◆豹の槍23◆「なんで、旨そうなんだ!」
「お肉♪ お肉♪」
リスティの鼻歌が潜伏場所から漏れ出てくる。
そこに合わせるように、
「ぎゃーーーーーーー!! ヤメテ、止めてください! ジェイク様ぁぁあああ!!」
物凄い絶叫が漏れている。
「うるせぇ、黙れッ! おい、リスティ! てめーも手伝えや! クソうるさい口くらい塞いでおけッ」
「はーーい! うるさいお肉だねー♪ ジェイクぅ───ほらぁ、さっさと絞めちゃいなよー!」
リスティがリズを拘束し、
ジェイクがリズの腹に足をかける。
そして、ユラリと刀を振り上げたジェイク。
一方のリスティは、ジタバタと暴れるリズに苦労しながらも、実に楽しそうに彼女を背後から羽交い絞めし、口を塞ぎつつヘッドロックをかける。
リスティの細腕でも、やせ衰え衰弱したリズには振りほどくことができないらしい。
「うむーーーー!! むぅーーーー!!」
それでも必死に暴れるリズ。
抑え込むリスティもリズの涎でベチャベチャになりつつも、汗だくの顔で拘束する。
リズは文字通り必死で抵抗するも、リスティとて意地でも拘束は解かない。
「くッ! このぉ……! 首をへし折るわよッ」
「おおおい!───ヤメロッ! 殺すんじゃない!!!」
リズの変色した脚に刀の刃を当てていたジェイクは、憤怒の表情で振り向くとリスティを睨む。
「な、なによぉ? 食べるんだし、さっさと絞めちゃおうよ!」
「ふぇ……ふぇいくふはま(ジェイク様)……?」
殺すなという言葉に不満を持つリスティと、一抹の希望を見出したリズ。
しかし、
「殺したら、すぐに腐るだろうが……! その日食う分だけ切り出す。そうすりゃ、何日かは新鮮な肉が食えるぜ」
もっとも、残酷なことを言い出す……。
リズを切り刻みながらも、暫くは生かしておき────。
肉を取り出し、本人がいるその目の前で食おうというのだ。
焼いて、
煮て、
干して、
蒸して、
生で食おうというのだ。
まさに鬼の所業。
しかし、ここには鬼しかいない。
リスティに至っては、
「あー! なるほどぉ!! さっすがジェイクだね」
その提案にキャッキャと喜色を浮かべるリスティ。
そして、絶望と恐怖に顔を沈めるのはリズ……。
顔色は蒼白。
髪は…………。
「お? なんだこりゃ?」
「あれ? あれれー? リズったらお婆ちゃんみたい」
ミリ……。
ミリミリミリ……───。
もはや、凄まじい恐怖に急速に増えていく白髪。
だが、リズにはそんなことわからない。
あるのは恐怖。
ただ、ひたすらな恐怖!
「ひぁ! ひぁああ! プハッ……! や、やめてぇぇぇぇぇぇぇええええ!!」
何とか拘束を解き叫ぶも、
「黙れ! オーガに見つかるだろうが! 連中には指一本くれてやる気はないッ」
……俺達で、食うんだからな!
「あはははははははははは! 凄い凄い! 今日はリブステーキ! いえいえ、リズステーキだぁぁあ!」
「ばーーーか! 焼いて食うわけないだろッ。まずは熟成肉の生ハムさ! ははははははははは!」
「「うひゃはははははははははは!!!」」
チョンチョン、と刃を落とす場所にあたりを付けつつ、狂ったように笑う二人。
リズは目を回しそうになる絶望の中で、最後の最後まで抵抗する。
「やだぁぁあ! やだよぉぉお!! お願いします! お願いします! お願い、お願い、お願い、お願いお願いお願いお願い! 食べないで! 食べないでぇぇぇええ!」
ジタバタと暴れても、ジェイクとリスティに抑え込まれているのだ。
もう、どうにもできない────。
「おーおー……! 活きがいいねぇ!」
「すごいねー! 凄いねー! プリプリだよぉ! うふふ……腹抜きで正味量はいくらかなぁ?」
ナデナデとリズの腹をさするリスティ。
邪魔な
「ばーか。ちゃんと
「あー! そっかぁあ! 大腸を洗って血と混ぜてブラッドソーセージにしてもいいねぇぇえ!!」
ぎゃはははははははははははははは!
あははははははははははははははは!
嫌だ!
嫌だ!
嫌だ!
嫌、嫌、嫌、嫌、嫌嫌嫌嫌嫌ぁぁぁあ!!
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!
「いやだ、いやだ! ヤメテェェ! やめてぇぇええ!……び、ビィト様! ビィト様、ビィト様ぁぁぁああああああ!!」
あああああああああああああああ!
うわぁぁぁああああああああん!!
子供の様に泣き叫び懇願し、ビィトに助けを求めるリズ。
だが、
「ビィトだぁ? はははは! あのクズが来るわけねぇぇだろうが!」
「兄さんに助けて欲しいんだぁ? ざ~んねん。とっくに解雇しちゃったわよぉ♪」
暴れる姿さえ、スパイスだと言わんばかりに、詰るジェイク達。
リズティは嘲笑い、ジェイクは吐き捨てるように言う。
それが、彼らの中でのビィトなのだ。
だが、信じている!
信じているのだ!
リズは信じている!!!
この中で誰ひとりとしてビィトの救援を信じないとしても。
いや、ひとりだけは信じている!
ジェイクもリスティも信じない中。
たった一人、リズだけを除いて────。
「き、来ます! 来てくれます! ビィト様なら必ず……! だ、だから────」
食べないでぇぇぇええええ!!!
「「いやだ」」
ピシャリと言い切ると、ジェイクは刀を振り上げる。
そして、リスティはリズを抑え込むと同時に止血帯を準備する。
彼女の変色した脚を切り落としたら、すぐに止血するつもりなのだ……。
なが~~~~~~~く、新鮮なまま
いやだ!
いやッッ!
いやぁぁあ、
「───やめてぇぇぇぇぇえええええ!!」
絶叫がこだますも、ジェイクはもう止まらない。
リスティは涎を垂らして、今か今かと待ち構える。
「ひぃぃぃい!!! なんでもします! なんでもさそますからぁぁあ!!」
汚物も食べます!
拷問されてもいい!
あの汚い連中に身体を差し出してもいい!
だから!
「なんでもするから、食べないでぇぇえ!」
「「なんでもするなら、食べさせろよ?」」
だって、皆腹が空いたんだ。
リズにも食わせてやるよ?
お前の──────。
「さぁぁて、フレッシュなのを一本いっとくぜぇぇ!」
「わぁい♪ 生ハムだぁぁあ!」
グァァァァア────と、刀が振り上げられリズの足に……。
「いやぁぁぁあああああ──────……あ、」
絶叫の響くその瞬間───。
ズズン……!! と、牙城が揺れた。
「あん?」
パラパラと天井から埃が舞い落ち、ジェイクに触れる。
「なんだ? 地震────……」
「……ち、違うわ。これ……魔力の気配がするわ?」
怪訝そうに周囲を見渡すジェイクに対し、リスティはスキルで魔力を察知した。
そして、
「こ、この……声は────」
押さえつけられ、顔を壁に押し付けられたリズは、その鋭敏な神経で壁から伝わる遠方の音を察知していた。
「(……! ……ッ……ッ──!)」
ガバッ!
「あっ! このぉぉお!!」
押さえつけていたリスティが思わず拘束を解きそうになるほど、猛烈な勢いでリズが動く。
だが、リズは拘束を逃れるのではなく、リスティの拘束ごと、顔を壁と床につけ音を拾おうとした。
「な、何の真似よ?」
「はッ……観念したらしいな────何が起こってるかなんてどうでもいい……俺は腹が空いたぜ」
ズン!! ズズン!……パラパラ───。
「(……ェェク──────!)」
こ、これは………………!!!!!!!
び、
「ビィト様?!」
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