作は一挙動遅れる。
そこにすかさず、オーガがショルダータックルの構えでビィトを吹っ飛ばしにかかる！
「ぐるぅぉぉぉお！！」
クソッ！
切り裂いた魚の切り身────目の前で二つに分かれていくアリゲーターフィッシュ。
その間から体を現したビィトだが……まさに、そこに目がけてオーガの分厚い肩の筋肉が迫りくる。
こなくそぉぉお！
「たりゃぁっぁああ！！」
クルっと空中で体を丸めたビィトは、足を揃えてオーガの肩に着地。
ショルダータックルの衝撃を足裏で受け止める。
そのまま、足をばねの様にして衝撃を吸収し、ほんの少し跳躍距離を増やしただけでタックルを捌き切ると、オーガの目の前に躍り出る。
「ぐるぁぁあ？！」
ブチかましたと思った獲物が、軽業の様に目の前に現れ、一瞬オーガの思考が停止するも、───そこは流石にモンスター！
切り替えが実に素早い。
──死ねぇぇ！ とばかりに両手を組んで、大上段からの、筋肉のハンマーを振り上げる。
だけど───、
「見え見えだ！ 遅ぉいッ！」
モーションが見え見えなのはお互い様。
反撃を───いなすッ！
そして、戦術変更。
現状、一撃で仕留めるのは無理ッ！
まずは確実に仕留める。
「ぐぉぉおおおおん！！！」
ブシュウ！ と黒い血しぶきがあがり、オーガが苦悶の声を上げる。
だが、
「ぐ！ は、刃が────通らない？！」
所詮、ビィトは近接戦闘の素人。
慣れない武器を使っても、玄人のように扱えるはずもなし。しかも、相手はオーガ。そのうえ、骨格の中でも特に頑丈な脚の骨に素人の刃が通る道理もない！
───ちくしょう！
「お兄ちゃん！ 来たッッ。オーガが来るよ！！」
クソッ。間に合わなかったか。
「「ぐるぉぉっぉおおおおお！！」」
増援登場。
ちぃ！
……こうなったら、静かに仕留めるどころじゃない！
「え、エミリィ！ コイツを頼むッッ」
「えぇ？！ ま、またぁ？！」
そうだよッ！
手伝ってくれよッッ。もう！！
闇骨ナイフをオーガの足に残したまま、そいつをそのままエミリィに押し付け、後続の敵と位置をスイッチしたビィト。
オーガの股座を駆け抜けると、今しがた傷つけたソイツの背後に回り、背中合わせになる。
すると、正面────台所の入り口から二体のオーガが突っ込んできた。
「もぉぉぉぉお！！ お兄ちゃん！ そっちは任せたからねッ」
そう言ってエミリィは怒りつつも、渋々手負いのオーガを引き受ける。
慣れた動作でスリングショットを引き抜くと、「
（エミリィなら、一体くらいなんなく倒せる！ だから、俺はコッチを────）
手持ちの魔法を素早く選択。
音を出さない、火を使わない──という縛りを失くしたとしても、２体同時に相手をするのは難しい。
ゴブリンくらいの小型種なら、下級魔法でも十分なのだが、
「デカいモンスターと俺は相性最悪なんだよ！」
なんせ下級魔法。
ゴブリン程度なら追い払えるけど、オーガには威力不足。
（水矢で一体ずつ仕留めるしかないかッ）
筋肉が分厚くとも、至近距離で連続照射すれば首の一つくらいは切り落とせる。
それまで、オーガが大人しくしてくれる保証はないけど────！
「うりゃあぁああ！！」───くらえッ！
高圧縮水矢……発射ぁぁあ！！
「ぐるぁぁぁあ？！」
ビィトの両手に現れた水球を警戒してオーガが両手でガードを作る。
だけど、
「それくらいなら、貫けるッ」
シュバァァ！ と、圧縮された水流がオーガのガードごと腕を切り裂く。
……切り裂くも、
「ぐ！……こ、この距離では威力の減衰が激しいか！」
二体目を警戒して中途半端な距離から発射したため、水矢の威力が著しく減衰。
薄皮一枚切り裂くに止まり、骨まで貫けない。
そのうちに、もう一体が接近し、ビィトに強烈な蹴りを放ってくる。
「うお！」
ブォン！ と風を切る音に背中に冷や汗が流れる。
こんなもん喰らったら内臓破裂で、口からモツを「ドピュ──」っと噴き出すぞ！
「おおおお、お兄ちゃん？！ な、なんで、火球や氷塊を使わないの！？」
「火は、連中に勘付かれる！ それに威力不足だよ！ 氷も一緒────って、」
いつの間にかエミリィが手負いのオーガを仕留めていた。
脳天に突き刺さったボウガンの矢。
そいつが貫通し、あっという間に一体を撃沈。
……ビィト以上の高火力だ。
う、
「──うそぉ？！ エミリィ凄いじゃないか？！」
「えええぇ？ も、門番に比べたら、こんな連中……」
エミリィは顔中を「？？」だらけにして驚いている。
そ、そりゃぁ苦戦してるけど……。ゴブリンと違って、コイツらみたいに図体のデカい連中だと、下級魔法が早々効くとは思えない。
だけど、
「───負けてらんないな！」
気合とは裏腹に、ビィトのほうは振るわない。
身体強化のお陰で脚力と腕力があるからチョコマカと逃げ回ることができるも、まともにぶつかっては複数のオーガを相手にするには役不足過ぎるらしい。
一対一ならともかく、複数の敵を相手取るにはビィトの火力は乏しすぎるのだ。
一体目に気を取られていては二体目に足を掬われる。
結果、逃げ回るしかないのだが────。
「ちょ、ど、どうしたの？！ お兄ちゃん何やってるの！？」
エミリィの驚きが分からない。
「え、エミリィ！？ わ、悪い──援護してッ！」
エミリィは目を丸くしているが、すぐにスリングショットを構えるとボウガンの矢を装填。
オーガの脳天を狙う。
「えぃ！」
───カシュン！
空気を切る擦過音を残して、エミリィが放った矢が、スカァァアン！──と、オーガの耳から侵入し、脳を一瞬で貫く。
「ぐるぉぉ？」
ドズゥン……！
脳幹を破壊されたオーガはその一撃で撃沈。
エミリィは次なるボウガンの矢を構える。
ま、マジ？
エミリィちゃん超強くない……？？
「じゅ、十分だ！」
一対一なら負けないッ！
……──手数で押し切る！
「らぁぁぁぁあああああ！！」
一対一なら、これで十分！
───得意の石礫だぁぁぁあ！
ドシュン……！
高圧で練り固めた石礫が拘束発射され、オーガを貫く。
ブシュウウ……！「ぐぉぉおおッッ」
さすがに動く目標相手に、脳天を貫く技術はビィトにはない。
だが、巨大な目標はどこに向けて撃っても、まず当たるッ！！
奴が苦悶の悲鳴を上げる頃には、一発目がオーガの肩口を抉り取った。
（イケる！）
すぐに第二弾を射撃────かと思う間に、オーガの野郎が防御姿勢に移りやがった。
「このぉぉお！ ハチの巣にしてやる」
うおぉらぁぁぁあああ！
──ズダダダダダダダダダダダダダダ！！
「ぐるろぉぉおおおおおおおお！！」
ドバドバと黒い血しぶきがあがり、オーガが苦悶の声をあげる。
高圧縮で練り上げられた石礫はオーガのガードを軽く貫通して、肉を削り取っていく。
いくが────……！
「た、タフだな──コイツ！」
門番戦のように、弱点目掛けて至近距離で撃ちまくれば倒せるかもしれないが、中途半端な距離ではオーガに致命傷を与えられないらしい。
いずれ倒せるにしても────！
「く！！」
真っ黒な血を流しながら、オーガが鋭い突きを放つ！
ドガァァン！ と、床が弾け飛びビィトは攻撃を止めて背後に飛ぶ。
しかし、飛んだ先にエミリィが！
「きゃ！」
「うわ！」
二人して絡み合ったまま床を転げると、お互いに頭を強かに打ってしまう。
チカチカと点滅する視界の中、
「ご、ごめんエミリィ……」
「いたたた……──あ！」
逃がすか！──そう言わんばかりの憤怒の表情でオーガが追撃に移る。
ドクドクと血を流す表情はまさに悪鬼が如し！
「お、おおおおお、お兄ちゃん！ ど、どうして、一気に仕留めないの！？」
「ち、違────……お、俺はデカいモンスターとは相性が悪いんだよ！」
門番のような隔離された場所ならともかく、音もだせない、火も使えないとなると、使える魔法はおのずと限られてくる。
「ええええ？ だって、嘆きの谷じゃゴブリン相手に一歩も引かなかったじゃない？！」
「ゴブリンとオーガは違う……！───く、来るッ」
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