◆豹の槍19◆「なんでこんなものまで!」
「どうだ?」
「あ……」
鍋の前で恐る恐る火の調整をしているリスティ。
彼女は亡者の様な様相で振り返ると、ジェイクが肩にまとめている物を見て口をあんぐり開ける。
「なによ……それ」
「見て分からんか? 革のベルトに、革鎧に、革のつなぎだ」
はぁ?
「え? ……おに────リズは?」
「奥で休ませている。……いいから、さっさと火力を上げろ!」
バチバチと火が躍っているものの、オーガを警戒してか、リスティの起こしたそれは満足の行く火力ではなかった。
「ちょ、だ、だってどうするのよ! 連中すぐ来るわよ!」
「わかっているさ! 俺が時間を稼ぐ──」
「わかってないわよ! ベルトと鎧で何しろってのよ! はやくリズを持ってき──」
────グルァァァアアアアアアア!!!
ち!
来やがったな!
牙城の奥の方でオーガの咆哮が聞こえる。
火の気ないこのダンジョン内では、ことさら火の音や焼ける匂いは目立つらしい。
かなり奥地からもオーガの気配がする。
「いいからコイツを煮ろッ」
「はぁ?」
ち……学のないアマめ!
「革製品は食える。手持ち
無理やり皮鎧に革のベルトを押し付けると、ジェイクは懐から薬瓶を取り出す。
ラベルには『
「ちょ……! ほ、本気?!」
「やらなければ死ぬ。……そして、その飯に全てがかかっている。──はやくやれ!!」
いい加減、時間がない。
リズは動けないし、ジェイクはオーガを殲滅しなければならない。
調理担当は、リスティしかいないのだ。
「わ、わわわ───わかったわよ!」
……ち。
オタオタと動くリスティを見つつ不安を感じる。だが、現状打てる手はこれしかない。
「──革を煮れば、ゼリーみたいなのが出てくる……それを掬っておけ。いいか? 一人で食うなよ」
「わか…………ってるわよぉ」
スっと目を逸らしたリスティ。
──まぁ、……食うだろうな。
「しばらく離れる。頼むぞッ」
「はいはい」
一気に火力を強めると、グツグツ音を立て始める鍋。
一抹の不安を感じながらも、ジェイクは『
途端に体が熱くなり、ドクン! と一度だけ大きく心臓が跳ねた──。
ドクン、ドクン、ドクン……!
ドクドクドクドクドクドク───!
「ふぅぅぅうう……───」
──ッッ。
イケル!!
激しい高揚感と、万能感と無敵感に血が沸騰する──!!
さらには、衰えていた筋肉が盛り上がり膂力が向上ッ!
動体視力、そして反応速度が一気に上昇し、脳内での処理速度の向上と合わせて周囲の時間がドロリと鈍くなったように感じる。
「き・を・つ・け・て。回・復・は・で・き・な・い・わ・よ──」
リスティの言葉が間延びして聴こえる。
だが、今はどうでもいい話。
それよりも、敵だ!
敵を狩りつくしてやる!!
「うううううううああああああああああああああ!!」
ジェイクの咆哮。
『
副作用がないわけでもないが、現状ではこれしか対抗手段がない。
今のジェイクでは一体程度のオーガを相手にするのがやっとだろう。
集団で襲われた場合はあっという間にミンチにされる自信がある。
だからこその『強化薬』──!
薬が切れた後の猛烈な虚脱状態と飢餓感さえ、目をつぶれば決して悪いものではない。
……噂では怪しい薬も入っているというが────知るかッ。
「シイィィィィィィィィィィイ────!」
鋭く叫び、潜伏場所から獣のように走り去っていくジェイク。
それを呆気にとられたように見送るリスティだったが、不意に思い出しイソイソと革製品を煮込み始めた。
皮独特の匂いが漂い始めるも、既にそれでさえリスティには食欲を催すものであったらしく、浅ましくもダラダラと涎を垂らす。
「あはッ♪」
あははははははは。
あはははははははは。
あははははははははは♪
皮製品の煮える匂い漂う中。リスティの高い笑い声だけがいつまでも響いていた。
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