第57話「なんてこった、門番だ(前編)!」

「てめぇら……! ただで済むと思うなよぉぉお!!」


 ビィトとエミリィが牙城内へ進むとき、背後から怒鳴り声が響く。

 振り返らずともわかる。


 ビィトが倒した「鉄の拳アイアンフィスト」のリーダーが意識を取り戻していたのだ。


 ほとんど捨て台詞だろうが、あまりいい気分ではない。


 だが、エミリィには気に障ったらしく、(襲われそうになった手前当然なのだが……)──嫌悪感丸出しで「あっかんべー」と挑発している。

 

 って、君ぃ……。

 エミリィちゃんが舌出しても可愛いだけだよ?


「相手にしなくていいよ。あいつらはもう終わりさ──」


 ビィトか、あるいは「豹の槍パンターランツァ」の面々が地上に戻って報告すれば彼らに居場所はなくなる。

 すぐに指名手配され、ダンジョンから上がった瞬間に『御用』となるわけだ。


 もっとも、ビィト達や「豹の槍パンターランツァ」が無事に戻れたら──の話だが……。


 いや、戻りを考えている場合じゃないな。

 ジェイク達を捜索しなければ……!


 生きていてくれよ。

「さぁ行こう────ジェイクたちが待」

「──お、お兄ちゃん…………!」


 あ、


 わ、忘れてた──!


 怯えた声を出すエミリィに合わせるように、恐る恐る顔をあげるビィトの目の前には────。


「ぐるるるるるるるるる……」

「ふしゅー……ふしゅー……」


 デェン!!──と巨大なオーガの御姿が。


「やっべ……」


 そうだった。

 悪鬼の牙城の門番──。


 レッドジャイアントオーガ&ブルージャイアントオーガ。


 通称、『赤鬼』と『青鬼』がいた。


「こ、こここ……こんなに、太くて大っきいなんて──」


 エミリィは顔面蒼白。

 今にも洩らしそうに、ガタガタ震えている。


 そして、その様子に気付いた赤鬼がニィと笑い、舌なめずり。

 青鬼は、ビィトをさも旨そうに見つめている。


「こ、こいつらが最初の難関……牙城の門番だ!」


 ビィトがそういうが早いか、

 「ぐるぁぁああ!!」

 「しゅうぅぅうう!!」と、唸り声をあげて二匹の鬼が突っ込んでくる。


「クッ!」


 ビィトは恐怖で硬直しているエミリィを抱えると、横っ飛びに飛んで初撃を躱す。


 異なる武器を持った二匹。

 コイツらは再出現リポップするたびに武器が変わるから傾向が立てがたいんだッ!


 ぐるるぁぁぁぁぁあ!!


 巨大な金棒を持った赤鬼が、渾身のフルスイング。

 バゴォォオオンッ!!! と正面扉を半壊させんばかりの一撃。

 実際、扉が半分吹っ飛んでいった。


 そこにすかさず、トゲトゲのついた刺股さすまたを構えた青鬼が突っ込んでくる。


 こいつ等────!


「連携されるとヤバイ!」


 はぁぁあ……───石礫!!


 高圧縮する暇もなくあり合わせで速度重視でぶっ放す!


 ぱかぁぁあん! と空中で激突しあっさりと割り砕かれるも、刺股の軌道が僅かに逸れて──ビィトを掠って後方に着弾する!


 ズドォォオン!!!


 巨大な質量によって床が爆発!

 その余波で牙城の床がめくれ上がり、破片が降り注いだ。

 

 ……これで一撃だ。

 たったの一撃で、これだ!


「こ、こんなの倒せないよ!」

 エミリィがビィトにしがみ付いたまま悲鳴を上げる。


 だけど、

「こんなの序の口さ!」


 来る!


 赤鬼は金棒を構えなおすと頭の上でブンブンと振り回し────インパァァクト!!


「守ったら負ける!!」


 ──ズドォォォオオン!


 そうだ! コイツら相手に守勢に回ると、必ず足をすくわれる。

 息もつかせない連続連携攻撃はかわすので精一杯。だが、それがコイツらの狙いなのだ!

 戦いの主導権を握られたが最後──必ず、狩り殺される。


 赤鬼は更に振りかぶる。


「エミリィ! 守ってばかりじゃダメだ!」

 ───攻めるよッ!!

「でも! どうやって!」


「ふ、普段ならジェイクが一体を一撃で仕留めて──リズが体裁きで翻弄しつつ、時々必殺の一撃で仕留めてた。……あるいはジェイクが──」


 そう、ジェイクが一体か二体まとめて。

 ときにはリズが、もう一体を仕留める。


 たまに、ビィトは援護射撃を賑やかしにぶっぱなし……。リスティは防御魔法を一応かけるだけ。


 えっと……。


「さ、参考にならないよー!!」


 そりゃそうだ。

 ジェイクの火力ありきでここは突破できるダンジョンなのだから……。


 そんなやり取りの間にも、赤鬼の金棒が────着弾ッ!!


「エミリィ!」

 しまった。

 かわした拍子にエミリィを取り落とし、ビィトから離れてしまう。


 一方で、

 ズドォォオオオン! と、牙城を揺るがす一撃に、ビィトは思わずバランスを崩してしまった。


 だが、それが功を奏したらしい。


 エミリィとビィト。

 そのどっちも隙だらけだが、それが青鬼に迷いを生じさせた。


 追撃されていれば危うい場面だった。

 だが、青鬼の攻撃が一瞬遅れる。


 ど……、どっちを先に殺るべきか──と。


 どっちを優先すべきかって?──────そんなもん、ビィトに決まってんだろうがッ!


 ビィトは青鬼が逡巡した隙を狙って素早く起き上がると、

「エミリィは赤い方を頼む!」


 倒さなくてもいい、一瞬だけ相手してやってくれ!


「──えぇ!? む、無理ぃぃ!」




 いいからやるの!!

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