◆豹の槍15◆「なんで肉が臭い?!」
「はぁ……はぁ……がぶッ」
「あむ……あむ……がりッ」
二人の男女が肉を貪り食っている。
とても食えたものじゃないと言いつつ、
血の滴る真っ黒なそれ────。
新鮮な血肉……。
「うぐ────」
「ぐぅぅぅ……」
おえぇぇぇぇえええええ────……。
ビチャ、ビチャビチャ。
「ブハッ……おえええ」
「ゲホ、ゲホッ……!」
ジェイクは吐き出す。
少しは飲み込めるかと思って、切り取った生の肉。
新鮮なそれは、飢餓に陥った彼にはご馳走に映り────無抵抗の
リスティは吐き出す。
食べたい食べたいと自分で懇願しておきながら吐き出す。
新鮮なそれは、飢餓に陥った彼女には
リズは──────────────。
「おえ……っぅぷ」
口の中に溜まったそれを吐き出すと、忌々し気に床に残ったそれを踏みしだく。
「ちょ、ちょっとやめてよ! 焼けば……焼けば食べられるかもしれないじゃない!」
「うるさい! お前がギャーギャーうるさいから、
足に縋りつく小汚い女を蹴り剥がし、口汚く罵るジェイク。
「何よぉ! 涎垂らして
「知るかッッ!! 俺に聞くな!!」
うるさいうるさいうるさい!!!
腹が減ったんだ、しょうがないだろう!
───食うさ、そりゃあ食うさ!!
「あーあーあーあーあーあ!! ジェイクの人でなしぃぃい!」
「お前に言われたくはない!!──って、何をする!!」
血まみれのジェイクを無視して、リスティはリズが持っていた背嚢をひったくる。
そこには、
「うるさい! 黙っててよぉぉ!!」
僅かばかりのパンはとっくに底をついていた。
最後に食べたのが何日前だったか……。
「あは! あはッ♪ あったぁぁあ!」
あった!
あった、あった!!
そう言って、背嚢からパンの
「何のつもりだ──そんなものとっくに、」
「あは! あははははッ! パン! パンだぁぁ♪」
そう言ってチューチューとズダ袋に吸い付くリスティ。
しかも、残り僅かな魔力を使って水分を生成。
ズダ袋を湿らせて残った香りとパンの粉を吸いつくす。
「おいしい! おいしいよぉ! 臭いお肉なんかと違っておいしいよぉ♪」
おいしい、おいしい! とズダ袋を吸い続けるリスティに、
「───てめぇ……」
ゆらりと、暗いオーラを纏ったジェイク。
そして、
「おい、クソアマ……」
「おいしい! おいしいぃのぉぉお♪」
ドカァ!
「ぎゃああ!」
思いっきりリスティを蹴り飛ばすと、床に落ちたズダ袋を奪い取る。
埃と唾液と床に散った血肉に塗れたそれを奪う……。
「いったぁぁあい……! なにすんのよ!」
「やかましい──寄るなッ!」
スラン──と、刀を抜いたジェイクは、その血に濡れた刀身をリスティに向ける。
さっき吸ったばかりの、血にまみれたそれを……。
「──なによ……やる気?」
血……。
滴る血……。
普段なら血振りもせずに鞘に納めるなど絶対にしないであろうジェイクだが、もはや彼に余裕はない。
そして、刀身を向けられたリスティも……また──余裕など微塵もなかった。
「……お肉と同じように、私も斬る?──やってみなさいよー」
ユラ~~~リと幽鬼の如く起き上がったリスティは錫杖をスゥ──と構える。
青白い光が杖の先端に集まっていく。
「ふざけるな……! 魔力を無駄にする気か?」
リスティは耳を貸さず、ブツブツと詠唱。
完全に殺気の籠った目でジェイクを見据える。
「───文句あるの? ……ないならぁあ、それを返しなさいよッ!!」
もはや、生ごみ以下にしか見えないズダ袋を指すと、神聖魔法をいつでも放てるぞ──と威嚇するリスティ。
それを顔を歪めて、憎々し気に見つめるジェイク……。
本来なら接近戦でジェイク相手にリスティに勝ち目などないのだが、今はどちらも満身創痍。
リスティとてSランクパーティの一員だ。簡単にやられるはずもない。
「……これは俺のモノだ」
そう言ってズダ袋を口に含むジェイク。
酷く血なまぐさいものの……微かに小麦の味がする!
旨い……。
旨いッッ!!
「あーーーーーーーー!」
さも旨そうにズダ袋をしゃぶるジェイクに、リスティが絶望的な声を上げて絶叫する!
「こ、このぉぉぉぉぉおお!!」
神聖魔法を放つことすら忘れて、鬼の様な形相のリスティが襲い掛かる!
振りかぶった錫杖に込められているのは、女性のものとは思えない程──怒りと怨嗟が籠っており、それは強烈な一撃となってジェイクを襲う!
襲うも────……。
パキィィイイン!
と、火花を散らす刀と錫杖。
そして、あっという間に力負けしたリスティが錫杖を取り落とし、勢い余って地面にへたり込む。
そこに、
「げう!!」
ズン!──と容赦ない追撃の
リスティは地面に這いつくばらされて、床に滴る捌いたばかりの血に
「ぎーーーーー! うぎゃーーーーーー!」
それでも、地面を舐めつつ怒鳴り声をあげるリスティ。
闘志は衰えず、むしろ怨嗟を延々と積み上げていくようだ。
「コロシテヤル! オマエヲコロシテヤル」
血まみれの顔をジェイクに向けるリスティ。
しかし、
「あ゛!?」
グィィ──と汚れに汚れ切ったリスティの髪を引き掴むジェイクは、それをブチブチと引き抜きながら耳元でささやく。
「──オマエ
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