★第56話★「なんてこった、こっちに来るなッ!」

 バヒュ──────!


 エミリィの多段撃ちマルチショットが炸裂!


 ビィトを狙っていた鉄の拳アイアンフィストの面々を痛打する──。


「ぐあぁ! いって~……あのガキぃぃ!」

「くそ! 亀甲隊形ダイヤモンド!」

 指揮官交代。


 そいつの指示で盾持ちタンクが集合し、ガガガガガン! と盾で全周を覆う。


 そして、エミリィの射撃から逃れるため再び盾の要塞に籠ってしまった。


 くそ!

 指揮官は一人ではないらしい。


 軍隊の様に階級でもあるのか、すぐに現場で指揮権を継承するとは───!


 鉄の拳アイアンフィスト……伊達にAランクの大型パーティクランじゃない、ってことか!


「えいッ!」


 バヒュ──────!!


 エミリィの多段撃ちマルチショットが再び炸裂───!


 ガン! ゴン! カーン!


 ───さ、炸裂しない……?


「死角を作るな! 密集しろ!」

 盾を組み合わせて隙間を全て覆う連中。


 エミリィのベアリング弾は強力には違いないが、専用の防具を撃ち抜けるほどではない。


 ──くそぉ、硬い!

(……あれは、そう簡単に貫けないぞ!)


 ボウガンでも、ど真ん中にブチ込めば別なのだろうが……。


 「鉄の拳アイアンフィスト」の亀甲隊型ダイアモンドは現状で無敵の防御力だ。


 今度は、そのままの隊型で突っ込んでくるつもりだろう。

 絶対絶命──────!


 なんて、ねー。


 そうだ。それでいいんだ!

 ──────それを待っていた。


 亀甲隊型は読んで字のごとく。


 亀のように全てを甲羅で守る。

 そして、亀のように遅い。


 そう、

 亀甲隊形は防御前進────移動速度は笑っちゃうくらい遅い。


 その隙のビィトは跳ね橋の真ん中にアレ・・を設置する。

 そう────蟻の巣封鎖部隊の残した巻物スクロールの最後の一本。


 『大爆破』の巻物スクロールだ!


 サッと蝋を剥がして魔法を発動────設置完了ッ。


 連中に引っぺがされないように、念のため氷塊で固着させる。


「お兄ちゃん、後ろぉぉおお! はやく!」


 エミリィの援護射撃も敢え無く、盾に弾かれる始末。


「追え! 追え追えぇぇぇえ!!」

「物資がジェイクに渡っちまうぞ──」

「全部台無しだ! 追えぇぇぇえ!」

「殺せぇぇぇえええ」



「「「「うがぁぁぁぁあああ!!」」」」



 物凄い殺気の塊となって突っ込んでくる「鉄の拳アイアンフィスト」の面々。

 ワッワッワッワッワ! と掛け声のまま、盾を構えてビィトを圧殺しようとする。


 だけど、


「一回だけ警告してやる!」

 ビィトは十分に距離をとると仁王立ち。

 鉄の拳アイアンフィストを睨み付ける。


「近づけば命の保障はない! 死にたくないなら、これ以上追ってくるな!」


 だが、それを聞く連中なものか……。


「ぎゃはは、もっとマシな命乞いをしなッ」

「テメェはタップリいたぶってから殺してやるぜぇ!」

「メスガキは俺らが美味しく頂いてやる!」


「「「ひゃははははははははは!」」」


 防御力と人数に裏打ちされた自信。

 鉄の拳アイアンフィストはビィトに負けるなどと微塵も考えていないらしい。


 当然、ビィトの警告など聞く耳を持つはずがなかった。


「足元注意!────ここは『悪鬼の牙城』だけど、」


 そう、…………だけど────、


「──殺人鬼悪鬼以下のゴミ野郎はお呼びじゃないんだよ!!」



 カチ……────。



「あん? なんか足元に……」

「早く進めって、あん?」

「お、おいこれ────!」


 ッッッ────!!


「「「に、逃げろぉぉぉおおお!!」」」


 足元の巻物に気付いた「鉄の拳アイアンフィスト」の連中は慌てて後退。


 盾に武器に一切合切を放り投げての、算を乱しての逃走だ。


 だけど、前に行こうとするやつと後ろに行こうとするやつ。

 さらには盾やら武器がゴチャゴチャになってもう無茶苦茶だ!!


「ば、爆発するぞ!!」

「ひっぺがせ!!」

「無茶苦茶言うな────退けッッ」

「俺が先だ! 退けどけー!」


「「「退きやがれーーー!!」」」


 氷で固着させたせいか、少し破裂時間が伸びたが、大爆破はその効果を遺憾なく発揮するだろう。


「「「ダメだ! 間に合わねぇぇえ!」」」


 橋の上でゴチャゴチャしていた連中も、最後の最後で間に合わないと思ったのか装具を捨てて地底湖に──────。


「「「飛べぇぇぇぇええええ!!」」」


 ──飛び込んだ。


 あ、

 ……全員ね。



 バッシャーーーーン!


 ────ッッズッドォォォォオオオン!!

 


 連中の着水と爆発はほぼ同時。

 跳ね橋が中央でぶっ飛んでいき、地底湖に沈んでいった。


 で、

「うぎゃああああああああ!!!!」

「ひぃぃぃいいぃいいいい!!!!」

「いで! いでえええええ!!!!」


「あぶあぁあああああああ!!!!」


「「「「ぎゃああああああ!!!」」」」


 ────うひゃー……。


(ち、地底湖に──こ、こんなにたくさんアリゲーターフィッシュが?!)


 バシャバシャと群がるアリゲーターフィッシュに貪り食われていく「鉄の拳アイアンフィスト」の面々。


 なんとか数名が命からがら岸に逃れるも、早々に毒が全身に回りのた打ち回っている。


 アレが気に恐ろしき化け物魚──アリゲーターフィッシュの恐怖だ。


 悪食な魚どもは、殺人鬼も好んで食うらしい……。

 そして、猛毒。


 南無三──────。


「大丈夫? お兄ちゃん……」


 満載の荷物を背にへたり込むビィトを労わるエミリィ。


 破壊した橋は容易には跳び越えられないだろう。

 これで「鉄の拳アイアンフィスト」の追撃は防げそうだ……。


 そのうちに残党がぞろぞろと集まり、対岸にいるビィト達を恨めし気に睨みつけていた。

 だが今はどうにもできないだろう。


 この地底湖では、筏を浮かべて渡ることもできないのだから……。


「い、行こう?」

「そうだね……」


 あー…………疲れた──。


 キツイ視線を感じつつ、ビィトはもはや振り返らずに『悪鬼の牙城』の内部に進んでいく。


 外も地獄。

 中もきっと────。


 だけど、ジェイク達がここのどこかにいる。


 「鉄の拳アイアンフィスト」に嵌められて困窮しているんだ。



 ジェイク。

 リスティ。


 ……リズ────。






 今行くから────待っててくれ。






 ギィィィィィイイイイイ────。

 

 そうして、巨大な門扉を開け先に進むビィト達。

 その姿を「鉄の拳アイアンフィスト」の連中がずっと目で追っていた。


 奴らのチャンスはもう訪れない……。


 跳ね橋は自然治癒作用で直るけども……。

 人が見ているところでは決して直してくれない。


 そう、

鉄の拳アイアンフィスト」が居座る限り、ダンジョンを司る何某かはそれを直してくれないのだ。


 だが、連中がそう簡単に諦めるかどうかはまた別の問題──────。


 つかの間、地底湖が真っ赤な血に染まり、また暗い水を湛えていく。

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