第61話「なんてこった、捜索が難航している!」
話は少し遡って、ジェイクと合流するまでのビィト達。
彼らは「悪鬼の牙城」内を隅々まで捜索している最中であった。
今も、エミリィがスキルと五感を併用しながら、ジェイク達の気配を走査している。
………………。
「……どう、エミリィ?」
真剣な眼差しのエミリィはピクリとも動かない。その様子に、ついにビィトは痺れを切らせてエミリィに声をかけた。
「うん…………。いないと思う」
壁と床に手を付けて、気配や生き物の立てる振動を感知していたエミリィはションボリと答える。
「そっか……。ここが一番可能性が高かったんだけど。────うん! 次に行こう」
ビィトの自信に報いるべくエミリィは奮闘していたのだろう。
あらゆる探知スキルを駆使し、この『悪鬼の牙城』内の「台所」を探知してくれたのだが、人の気配はまったくなかった。
「ごめんね……。あ! でも、もしかして見落としがあるかも!」
エミリィがいうには、気配などを完全に遮蔽する隠蔽スキルを使われると、エミリィのスキルでは見落としが出るかもと言うのだ。
だが、ビィトは既に見切りをつけていた。
可能性としてはある。
確かにリズの隠蔽スキルによってジェイク達が隠されている可能性は捨てきれない。
捨てきれないかもしれないが……。
「──いや、いくらリズでもここまで完璧に痕跡を消すことはできないよ。……リズ一人ならともかくとしても、ジェイクやリスティは隠蔽には無頓着だったからね」
まったく無頓着というわけではないが、「
そのためか、リズがいくら痕跡を消したとしても、ジェイクやリスティは時折、その苦労を台無しにする行動を度々していたのだ。
排泄の処理やら、飯の後片付けやら。
夜の運動会やら……───。
人間の生活ではどうしても消し切れない
それをいかに消すかが暗殺者や盗賊の仕事なわけだが、その仕事に敬意を払わない以上、完全に隠れるのは無理があった。
「大丈夫。多分、ここにはいないよ」
「ホント? 私、探してもいいよ?」
エミリィは労を惜しまないと言う。
隅から隅まで探して見せるというのだが、
「なんとなくわかるんだ。ほら、見てよこの有様────」
周囲に散乱する冒険者の残骸。
バラバラになった人骨に、乾いた大便のあと。
オーガによって食われた冒険者の末路だ。
「多分……、ここはオーガの食事場所か、便所代わりに使われているんだと思う。それも割と最近ね」
以前に来たときはここまで荒廃していなかった。だが、今この光景は、見るもまぁ酷い有様だ。
オーガ連中の、彼らの生活リズムがどういった物かは知らないが、ダンジョンは人間がいないときに修復が行われるという。
その噂が本当なら、ジェイク達がこのダンジョンに居座り続けているため、オーガ達の生活リズムが崩れているのかもしれない。
いつまでたっても、片付かない大便のあとに破壊された箇所。
それがそのままであるということは、つまり、まだジェイク達は生きていることかもしれない。
もし生きているなら、オーガの往来も激しいのだろうこんな場所に好き好んで隠れるとは思えない。
(まぁ、ここが入り口から一番近い場所なんだけどね……)
もっとも、ジェイクのことだ。
救助などアテにせず、潜伏し、自活する手段を選んだ可能性もある。
そう、
「──だから、ジェイク達はもっと奥か……目立たない場所に隠れていると思うんだ」
「うーん、確かにそうかも……?」
エミリィは自信なさげに頭を傾げるも、ビィトの意見にことさら反対もしなかった。
「うん。まずは目星をつけたポイントを全て探してみようと思う。それでも見つからなければ、またここから捜索してみよう」
「はーい!」
素直なエミリィちゃん。
この子がいないと捜索もままならないけれども、あまり時間も掛けていられない。
隅々まで探すことも重要。
だけど、まずは広域を捜索することが大事だと思う。
こちらが見つける事よりも、むしろ近くまでビィト達が行くことでジェイク達に気付いてもらう方が確実だ。
(ま。……それでジェイクが出てきてくれるかは、また別だけど)
パーティから追放されたことは、シコリとなって残っている。
その件については、お互いに
ビィトにだって思うところがないわけじゃない。むしろ、ジェイクには言いたいことが山ほどある。
だけど、それとこれは別だ。
だから、
「───よし! じゃ、次は牙城内の応接室を────……」
ビィトが元気よく次の場所へ行こうとしたその時、
「ぐるるるるるるる…………」
通路からノッシノッシと顔をだしたのは汚い体色をした中型のオーガ。
そいつが一体だけ。
って───。
ええええ?!
え?
嘘……!
な、なんで接近に気付かなかった?
「え、エミリィちゃん?」
「ん? あ────」
な、なによ「あッ!」って。
あ──って何よ?!
「た、探知は? その────敵の……」
「ご、ゴメンなさい……リズさんたちの探知に集中してて」
シュンとしたエミリィ。
だが、そんな殊勝な態度など知らぬとばかりに、オーガがヌゥと部屋に入り込んでくる。
これから食事をしようと言うのか、ぶった切られたアリゲーターフィッシュの切り身を片手にノッシノッシと────。
「ぐるぅぅ……?」
そこで初めてビィト達に気付く。
そして、喜色を浮かべてビィト達をみる。
まるで、
おお! オカズみーーーっけ! と言わんばかり。
「ぐるぁぁ?!」
おいおい。
魚持ってるんだから、それ食っとけよ!!
だが、オーガは頓着などせず、節操なしにビィト達を襲わんとする。
「ぐるぅああ!!!」
その唸り声からも、明確な食欲を間近にヒシヒシと感じる。
「くっそ! 気付かれたッッッ!」
「ごめんなさい!───ひゃあああ!」
エミリィは素っ頓狂な声を上げて飛び上がる。
ノッシノッシと迫るオーガ。
涎は口からダーラダラ。
えええ……。
ビィト達を食べる気満々じゃないか?!
……そりゃあ、まぁオーガですからね。
奴らはオーガ。
オーガは人食い鬼。
つまり、お魚よりも人間が好物なようで────。
「ぐるぁぁぁぁああああああ!!」
至近距離で雄叫びを上げるッ。
そりゃあもう、久しぶりの人肉に涎を垂らさんばかり!
ちぃ!!
「迎撃するよ! エミリィは周辺警戒───敵の増援に注意ッ」
「わ、わかった!」
エミリィの探知は精度が高いけれども、同時に多数の行使は無茶だったらしい。
近距離の探知に特化してジェイク達を捜索していたがゆえに、遠くから接近しつつあるオーガの気配を見逃してしまったのだろう。
その性能をビィトが知っていれば、代わりに警戒していたのだが、今さら後の祭りだ。
そもそも、エミリィの能力に依存し過ぎてしまった。
つまりはビィトのミス!!
だから、ミスら取り返す、
「───仲間を呼ばせはしないッッ」
静かに、そして素早く仕留めるよッッ!
「お兄ちゃん! 後方からも2体接近──距離……約10秒!」
上等!
10秒もあれば簡単だ!
「一撃で仕留めるッ────」
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